#08 3分1ラウンド勝負
「ささ、ケンダマンの聞きたい事を言ってみぃ?」
顎を突き出してウィークポイントはここだとばかりにノーガード戦法で嗤うハウ。
おらおら、ここを狙って打て打て、打ち抜けと。
これ見よがしにトントンと軽い音を立て顎を弾いて魅せる。煽っている。間違いなく煽られている。よかろう。乗ってやる。僕は、僕が好きなボクシング漫画での主人公が放つ華麗なるワンツーを模して切り込む。ワンツーからの幻の左フックだ。
シッ、シッ、フッ!!
「ずばりパチンコ玉の出所について教えて欲しい」
上体を反らしてスウェーバックだけで、見事、僕の必殺の左フックを躱す、ハウ。
反らした上体から見える、その顔つきは笑い顔。
甘いね。
「逆に質問。ケンダマンはどこで買ったと思う?」
僕は軽やかにステップを踏み追いすがって打つ。
必死で体を沈み込ませてアッパーカットを放つ。
往年のチャンピオンが魅せたカエルパンチだッ!
「多分、ネットだろうね。ネットだったら匿名性が守られてるからさ。もし、あのパチンコ玉が奈緒子殺害のトリックに使われたんだったら、なおさら。違うのか?」
スカッ。
新喜劇でのギャグのよう大げさなスウェーバックでカエルパンチを避ける、ハウ。
また反らした上体からチラッと見えた顔は笑み。
甘いわ。
と笑んで、バックステップからの連続バク宙で一気に距離をとる。
「違うね。全然、見当違い。ケンダマン、ネットでものを買うと履歴が残るんだよ」
履歴だと? それでもハンドルネームならば個人情報は漏れないんじゃないのか?
リアルで店頭に赴き買うよりも誰だか分からないんじゃないのか?
ハウは、また御手元の袋を膨らませて、頬も餌を頬張ったリスのよう膨らませる。
そして、
一気に距離を詰めてきたハウの右ストレートが僕の鼻の頭にクリーンヒットした。
見事にノックダウン。
KOッ!
「その顔はネットでの匿名性が神話化してるって感じだね。甘い甘い。甘過ぎ。個人情報なんて、ちょこっと調べるだけでも丸裸なんだわさ。まあ、詳しくは省くけど」
だって、詳しくは犯罪に繋がりかねないからね。
また湯飲みを手に取り緑茶を喉に流し込むハウ。
ふぅッ。
「それに」
なんだ?
僕の論は看破されてしまい、身動きができない。
受け身。
「履歴が残るって言ったよね。厳密には買った側の履歴は消せる。けども売った側の履歴は消せない。もちろん買った人間が消せないの当たり前なんだけど……、」
うむむ。
「売った側も消せない確かなる理由があるわけさ」
分かるような、分からないような。詳しく頼む。
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