#02 冷ややか

 どるるんっと、いくらか重めのエキゾースト音が、柿本改のGTボックス06マフラーから抜けでる。この音〔ロック〕は、いつ聴いても心地がいい。アクセルペダルを少しだけ踏んで、ふおおんっといった軽いアクセル音でアクセントを加える。


 そうしてからアイドリングのまま、少しだけ前を回想する。


 少し前。


「フム。よろしい。ではヒントの請求ですね」


 僕は、大きく息をのむ。


 その上で、静かに、ゆっくりと、うなづく。


 依頼料80万円が収まっていた袋から5万円を取り出す。これで残りは45万円。


「確かに」


 フーは、ヒント料を受け取ると目を細める。


「そうそう。一つだけ言っておきましょうか」


 5万円を財布へと収めたあと柔らかく笑む。


 その笑顔は、相変わらずの柔和で温かいからこそ、小憎らしくもなる。


「ヒントは、こちらから無理矢理に聞かせる事はありません。山口君からのヒント請求がない場合でのわたくしどもの発言は全てが無料となります。よろしいか?」


 という事は知らぬ間にヒントを聞いてしまいヒント料徴収という事はないわけだ。


「その顔は、ご理解頂けたようですね。そう。つまりヒント請求がない場面でのわたくしどもの発言は、たとえ重大なヒントになろうともヒント料は頂きません」


 ……どうか、ご安心を。


 といった意味が含まれたお辞儀をするフー。


「さて、では森本奈緒子事件の記念すべき第一回目のヒントですが……」


 ちらっとホワイを一瞥したフーは右から右の人差し指を左へと動かす。


 ホワイは一つ笑んでから茶色い瞳を閉じる。


「はい。お父様、承りました。それでは……」


 とオレンジティーの残りを一気に飲み干してから席を立つ。


「まずはヤマケンさんが知りたい事のおさらいです。奈緒子さんが殺される必要があった理由ですね。彼女が殺されるだけのわけを知りたい。で、よろしいですか?」


 下手な事を言って更にヒント請求ですかと聞かれるのが怖くて無言でうなづく僕。


 フーが間に入って、ヒントとも思えるような事を言い放つ。


「フム。そうですね。それを知るのは良い事だと思います。事故が覆り、事件になり得る大前提ですからね。では、ホワイ、できるだけ詳しくお願いしますよ」


 ドキドキと胸が高鳴り、張り裂けそうにもなったがヒント料は請求されなかった。


 ヒント請求がない限りヒント料は頂きませんのでご安心を。


 どうやら先ほどの言葉に相違はないようだ。


「フフフ」


 冷ややかに笑うホワイ。


 例によって、心の内を見透かされたような気にもなり、背筋に冷たいものが走る。


「今回の事件は、卑怯な男の卑怯な策によって川村一正という青年が翻弄されてしまった事件と言えます。もちろん、野々村秀也も、また利用されたとも言えます」


 えっ!!


 一正が翻弄されただと?

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