#06 スパシーボ
「そうだ」
帰る途中で、こちらに顔を向ける秀也。
「最後に言っておきてぇ。もしだ。もし、あんたらに事件を解決できるだけの力があるんだったら絶対に解決してくれ。俺だって哀しいんだからよ。四露死苦ッ!」
と言ったあと、また背を向けて寿司屋の中に消えていった。
僕は、ここまで秀也と会話をしてみて様々な思いが交錯していた。なんというか、秀也に対して、当初、考えていた人間像が当てはまらなくなっていたのだ。無論、暴力などに訴えるのは手前勝手なわけだが、人間の基本としての質は……、
いいやつだとしか思えなくなったのだ。
無論、暴走族理論も理解はできない。ただし、理解できないのだが分かりはする。
全ては奈緒子の為だったというのも、また彼が純粋だからだろうとさえ思うのだ。
言うまでもないが、秀也がやっていた事、つまり親衛隊紛いで奈緒子に近づく男に暴力をふるっていたというのは褒められたものではない。むしろ非難されて然るべきものだ。ただし、それでも、それでさえも奈緒子の為であったとするならば。
僕は、ただ呆然と立ち尽くしてしまう。
秀也が犯人だと考えていたからこそ、ここまで捜査を進める事ができたのだから。
やはり、
犯人は一正なのかとも思うがその一正も犯人とは思えない。
ワカラナイと考えてしまうと余計にワカラナクなってくる。
頭を抱えてしまい、逃避で空を見上げてもみるが、解答などは一切どこにもない。
静かな時が漫然と流れて存在迷子にすらなってしまう。無論、フー達に助けを求めてもヒントの請求ですかなどと言い出すのだろう。それが分かっているからこそワカラナイとは言い出せない。目を、ぎゅっと閉じてから下唇を強く噛み締める。
やおら、
「フムッ」
と、フーが口を開く。
「よくやりましたね、山口君。とても素晴らしい出来でした」
おお。褒められたぞ?
継いで、ハウが言う。
「ケンダマン、スパシーボって言っておくわさッ。うりうり」
肩に手を回してから右拳を僕の頬にぐりぐりと押しつける。
間髪入れずホワイが、
「フフフ。ハウ。一つだけいいですか? スパシーボはロシア語なんでしょうけど、ありがとうという意味ですよ。この場面ではハラショーの方が適確なのでは?」
と厭らしくも微笑む。
ゲッと間抜け面を晒してタハハと笑いながら誤魔化すハウ。
「オダマキとだけ言っておきましょうか」
右手を口に添えて高らかに笑うホワイ。
「オダマキ、言うな。オダマキはもういい。姉貴は、そればっかり。愚かでしょ?」
「あら、分かっていたのですね。スパシーボとハラショーを間違えるのですから、てっきりオダマキの意味もはき違えているものだとばかりに思いましたわ。ホホホ」
「ぐぎぃ」
と、悔し紛れな歯ぎしりが咲き誇った。
姉貴、暴走りで勝負だ。暴走りでなッ!
などとも言い出しそうな勢いであった。
タハハ。
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