#07 飛べないからこそ
…――彼らには何が見えていたのか?
そうだな。まず一旦落ち着いてくれ。
深呼吸だ。大きく吸って吐いてくれ。
うむっ。
兎に角、
それらを論じる前に確認しておくべき事がある。無論、僕という人間が、いかに矮小で姑息な人間であるかをだ。なにが言いたいのか、それが分からないなどと言わないでくれ。結論を急がないで欲しい。一つずつ順を追って、詳しく説明する。
ここに来る前まで、僕は犯人が野々村秀也だと思い込んでいた。
それは、やはり彼が乱暴者で、暴走族で、普段の行いからだな。
無論、フーから真犯人が誰なのかを伝えられていたにも拘わらず、ある意味で聞く耳を持たなかった。それは単なる偏見。色眼鏡をかけて秀也という人間を俯瞰していたというわけだ。それを思い知るような出来事が、この後に起こる。
例えるならば、翼を持つ鶏を見て、飛べるはずだとも強弁してしまうようなもの。
飛ぼうと翼をはためかせて必死で頑張っている鶏が飛べない様を見て……、なぜ、お前は飛べないのだ、甘えているんだろう、と心なく非難しているようなもの。鶏は人間の都合によって飛べなくなった鳥に拘わらず。僕は、そんな人間だった。
如何に心が狭くて矮小だったのかと、そう痛感した。
フー達、灰色探偵が見ていた世界を知った時に……。
無論、それらは推理にも、大きな意味を持っていた。
「でもな」
秀也が一本、タバコを取り出して静かに火をつける。
ゆっくり何かを思い悩み考えるよう。
言いにくそうにも言葉をよどませる。
なんだ?
「全ては奈緒子の為だった。これだけは間違いがねぇ」
またそれか。確かに始めは純粋だとも思ったが、こうも何度も繰り返されるとな。
この時、僕は、また、いつもの秀也の逃げ口上だと、ある意味では辟易していた。
森本奈緒子に近寄る男たちに暴力を含めた恫喝を加えていた事を正当化する為の口上。そう思っていた。無論、そういった意味も確かにあった。しかしながら、実は、この言葉の裏には大きな意味が隠されていた。それを思い知るのは、もう少し先だ。
「フムッ」
相変わらずフーは、全てを秀也に委ねるように佇む。
その背に隠れて様子を伺っていたホワイが、タレ気味の茶色い瞳を細めて微笑む。
そろそろ機が熟して、頃合いだとばかりに前に出る。
ゆっくりと静かに、しかしながら、するりと素早く。
「あのう」
その後、
おずおずと(※多分にも演技だろう)右手を挙げる。
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