猿まわしの猿みたい


静寂は私の気持ちも落ち着かせてくれた。

レモンに支えられてソファーに座った私は、今も隣に座るレモンに背をさすられている。

落ち着いたつもりだったけど、ふたたび扉を叩かれてプチパニックを起こした。

すぐにロミンが扉を開けにいきノックをした張本人に怒鳴りつけたのを聞きながら、レモンとソファーの肘掛けに座っていた王子に背中をさすられて落ち着けたが……

敵の姿が見えないことがここまで怖いとは思わなかった。

「騒ぎの直後で配慮がない!」と怒鳴るロミンと震える私の様子を見て、それこそ必死に謝罪してきた。


来訪者は各ギルドからの代表者たちだった。

図書館ここにはこの世界を知る手がかりもあると聞いて、代表者を立てて調べに来たいらしい。

ただ、私の家ということもあり、人数と時間を決めて事前に申請という形をとるそうだ。


それとは別に感謝もされた。

私がロミンたちに教えたステータスの使い方を、ロミンたちはみんなに教えていた。

装備も魔法もなく使い方がわからないまま戦闘に向かおうとしていた自分たちを恥じたそうだ。

そのときに、私が不参加であるものの自分たちと同じ戦闘員だという声があがったらしい。

不満げだったのが撫子と永遠とわだった。

見下す相手(ロミン曰くイジメの対象者)の私が持ち上げられたことが許せなかったようだ。


「撫子と永遠とわが戦闘中に抜け出した」

「逃げたの?」

「─── それだったら、まだよかったんだけどな」


さっきの騒ぎは二人が引き起こしたことだった。

みんなは不満げだった二人を警戒していたらしい。

そのため二人が抜けだしたのをみて【隠密行動】をもつ王子と【制圧】をもつレモンが追いかけた。

受け持った範囲ならロミンだけで十分戦えたからだ。

先にステータスの使い方を知ったことで、誰もが簡単に倒せたそうだ。


「アレだな。第二層あたりのボス戦くらいの強さだった」

「そのくらいなら私でもソロで倒せたね」

「ソロで第七層のボスも倒せるだろうが」

「一撃が弱いから時間がかかるけどね」

「無課金でもそこまで強ければ十分だろ?」

「でも第二層の圧勝を考えると、ちょっとね。弱いと思うんだよね」

「比べるところが違う」


呆れたように呟いたのは『のんびり日和』のレンレンだ。

あそこはギルマスもサブマスも参加していない。

そのため、唯一の男性がリーダーになっているそうだ。


「うわぁお! ハーレム?」

「姉貴と姉貴の女友だちだぞ」

「うわぁー、パシリ?」

「間違いなく、そっち」

「まあ……ガンバレ?」

「無責任な慰め方だな」

「アイリスってそうゆう奴だ」

「ちょっと凛々りんりん、それひどくない?」

「討伐途中で投げ出す奴は誰だよ!」

「えー、寝落ち放置するよりいいじゃん」


凛々にツッコミを入れると苦笑された。

凛々はしょっちゅう寝落ち放置しては翌朝みんなから抗議される。

酷いときは「二度寝した」「呑んでた」「スマホを消すの忘れた」など、一日に何度も何度も放置したことで、ギルドを越えて大喧嘩まで発展させたトラブルメーカー。


「一度、この世から消されたいか」


リア友にそう言われてもヘラヘラ笑って、猿でもできる反省ができない問題児と認識されている。


「凛々、この世界なら間違いなくエサにされるから」

「えー、酷いこと言わないでよー」

「今からエサにしてこようか」

「身体にロープを括りつけて黒い霧の中を歩かせよう」

「なんか、猿まわしの猿みたいだね」


そう言ったら一瞬静まってから、凛々以外が大爆笑した。


「反省しないから猿以下だけどな」

「えー、ちょっと酷くない?」

「「「ぜ〜んぜん!」」」

「あれ? そう? そっか……?」


これが演技ではなく天然なんだから、一緒にここへきたリア友も大変だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る