#06 やるしかない
やはりと言うべきか、それとも敢えてとでも言うべきかなのか。
ヒントの請求とか言い出しやがった。
まあ、ある意味で予想通りとも言える展開だが、それでも思わせぶりな言い回しで振り回すのは止めてほしい。やはり性悪。もう、くどいくらいに痛感しているが、その柔和な笑顔が、また小癪で嫌みとしか思えない。舌打ちを我慢する。ぬぬぬ。
鼻息を荒くして、怒りを露わにする。
「さて、山口君、どうなさいますか?」
しかし、
怒りはすれど捜査を進める手はない。
舌打ちが我慢できなくて忌々しくチッと吐き出す。
うなだれて恨めしさでフーに視線を移したあと40万円が入った封筒を取り出す。
封筒の中に在る40万円を、まじまじと見つめる。大きなため息を吐き、そっと、お金を取り出す。5万円きっかり。そうして、また悔しくなってフーを、下から、のぞき込む。心を落ち着け目を閉じる。いくらか考えて、ゆっくりと目を開ける。
仕方がない。これは必要経費だ。と言い聞かせる。
これで残りは35万円。
ヒントの回数にして7回分しか残っていない計算。
「うん、ヒントの請求です。ヒントをお願いします」
と5万円を差し出して、この場での負けを認める。
しかし、
同時にこうも思うのだ。
車談義を始めて一正の警戒心を解いた事。差異や異質について教えてくれた事。それらもヒントとして請求できるファクトだった。にも拘わらず、ヒントの請求ですか、とは言い出さなかった。それらに対しては感謝をすべきだと、そう思った。
不覚にもな。うむ。不覚にもだ。……フーは僕の手から5万円を恭しく受け取る。
「確かに」
一言だけ小さく発する。
そして、厳かに続ける。
「ではヒントを授けましょう。さて、こういったのはどうでしょうか。まずは一正君に野々村秀也との関係を問いただすです。ただし慎重に聞き出して下さいね」
ぼ、僕が聞き出すのか?
自信がない。大丈夫か?
「今の一正君は警戒心が薄れている。それは分かりますね? それでも犯人扱いをしてしまえば一気に警戒心が高まる。そうなってしまえば聞きたい事も聞けない」
マジか。
素人な僕が聞き出すなんて、そんなアクロバティックな芸当が本当に可能なのか?
それでもフーは微笑む。
「だからこそ慎重にです」
いや、もはや、やれるとかやれないとかは、この際、関係ない。
灰色探偵ダニットとの推理ゲームに乗ってしまった以上、やるしかないのだ。やらなければ今まで払ってきた依頼料やヒント料が無駄になる。それどころか、この事件が暗礁に乗り上げて解決する事すらできなくなる。そうだ。そうなのだ。
もうやるしかないのだ。
と僕は一つ息をのんだ。
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