社会不適合者の転生 ~二度目の人生でやり直す~

@oisii

第1話

今日も俺は、誰もいない暗闇の道をフラフラと歩いてゆく。


ところどころに街灯があり、周囲を照らす。




「ハハ...まるでこの腐った世の中みたいだな...このクソったれが!」


日頃溜まっていた鬱憤をぶつけるかのように、近くに転がっていた空き缶を踏み潰す。


そうすると、中から黒い液体のようなものが出てくる。




街灯は周囲を照らし、照らされた部分はハッキリと見える、だがその光が届いていない部分はどうだろうか?


遠くなれば遠くなるほどその光の強さは弱まっていく。




その街灯の光を幸運とするならば、俺は今、その光の強さが極限にまで弱まっている場所だろう。


俺はもともと物覚えが悪く、何かを使って応用するなんてものは一切できなかった、だからこそ俺は今までは人一倍努力してきたつもりだった、それなのにこんな状況になってしまった。




俺の家族は幼稚園の頃は、とても普通の環境だと思っていた。


俺の人生で一番マシだったのはやはり幼稚園の頃だろう。




友達とくだらない話をして笑い合い、先生に協力していたずらをしたりして、無邪気に遊びまわった、とても楽しかった記憶が少なからずとも薄くは残っている。




そんな楽しい思い出が詰まっている幼稚園を卒園し、小学校に進学した。


俺は、小学校になってから俺の家族が異常だと気付いた。




入学したばっかりの頃は、新しい友達や、同じ幼稚園だった友達と遊んだが、それはある事によって崩れ去った。




入学して1か月半程経った頃からだろうか?


