#09 見えない

 そうだ。


 僕は、ネット上でフルネームの公表はしていない。名字だけだ。山口と。にも拘わらず、今、CVさんはフルネームで僕を呼んだ。山口堅太さんと。てか、どこで知ったんだ。いやいや、よく考えると、昨日、さようならといった時も……。


 というか、若中野野乃実って誰だ?


 車の中に紙を置いたのが、彼女だとするならば身近な人間なのか?


 昨日の内に僕の車に細工できる人間はと考えると絞られてはくる。


 だけども、僕が気づかなかっただけで、昨日の朝、ふわふわを出た時点から僕らをつけてきていて隙を見て紙を忍び込ませたとするならばフー達でなくても実行可能だ。いや、そうなってくると、どこの誰であろうと実行可能にも思えてくる。


 だからこそ、若中野野乃実という人間が誰なのか分からなくなる。


 僕は、逐一、CVさんと連絡を取り合っていたのだから。だからか。そうなのか?


 CVさんは、解決を望んではいなくて、昨日のあの時点で解決に限りなく近くなったからこそ去った。無論、あのあと僕がゲームを投げ出すと踏んでだ。でも、なんとか復活して、再び、解決に向けて動き出したからこそ、また連絡をしてきた。


 しかし、


 敢えて自分が黒幕だと明かして、名前も名乗って。


 無論、若中野野乃実は、偽名なのかもしれないが。


 そして、


 事ある毎に僕らの目の前に現れては消えていったブラウン・マジェスカとCVさんが去っていた意味が、今、ようやく僕の中で繋がった。当然だが、CVさんが最後に残した言葉がブラウン・マジェスカだったというものも、また得心がいった。


 つまり、


 あのブラウン・マジェスカの運転手こそ、CVさんであり、CVさんこそが……。


 マジか。


>ふふふ。


 また彼女からのメッセージが来る。


 今は逆にソレが恐い。


 スマホを持つ手が震えてしまい、ともすればスマホを落としてしまいそうになる。


 ガクガクと膝が笑う。


 キミは、ダレなんだ?


>山口さんが若中野野乃実という名の真の意味を知る事は、おそらくないでしょう。しかし、ヒントだけは出しておきましょうか。私は、いつもあなたと共にあった。


 待ってくれ。待てッ!


 いつからホラーになったんだよ。背筋が凍って寒気が止まらない。


>すぐ近くで共に行動していた。無論が口癖で、ふむっとふむむが途中から口癖になったのも知っていますよ。フフフ。まだ分からないかしら? ほら、そこに……。


 僕は、この瞬間も、どこかから見られているのかと心配になって、辺りを見回す。


 冷や汗をかきつつ必死で首を左右に大きく振って。


 ブ……、


 ブラウン・マジェスカなんて、どこにもいないぞ。


 どこなんだよ。どこにいるんだッ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る