#09 理由

「ううん? その顔は納得してないって顔だね。だけど、よく考えてみてよ。犯人や動機は答えが分かってても、どうして、そうなるか解く楽しみがあるでしょ?」


 楽しみかどうかはさておき、確かにな。


「でもトリックは答えを明示したら、それで終わりなのさ。どうして、そうなるのかなんて疑問を挟む余地がないわけよ。数式の答えを教えるようなものだからね」


 数式の答えか。確かにな。公式とも言い換えてもいいかもな。


「そそ。トリックは数学的なのさ。つまり、これが在って〔1〕、それがこうなって〔+〕、これも在る〔1〕。だったら〔=〕結果はこうなる〔答えは2〕ってわけ」


 うむっ。


「だから答えの2を教えちゃえば1+1=の式の解説も必要でしょ? だって答えだけじゃ意味が分からないんだからさ。そしたら1+1=も見せなくちゃなんだわさ」


 なんとなく納得できる。


 それでも、どうして、こうなったのかを考えるのは難しいぞ。


「ふむむ」


 納得してない顔をしていたのがバレたのか、難しい顔のハウ。


「なんて言えば伝わるのかな。犯人と動機は答えを明かしても問題ないのよ。でもトリックは違う。答えを明かせば、どうしてそうなるのかを考えるのは簡単なのよ」


 分からん。簡潔に納得できる解をくれ。


 右上を見て頬に右人差し指を刺すハウ。


「さっきの自然数で言うとトリックは言い方って事になるでしょ。でも、じゃ、なんの言い方なんだよって話になるじゃない。それを言わないと意味分かんないしね」


 まあ、単に言い方と言われても、なんの言い方か分からないと意味が通じないな。


「で、問題である、0を基準に数を考える時、0よりも大きな数を正の数と呼び、逆に0よりも小さな数を負の数と呼ぶ。では自然数は、どんな数? って明かしたら」


 うむむ。


 そうか。


 それは、すでに1+1=も明かして、その上で答えの2も明かす事になるわけか。


 僕は、妙に納得して静かに目を閉じる。


 というか。いつの間にか彼らの手法に慣れてしまい、ある意味、勘違いをしてしまっている。一刻も早く事件を解決したい僕が、とるべき言動と、そして答えるべき言葉は決まっているのだ。つまり答えをハッキリと教えろという意思表示なわけだ。


 うん。僕の考えは何も間違っていない。


 聞くぞ。


「フムッ」


 と、いきなり、フーが横から口を挟む。


 二の句を繋ごうとしたハウを制し言う。


「なにやらゲームを興ざめさせる事を考えているようですね。それは許しませんよ」


 いつになく怖い顔で、睨み付けてくる。


「とにかく、これ以上の説明は不要。トリックに関してはハッキリと答えを提示しないという事だけ分かって頂ければ結構です。山口君、これは、よろしいか?」


 今まで温和に笑んでいたからこそ怖い。


 余計に。


 僕は先ほどの決意も、どこにいったのか静かに頷くしか道が残されていなかった。


「はいっ」


 と……。

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