それは計算のテストだった。




だが俺には全くもってわからなかった。


なにせ、友達と遊びまくって、勉強なんてものはしなかったからだ。




そして、100点中15点という驚異的な点数をたたき出した。


だがその頃の俺は、本当に何がなんだか分からなくて、いつもどうり友達と話し合いながら下校した。




家の扉を開けて中に入る、そして目の前の玄関に腕を組みながら、仁王立ちをしている母親がいた。


「遥斗、今日テストがあったでしょう?見せて頂戴」




俺は背中にあるランドセルを下ろし、中にあるファイルから小学校特有の問題数が圧倒的に少ないテスト用紙を渡す。




そうすると、母親は全身をプルプルと震わせながら、俺に対して問いただす。


「この点数は..何?」




15!と、赤ペンで大きく書かれているところを指で指す。


俺はそれに対して、




「分っかんない」


と、笑顔で答えた。




その瞬間、母親の表情は豹変し、俺の胸倉をつかみ、引き寄せる。


「わかんないじゃ、すまないのよ!」




母親は俺のことを壁にぶん投げる。


ゴンと鈍い音とともに、俺に激痛が走る。




視界が歪み、吐き気や頭がフラフラと揺れる。


口からは、ぶつけられたことにより、口内が傷つけられたため、血が大量に出てくる。




「な......」


なんで?と言おうとしたが、全身が麻痺して口もまともに動かない。




母親は俺の首元をつかみ、引きずりながらどこかに運んでいく。


息ができない、しかも血はどんどん出てくる。




状況を察したのか、母親は舌打ちをし、俺の口元に手を被せる。


「後処理が面倒くさいから、吐き出さないで頂戴」




そうして、俺は勢いよく手で被らされたせいか、反射的に溜まっていた血をほぼ全て飲み込んでしまった


「っんぐ!」




血の独特な気持ち悪いくて、クラクラする匂いがさらに強くなる。


そして母親は俺のことを、部屋にぶん投げた。




「あなたのような子は、ずっと勉強でもしなさい!」


そして、ランドセルを俺に向かってぶん投げる。




中身が空中をまい、俺に当たる。


冷めた目で俺を見た後に、母親は勢いよくドアを閉める。




衝撃音が部屋に響き渡る。


この頃の俺は、一体何が起こったのかわからなかった。




今になって考えてみれば、だたの狂気だろう。


確かに低い点数ではあったが、小学1年生にあんな暴力を振るうとは普通ではない。




母親は確かに、「勉強しなさい!」と言った、俺はそれを実行しなければならない。


だから俺は散らばた教科書やノートを整理する。




幼稚園で親から言われたことには絶対服従、よく考えてみれば、幼稚園の頃から少しずつ小さな異変があったのだろう。




整理し終わると教科書やノートを机に置き、俺はその日はまる一日勉強した。


涙は出なかった、泣けば怒られる、自然とそう思った。


----


俺は、母親から命令された日から毎日勉強した。


理由は、命令もあったが、怒鳴られたくない、殴られたくないから継続できた。




小学校の時は、勉強をしまくった。


テストでは毎回100点とれるようにまで成長した。




だが、それを親に報告すれば、まるでそれができて当然のように言われた、しまいには鼻で笑われた。


もちろん褒めてもくれない。




小学校のテストで満点を取ることは、確かにそこまで難しいことではないのかもしれない。


だが、俺にとっては、今まで全くしてこなかったことをずっとやって、何度も何度もテスト対策をした結果が満点というものになったのだ。




しかも、それを笑われる、それは自分がしてきた努力を否定することと同義ということになる。


だが俺は、一切「褒めて!」や「なんで褒めてくれないの?」なんて言えるはずもなかった。




暴力を振るわれることが怖かったから。


----


勉強に力を入れるようになってから、俺の周りの友達は徐々に減っていった。


「なぁ~遥斗!お前今日遊べる?」




クラスメイトが俺に対して、陽気に提案をする。


この提案に対して、もちろん返事はNO。




「ごめん、今日も無理かな...」


友達は顔を歪ませて、




「なんかお前、最近付き合い悪いよな?なんかあるんか?」


と、不思議そうに尋ねる。




答えは勉強をしなければならないから、というのが本当のことだが、そんなことで誘いを断れば印象がわるくなってしまうため、あくまでも用事という名目で断っていたが、それにも限界というものがある。




しかも、勉強しなければならないことがバレれば、なぜそんなにも成績にしつこく執着するのと言われれば、親から暴力を受けるから、という回答になってしまう。




俺は、暴力を振るわれていることを家族以外の人間に伝えることを禁止されているため、もしそれがバレてしまえば今までの暴力の何倍もの暴力が返ってくる。




「ちょっと持病が悪化しちゃってさ、定期的に病院に行かないといけないんだ...ごめんね?」


こんな理由はもちろん、真っ赤な嘘である、だが最低限の友達関係を保つためには必要なことだ。




手を合わせて、友達に向かって頭を下げる。


「定期的って....ほぼ毎日やろ...はぁ...まぁ、とりあえずまた誘うから、空いてる日があった教えてくれ」




その友達は、別の友達のもとに行ってしまう。


このままで本当にいいのだろうか?これでは友達は減っていく一方、何か対策をしなければ、そう思いったった俺は、とある作戦を企てる。




授業がすべて終わり、帰りの会も終わり、下校時間になる。


帰るときはもちろん一人。




この前までは、たくさんの友達と面白い話をしながらワイワイ帰っていたというのに。


重い足取りで、家の玄関のもとまで歩いてゆく。




扉を開け、中にはいる。


「ただいま...」




返事はない、だが奥から水が流れる音がする。


どうやら母親は皿洗いをしているようだ。




ランドセルを自分の部屋までもっていき、物音を立てないようにそっと置く。


うるさい音を出せば殴られる、そもそも親が不快な気持ちになれば殴られる、そんな環境だった。




俺は母親のもとまでゆっくりと歩いていく。


足が無意識のうちに震えている。




母親が怖くて怖くてたまらない。


だが、ここで逃げれば友達との関係は悪化していくばかり、だからこそ動かなければならない。




皿洗いをしている母親の前に立ち、震えていて、小さな声で言う、


「お母さん...あとで話があるから、皿洗いが終わったら、リビングに来てください...」




母親は首を縦に振り、俺に対して、シッシと手を振った。


どっかに行け、という意味だと理解した俺は、リビングのソファーに座る。




全身の震えが止まらない、とまるどころかさらに震えが強くなっている。


自分の提案を母親に聞かせれば、一体どんな反応をされるだろう。




笑顔で賛成してくれるか?それとも普通に賛成してくれるのか?


