Chapter15 空白
#01 孕む狂気
12月20日 午後3時56分。
「フムッ」
と、フーが静かに目を閉じる。
何かを待っているようにも感じるが、同時に深く考え込んでいるようにも思える。
いや、こういう時の彼は、何らかの策を張り巡らしていてハマるのを待っている。
まだ短い付き合いだが、この性悪の考えそうな事は、それ位だろう。
だからハウとホワイへと視線を移すと今はフーに任せるべきだという表情で明後日の方向を向いてしまっている。やっぱりな。間違いない。さて、では、僕は、一体、どうするべきなのかとも考えるが、まあ、待つしかないと落ち着く。だから黙る。
待つ。静かにも、その時をだ。
「さてと」
では、最後にこれだけは聞いておきましょうか。
などといった思惑が透けて見える二の句を繋ぐ。
「フム。飽くまで確認に過ぎないのですが、秀也君が、事件当夜、一正君の車を追っかけ回した時の状況を出来るだけ詳しく、お教え願います。よろしいかな?」
あの間にも、やはりと言うべきか、隠された意味があるんだろうな。
僕には、なんなのかは一切知らされていないし、分からないけども。
聞けば、ヒントの請求ですかと言われる事は逆に容易にも予想できるんだけどな。
トホホ。
兎に角、
素直にならざるを得ない野々村秀也の口は軽い。
「ああ。分かった。全部話す。話すよ。だから俺ッちの無実を証明してくれよな?」
「フム。無実の立証。それは、お約束しましょう」
約束の言質を取れた秀也は安心してから続ける。
ゆっくり、淡々と語り始める。
「チッ!」
秀也は、
その日、
赤い日章カラーで彩られたロケットカウルに日章タンクという愛機を駆っていた。
おおよそ大概が考えるであろう暴走族のバイクのそれだと考えれば想像しやすい。
兎に角、
白地に側面が赤い角のような天を突く大きな三段シートが風で軋む。
時速にして80kmオーヴァー。走り屋が腕を競い合うカーブが多くキツい山道で出していいような速度ではない。無論、当夜は時雨れており、路上は湿っていた。ともすれば、うっすらと凍っていた可能性もある。無謀を通り越してさえいる。
一つ間違えば死だ。死と隣り合わせ。それでも秀也は決してアクセルを緩めない。
むしろ吹かす。身に絡みつく闇を振り払うよう。
車体を無理矢理に寝かせて過ぎ去るコーナーを風と共に駆け抜ける。
目の前には、一正のワポンR。
無論、一正も、また無茶を通り越し死神と抱擁しているとも言える。
秀也は追っているのだから、逃げる一正こそがサイコパスとも表現できるだろう。
狂っていて恐れ知らずだとだ。
そして、
かれこれ30分以上も、彼らの無謀なるカーチェイスは続いている。
燃料計に秀也の視線が落ちる。
……クッ。ガスが持たねぇな。
正味3日前から給油をしてこなかったツケが、ここで彼を苦しめる。
たった今のカーチェイスが予定されていたものであれば事前に準備もできた。しかしながら今し方のデットヒートは予想されたものではない。言うまでもないが、数十分前に一正の車に乗る奈緒子を偶然、見かけたからこそ始まったものである。
ゆえにガス欠などという障害が秀也の頭上に舞い降りてきたわけだ。
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