#03 差異と異質
フムッ。
「山口君」
とフーがワポンRの屋根越しに言う。
僕は慌てて半身を車から出しフーへと視線を移す。
「捜査の基本は細かい差異を探す事から始まります。差異とは異質とも言い換えられます。この場合、ワポンRという車とは違う物という意味です。よろしいか?」
いやいや、そんな事言われても、意味、全然、分からないから。
といった僕の気持ちなど、お構いなしに車から離れて一正へと近づいてゆくフー。
取り残された僕は、差異や異質について思いを馳せる。が、やはり、どう考えても意味すら分からない。空を見上げて流れる雲を見つめる。例えば仮に空の差異とはと考えてみた場合、それはなんだろうかと思った時、一機の飛行機が飛んでくる。
なんとなく、飛行機を見つめ続ける。
飛行機雲が、現れては、消えてゆく。
あれっ?
うん? もしかして、アレが差異か?
と空の差異、つまり、異質に気づく。
そう。空に在って飛行機は差異であり異質なのだ。それは、不自然とも言い換えられる。もちろん飛行機が飛んでいる自体が不自然ではなく、空という自然に対して飛行機という機械の組み合わせが不自然なわけだ。無論、飛行機雲も、それとなる。
そうか、と僕は、またワポンRに半身を突っ込む。そして視線を車中に這わせる。
ぐるりと車中をなめ回すように観察する。綺麗に片付けられた車中には車本来の装備とカー用品で埋め尽くされている。どこにも差異など見つけられない。そうしてシートベルトまで視線が動いたあと、遂に見つける。差異を、異質な存在をだ。
そうなのだ。件のシートベルトには、意味もなく安全ピンが付けられていたのだ。
これだ。
「フーさん、遂に見つけましたよッ!」
僕は嬉しくなって、つい大声で叫ぶ。
離れた場所に停めたあったヴィアッドの周りで一正と車談義に花を咲かせていたフーとハウ、そしてホワイが一斉に僕を見つめる。その表情は3人とも揃って苦笑い。そして、きょとんとした顔つきの一正。フーが、輪から離れて近づいてくる。
「山口君」
フーは、また名前だけを言い放ち右口角を下げる。
一正から充分に離れたと判断したところで、二の句を紡ぎ出す。
慎重に。
「嬉しいのは分かりますが、今は捜査中なのですよ。しかも犯人に事情聴取しているのです。もし、それがバレて、再び、警戒されたら、一体、どうするのですか?」
もっともだ。もっとも過ぎて、もはや言葉もない。
「ともかく、なにかを見つけたのならば、それは君の心の中だけにしまっておいて下さい。それらは、ここを離れたあと、じっくりと吟味すればいいのですから」
済まん。ごめんなさい。反省します。
と僕は頭を下げてから謝意を示した。
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