#11 2回分

 数分後。


「やはり、このトラックは事件当夜に、あの運転手が運転していたものだそうです。もちろん、調査の許可も、もらいましたから、存分に調べましょうか。山口君」


 僕は、目を見張って、間抜けにも大口を開けてしまう。


 あの運転手が運転していたものであったという事実にも驚きだが、それ以上に僕が感じた敵意を、一体、どうやって解いたのかが分からなかったからこそ。なにをしたのかを聞きたい。しかし、問えば、こう返ってくるのは火を見るより明らかだ。


 それはヒントの請求なのですか? とだ。


 聞きたいという顔を悟られたのか、フーが、珍しく真面目な顔つきで問うてくる。


「なにをしたのか、それを明かしてもいいのですが、ヒントの請求というよりは、むしろ企業秘密を明かすようなものになります。それを聞く覚悟はありますか?」


 覚悟とは……、つまり、1回分のヒント料では足りないという意味なんだろうか。


 それとも、そもそもヒント料というよりも、他のなにかを奪われるという意味か。


 いや、どちらにしろ、なにをしたのかという事件とはおおよそ関係がない事でリスクを被るのは避けたい。すでに60万円も払っているからこそ。ヒントの回数にして6回もヒントをもらっているからこそ。好奇心を押さえ込んで、丁重に断る。


 企業秘密の謎を明かすという提案を……。


 言葉を吐く事すら怖くて無言でゼスチャーだけを使い。


 そんな僕を見てか、ハウが、にかっと笑ってから言う。


「トリック担当のハウちゃんが、ちょこっとだけね。ほくほく顔の、この会社の社長が、いまだに、まぶたの裏に焼き付いてるわさ。知りたいよね、教えようか?」


 と両人差し指と両親指を使って、カネマークを二つ作って、両腕をクロスさせる。


 変身っとでも言い出しそうなイキオイで。


「今ならヒント料、10万円で手を打つわさ。うりうり」


 止めろ。聞きたくない。


 僕は両耳を両手で塞いで拒否の意思表示。


 2回分のヒント料で聞けるのは破格なのかもしれない。


 だが、それでもヒントは残り4回。残り回数が2回になってしまう。あと2回だけで事件を解く自信はない。だからこそ、余計に、聞きたくない。これが怖かったのだし。今は我慢の時なのだと言い聞かせ。対照的にツグミが軽やかに唄いだした。


「残念。せっかくのハウちゃん大行進を話せると思ったのに。ちぇっ」


 とハウが、右足で地面に落ちていた小石を軽く蹴った。


 その石が木にあたって、ツグミは驚いたのか、また一つ鳴いて飛び去っていった。

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