#07 プロファイリング

「フム。その顔は単に消去法で残ったのが川村一正君で、これから捜査を進めて容疑を固めてゆく。そんな風に思っているようですね。間違いないですか、ホワイ?」


 とフーが右の親指と人差し指を立てて斜め右上へと向ける。


 青い瞳が妖しく光る。


 というかだ。あれだ。


 間違いないですかと僕に聞くのではなくホワイに聞くのは、やはりというべきか。


 うぬぬ。


 性悪探偵の本領発揮といったところか。


「フフフ」


 成り行きを見守っていたホワイが笑う。


「お父様」


 両口角が、ニタリと厭らしくも上がる。


 まるで木の枝の上で嗤うチャシャネコ。


 貞淑を絵に描いたようなホワイには珍しい感じの顔つきだ。


「はい、なんでしょうか、ホワイ? なにか気になる事でも」


「はい。せっかくのお父様の見せ場なのですが、幾ばくかのお時間を頂いてもよろしいでしょうか。確認しておきたいのです。灰色領域に関わるお話ですわ」


 ホワイが、音も立てずに近寄ってきた。


 フォークを抜いて、また違う野菜に刺そうとしていた僕の手を、そっと押さえる。


 僕の唇に、右人差し指を立てて添える。


 そっと。


 フフフ。


「フムッ。そうですか。よろしい。では、少々、わたくしは退場していましょうか」


「……、ありがとうございます、お父様」


 唇に添えていた指を下に降ろしたあと、また唇の前に戻す。


「さて、ヤマケンさん。先ほどモンテスラを思い浮かべましたわよね。いえ、答えなくても結構です。この唇の前に添えた指は、そういう意味ですから。ふふふ」


 ううっ。


 僕の答えを聞く事など、時間の無駄だとでも言いたいのか。


「どうやら、私が使う暗号めいたものが花言葉だと理解できたようですね。タネも明かさずに解明できた事は素晴らしいです。ただし自力で解明したのならばです」


 ……ッ。


「フフフ。ニゲラでしょうか。この意味も、よくお分かりですよね。そうです。当惑、つまり動揺を隠せていないのです。では、どのように解いたのかですが」


 もちろん、答えなくても、結構ですわ。


 フフフ。


 一つの可能性、それは……、ハウが、口を滑らせていた事。


 しかし、それも聞いては、いなかった。


 それでは、一体という話になりますが。


「ヤマケンさんが、お店を訪れた時点では、私達、ダニットの情報を一切知らなかった。にも拘らず花言葉を悟る事ができた。しかも自力ではなく。そうですわね」


 えっと。


 とホワイが、僕の手からフォークを奪ってサラミに刺して持ち上げる。


 そして小さな赤い舌をちろっと出して舐めてからパクっと口に入れる。


 その様が、とても妖艶で、エロティックとさえも感じさせ、どきっと胸が高鳴る。


「ううん。美味しい。さすがは、お父様」


 右手で頬を抑えて花が咲いたように笑った。違う。笑ったというよりは嗤っただ。


 彼女は、


 僕を、試している。僕を観察している。


 この先、彼女に、なにを言われるのか、心が急いて額に玉汗さえも浮かんでくる。


 ごくり。

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