#08 3年以上前

 缶ジュースは例によって、


 カッシュッと音を立てる。


 そのまま、ごく自然な流れで、ポンキッスを口にする。


 ゴクリ。


 うむっ。


 そうだな。このままでは、さすがに不親切極まりない。


 少々、補足しておこう。まず一つ目の助言なのだが、それは推理の仕方。特にトリックに関してだな。二つ目は僕が出すであろう答えの答え合わせの仕方。三つ目は、まあ、……これは一言だけだったから、やはり保険としてとだけにとどめておく。


 兎に角。


 僕は唖然としたままフーを見つめ立ち尽くす。いまだ言葉を失い。


 その様を見たフーが言う。


「フフフ。よろしいですね。今、わたくしが言った事を忘れなければ奈緒子さんの事件は、なんら問題なく解決できるでしょう。フム、くれぐれもお忘れなく、です」


 その後、


 沈黙という名の役者が舞台に上がって、いくらかの場を支配する。


 数秒の間、場で、繰り広げられる演目が沈黙なる演劇。


 無論、沈黙を破るのは元気ッ子なハウだと思った。が。


 意には反しホワイが口を開く。愛らしい歌声のようなさえずりで。


「そそ。ヤマケンさん。その缶ジュースの話なのですが」


 ほへっ?


 いきなり話しかけられてしまい間抜けな顔をさらして素っ頓狂な声が漏れてくる。


 気を取り戻す。なんとか。


「なんだ? いきなりさ?」


 うむむ。


「フフフ。ヤマケンさんの分だけ3年以上前のものとなります。すでに賞味期限がきれておりますの。ですから気を付けて下さいまし。朝の二の舞にならなぬよう」


 ブハッと派手にもポンキッスを吐き出す。


 マジか。


 ガガガ。


 少しだけだろうが、ハウにも被害があったようで憮然とする彼女。


「汚いな、ケンダマン。この服、お気になんだぞ。最悪。いくら、あたしらが性悪でもウソに決まってんじゃん。意味のない事はしないよ。そうでしょ、姉貴?」


 手についたそれを弾き飛ばすよう手を振る。ブンブンと音を立て。


 一方、ホワイは高らかに笑い、言い放つ。


「あらあら。ごめんなさい。ヤマケンさんに渡したものがそれだと思ったのですが、どうやら勘違いのようです。ハウ、あなたに渡したものが、それのようです」


 オホホ。


 と左口角に右手をあてて。


 すでにポンキッスに口をつけて飲み干しそうになっていたハウも派手に吐き出す。


 ブハッ!


「マジか。あり得ねぇ。姉貴。嘘だよね?」


「というか、私たちが性悪でも意味のない事はしないって言ったのは、どこのどなたかしら? それに意味があると思っているのですか。それは、どんな意味ですの?」


 まあ、ハウを責める口調と論調だが、すなわちウソですわと言いたいんだろうな。


 ちょっとだけだが、ハウが可哀想だった。

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