#03 真っ白な

「ふふふ。今日はタツナミソウな日ですの。でも花言葉の意味は聞かない方がいいですわ。ただし、とても面白い経験ができるのではとだけは言っておきましょうか」


 アクシデントだとか、


 タツナミソウの意味は知らない方がいいと言われてしまって恐くなる。


 嫌な予感しかしない。


 というか、朝、野乃実という謎の人物から脅迫を受けて寒くなっていたところに雪で追い打ちをかけられ、更にハウとホワイからの脅しで心の臓が絶対零度へと歩を進めてゆく。このままではバナナで釘が打てる。いや、釘にパチンコ玉が打てるぞ。


 ……ただ、やはり同時に思うのだ。


 四つ葉のCVこと、野乃実が、あのバイザーに挟まっていた紙を僕に送ったとするのならば、何故、あのようなヒントになるものを送ったのかとだ。あの紙があったからこそ、紙に、忙しいところ申し訳ありませんと書いてあったからこそ、


 僕は、この事件での隠されたトリックに気づけたのだから。


 まあさ。


 色々、あんじゃんか。あんまり気にすんなや。ケンダマン。


「とにかく、早く、乗った、乗った」


 とハウにぐいっと背中を押される。


 押されるまま、後部座席に収まる。


 ハウも続いて、僕の隣へと収まる。


 ホワイは前方をキッと睨んで言う。


「走り屋、ホワイ、いざ推して参る」


 は、走り屋だってッ!


 というか、ホワイさん、なんか変なスイッチ入ってません?


 大体、走り屋、ホワイとは初めて聞いたぞ。そんな一面もあるのか。ああ、でもフー一家は車好きだから、あり得ない話じゃない。けど、車好きを通り越して走り屋までいっちゃったか。いやいや、普段の優しいお姉さん像は、どこにいった?


 灰色探偵ダニットの中で一番、おしとやかなホワイさんは?


 一体、どこへ、だぞ。


 ああ、あそこか。隠れたお日様から更に隠れるように今は寝ている、お月様にか。


 あそこで真っ白なウサギさんと遊んでらっしゃる。アハハ。


 嫌な予感しかしない僕は、なんて変な事も考えてしまった。


 まあ、どうでもいい。


 本当に。


「フム。とにかく、山口君、昨日、わたくしが最後に授けた助言をよく自分なりに咀嚼して、自分なりの結論に達しましたね。嬉しく思いますよ。誇りにすら思います」


 とフーがゴルゴの助手席に収まる。


 褒められて嬉しくなる。なるが、同時にゴルゴの内装を目にして、また嫌な予感がクラウチングスタートを切り、レッドゾーンを越える。そう。ゴルゴの内装は、まさに走り屋仕様だったわけだ。敢えて詳しくは避けよう。心底、恐くなるから。


「ウフフ。では逝きますわよ。レディ・ゴーです」


 てかッ!


 その逝く止めて。行くにしてぇぇ!


 フロントガラスに舞い降りる雪たちが、また僕の視界を真っ白にした。

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