#04 雲と月

 つまり、


 親切を装って、むやみやたらにヒント請求を引き出させる作戦なのかもしれない。


 ヒント料で膨大な金額をせしめる為の布石ではないのか。もちろん、犯人が川村一正だと判明して動機も解明された。だったら、あとはトリックだけ。しかし、そう思わせられているだけで、実は、肝心な事を何も聞かされていないのではないか。


 だとしたら、ここで連続してヒントを使い、残り金額を減らすのは得策ではない。


 そうなのだ。そう。もう少しだけでも様子を見る方が賢い。


 なぜならばヒント請求をすれば、いつでもトリックについて聞けるのだから、今、慌てて聞く必要もないのだ。捜査を進めて、ある程度でも的確にヒント請求ができる体勢を整えてからでもヒントを聞くのは遅くはない。天井を仰いで目を閉じる。


「いえ、結構。今日は、この位にしましょう」


 と、にべもなく断った。


「そっか、残念。ハウちゃんの出番かと思ったのに。ちぇっ」


 舌打ちをして、そっぽを向いてしまうハウ。


「まあまあ、ハウの出番は、まだまだ先にもきちんとあります。この事件は、そういったものですからね。今は落ち着いて心を静かに。それこそが肝要なのですよ」


 とフーが笑う。相も変わらずのあの笑顔で。


 というか、心静かにという言葉が、この世で一番似合わないのがハウという少女。


 当然というべきか、はたまた必然と言うべきか、ひょっとこを体現したような顔つきで尖らせた口を右上に、右目を閉じて、左目を見開く。そののち右人差し指でHowと書かれた青いキャップを弾く。くるくると舞い空中で回り続けるキャップ。


 それを、


 まるで投げた餌をキャッチするオットセイよろしく見事に頭へ、すぽっと収める。


「ヴィ!」


 と満面の笑みを浮かべた顔の前でVサイン。


「やれやれ、ハウらしいですね。フム。……まあ、とにかくです。山口君も疲れてきているようですし、よろしい。では今日は、この辺りで、お開きとしますか」


 と笑んだフーの顔が歪んで揺れ消え失せる。


 雲に隠れた月のように。


 ……、あれがルールか。


 いつの間にか僕の意識は愛車のフーレアワゴンの中に戻る。


 今へと時は戻ったのだ。


 例題を含め、ヒントについて理解を深めた僕は、改めてフーが言う推理ゲームの進め方について思いを馳せた。この先、何らかの障害があった場合、その時、適時、ヒント請求を行う。そしてヒント料の金額が予め用意したもの以下であれば……、


 推理ゲームは僕の勝ちという事なのだろう。


 アクセルペダルに残した足で、また軽くエンジンを吹かす。


 ふおおんっと気持ちのいい抜ける音が月が浮かんだ夜空へと溶けて消えていった。


 いくらかの不安〔雲〕をかき消すよう……。


「勝つか負けるか。よし」


 勝負だ。やってやるッ!

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