そんな前向きな考えなど、皿洗いを終えた母親の機嫌を伺えばすぐに消えていった。




俺の目の前にある、もう一つのソファーに足をくみ、座る。


「で?何の用?あなたは私と話すこと以外にやることがあるでしょう?」




そっけない態度で言い放つ。


「そのことなんでけど...」




自然と声量がちいさくなっていく。


やっぱり怖い、何をされるかわかったもんじゃない。




「何?私は忙しいんだから早めにすませて頂戴」


さらに母親の威圧感が増していく。




「一週間に1度だけ、友達と遊ぶ日を作ってもいいでしょうか!」


これが、友達との関係を保つために俺が企てた計画。




お母さんは、俺が歯を噛みしめてまで言い放った提案を鼻で笑い、


「あなたは友達と遊ぶ以前にやることがあるでしょう?」




俺はその言葉に対して、抵抗するために、自分の意見をいおうとする、


「それは!...ちゃんと両立させ...」




「黙らっしゃい!」


ぺシン!と軽い音が部屋中に響く。


頬に激しい衝撃とともに鋭い痛みがやってくる。




「私の言っていることがわからないの?あなたには遊ぶなんていうくだらないことをする以前に大切なことがあるって何回言えばわかるの?」




俺は、そういわれて返す言葉が見つからなかった。


最初に低い点数を取ってしまったのは完全に自分だ。




自分がしたいことだけをして、大事なことをすっぽかしてしまったのだ、責任は俺にある。


そう理解した俺は、黙って自分の部屋まで歩いて行った。


いつもよりも足が重かった気がした。


----


小学校を卒業し、中学校へと進学。


レベルが高い中学校に進学することができたが、俺の周りには誰もいなかった。




それもそうだろう、なにせ勉強以外家でやっていることは、食事、歯磨き、風呂、就寝。


生活の必要最低限の行動しかしていない。




今話題のゲーム、動画、服装なんてものは微塵も分からないため、会話がかみ合わない。


これによって新しい友達ができにくくなってしまう。




そんな状況になっても、俺はずっと我慢した。


殴られるのが怖いから。




さすがに中学生にもなれば、体が成長し、親にも一方的に殴られるということはないだろうが、頭の中に親に対する恐怖心がコべりついている。




だから命令には従っている。


だが、次第に親に対する抵抗心は増幅していった。




まぁ、結局はボコボコにされてしまったが。


けがをしたとしても病院には行けない。




俺に対するDVがバレてしまうのが怖いからだろう。


俺が、親に対して抱いている恐怖心と同じように。




そして、中学校にもなると、授業内容が複雑かつ難しくなってくる。


だから俺は、勉強時間を伸ばし、睡眠時間を削り、良い成績を維持した。


----


中学校を無事に卒業する。


俺は、プログラミングなどの仕事をしてみたかったので、工業専門学校に入学した。




入試ではなく推薦で入学したため、試験はしていない。


そのかわりに面接を行った。




少しコミュニケーション能力が足らないという指摘があったが、問題なく入学することができた。


しかし、工業専門学校というだかって、専門用語ばっかで、授業スピードも中学校とは比にならないレベルで早い。




そして、一番最初の定期テストは僅差で2位という結果になってしまった。


親に報告すれば、もちろん殴られた。




どんだけこの親は、息子を殴るのが好きなのだろうか?


もう、睡眠時間が2、3時間という程まで自分を追い詰めた。




だが、結果は変わらない。


どうして?どうして?どうしてこんなに努力しているのに報われない?




こうして悩んでいたところで、誰も慰めてはくれない。


結局1位のやつをテストの結果で抜かせるようになったのは、4年生の後半だった。




やっとあいつからもぎ取った1位、だが達成感は微塵もなかった。


1位を取ったからなんなんだ?




そもそも、なんで俺は1位を取るためにがんばってきたんだ?


俺は、親の命令に従って行動をしてきた。




だが、俺が自分の意志で何かを成し遂げようとしたことはあるだろうか?


俺は、テストで1位を取ってから、何をすればいいのかがわからなくなり、頭がおかしくなってしまった。


----


高専を卒業し、仕事に就いた。


それは、俺が新しく済むことになった物件の近くにあった、IT企業だった。




だが、その企業はかなりひどいブラック会社だった。


残業は息を吐くようにし、休日出勤は当たり前。




だが、それでも仕事があることは幸せだと自分の体に言いつけて継続した。


最初の頃は、こんな劣悪な環境なのに、先輩に迷惑をかけて、手取り足取り教えてもらっていても、間違ったりして、とても面倒くさい男と思われているんだろうな~と思っていた。




少し仕事内容にも慣れてきて、失敗も少なくなったころに、課長から一つ頼みごとをされた。


「遥斗君...すまないがこれをやってくれないか?」




1つの資料を渡される。


「すみません課長、これって僕の担当じゃありませんよね?」




俺が担当している仕事とは少し似ているが、内容は俺がやっているものよりも手間がかかる仕事だった。


「ごめんねぇ、遥斗君、上からの指示なんだ、そこをなんとかね?」




課長が頭を下げる。


それに驚いた俺は、その仕事を引き受けてしまった。


そこから本当の地獄が待っていた。




そもそも自分の仕事を終わらせるだけでも限界だったのに、それ+担当外の仕事が入ってくる。


これにより残業時間は増加、しかし残業代は増えても増えても給料は増えない。




しかも、それに追い打ちをかけるかのように課長から渡される、別担当の仕事が増えていく。


最初の頃は1つだったが、時間が経つにつれて1つずつ増えていく。




気づいた時には6つや7つになっていた。


しかも、課長が俺に対して別仕事を依頼する態度も変わっていった。




最初の頃は、丁寧に頭を下げて頼んでいたが、今ではそれが俺の担当している仕事の様に渡してくる。


しかもひどいときにはトイレに行ってる最中に、自分の机に大量の資料が置かれていた。




これにキレた俺は、課長と直接話し合った。


「課長、いい加減に僕に別の仕事を依頼するのはやめてくれませんか?」




強めの口調で言う。


だが課長は、それを鼻で笑い、見下すような視線で、




「いいかい?君は僕の後輩で、僕は君の先輩なんだ、君だって上下関係は理解してるだろう?」


「それでもです!!仕事の量だっておかしいじゃないですか!!僕だって自分の仕事で大変なんですよ!」




「君のことなんて知ったこっちゃない、とりあえずがんばってね~」


手を振り、部屋から出ていく。




俺にはまだ仕事が残っているため、会社に残った。


そのあとに、となりの席の藤川から、衝撃の事実が言い渡された。




「なぁ...遥斗..お前さ、あのデブがしていること、わかってんのか?」


「え?...上からの命令じゃないのか?」




課長から言われたのは、あくまで上からの命令で俺に仕事を依頼しているとのことだった。


「んなわけないだろ、さすがにブラック、いやまっくろくろすけのこの会社のお偉いさんでも、あんなくるってるほどの仕事の量はないよ」




「じゃあ、なんだっていうんだ?」


「あのデブが、自分から仕事を集めているんだよ」




「は?..でも、その仕事の手柄って俺の物って報告はされてるだろう?」


「察しが悪いな...お前がやってた別担当の仕事、課長自身がやったのかのように報告してるらしいぞ」




「........本当か?..それ?..」


自然と手に力が入る。




「ああ、もうみんな知ってるぞ」


そう言われた瞬間に、俺の何かが壊れた。




あのクソデブに何とかして一矢報いたい、そうして俺が行きついた結果は、SNSで晒すことだった。


さすがにデブの写真や名前などは晒さなかったが、どのような行動を俺に対してやったのかというのをできるだけ細かく書いた。




結果は大反響、いいねが1万もついた。


あの時は、一矢報いてやったと、とてもすがすがしい気持ちになった。




だが、それはすぐに消えていった。


いつもどうり会社で仕事をしていると、デブから呼び出しをくらう。




「遥斗君、ちょっといいかね」


「はい、なんでしょうか?」




デブは胸の近くにあるポケットから、スマホを取り出し、とある画面を俺に対して見せつける。


「この投稿、君のだよね?」




そこには、1万いいねがついた、俺の愚痴の投稿があった。


まぁ、結果的には即解雇されてしまった。


----


職を失い、無職になってからは、自暴自棄の生活を送っていた。


ゲームをして無駄に時間を潰し、惰眠を貪る。




だが、次第に貯金も底を突き、ついに誰かから金を借りなければならない状況になった。


親を頼ろうとしたが、父親に、




「お前みたいな出来損ないはただの恥だ!二度と関わるな!」


と、蹴られたり殴られたりして追い出された。




これでも父親は政治家だった。


お金はあるが、俺には貸したくないということだろう。




親を頼ることができなかった俺は、親戚の家を回った。


だが、結局は追い出されてしまった。




再就職も考えた、このままではだめだと思ってはいる。


だが行動することができない。




そうして、知っている親戚の家を回ったが、もう全員に「出ていけ!」と言われてしまい。


知っているなかで、最後の親戚に突き飛ばされて、今に至る。




いつの間にか踏み潰した空き缶から出ている黒い液体が、靴に染みついてしまった。


俺は空き缶を蹴る。




「はぁ...どうしよう...」


ため息をつき、空を見る。




そうすると、俺の前に、黒いスーツを着ている、いかつい男が近づいてくる。


「あなたが、坂木 遥斗さんですか?」




「あ..はい、そうです」


そういうと、その男は俺の腹にパンチを喰らわせる。




「っぐ!」


膝をつき、呼吸を整える。




後ろから足音が聞こえる。


すかさず後ろを向くと、そこには俺のことを殴ったやつと同じ服装の男が2人いた。




「なんですか!?あなたたちは!?」


その男たちが無言で俺に近づいてくる。




正面の男からは殴られ、うしろの男達は、ナイフなどを使って、俺のことをめった刺しにする。


何がおこったかわからないまま意識が遠くなっていく。




なんなんだよ...ふざけんなよ....死にたくねぇよ...


その意志とは真逆に意識は遠のいてく。




そうして、謎の男達によって、俺は殺された。

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