痛い目に遭わないとわからない


作戦行動は案外簡単に決まった。

戦闘時に押されているギルドを周りがフォローするというものだ。


「足、引っ張んじゃねえぞ」

「それはこっちのセリフだ」


こんな状態で、早々にと判断されたことが一番の原因だ。

そして、部屋が公平に分けられた。

と言っても、私だけ特殊な部屋……じゃなかった。


「アイリスさんはこの部屋ね」


そう言って城内の地図の一ヶ所を指さされた。

そこは図書館を併設した……逆か。

図書館に個室がつけられた場所だ。

離れ? 離宮というのか?

みんなはそんなところで共同生活をするらしい。

中は個室になっていて、離宮ごとにキッチンもあるそうだ。

そんな中に一ヶ所花壇に囲まれたこじんまりとした建物があり、そこが私の場所だという。

たぶん広いと思われる庭を挟んで一番近いのが、ギルド『平和旅団』の離宮だ。

離宮といっても孤立して立っているわけではない。

城の廊下にある扉を開くとそこには少し横幅が狭いけど同じ廊下があり、その廊下の先に離宮の扉があるというものだ。

城の廊下が4メートルで、離宮の廊下が3メートル。

扉がついているのは、城で働くメイドが間違って入り込まないため。

離宮に住んでいたのは国王の側妃や王子・王女たち。

そこに迷い込んだら重い罰を受けるらしい。


「家具は残ってるから好きに使えばいい」


みんなの部屋が決まるとキュリオはそう言った。

三人はこの城で働いていたから詳しいそうだ。


「逃げ出した王たちはどうした? 頃合いをみて戻ってくるんじゃないの?」

「たぶん死んだよ。この城の周り、城壁の外は危険なんだ。この城壁に浄化の魔法石が設置されているんだ。だからここから離れて……そうだな、1キロまではいかないけど800メートルくらいまでは効果があると思う。その先に『黒い霧』があり、そこから先に人族の住む町や村が点在する」

「その『浄化されるもの』とは何だ?」

「────── よくわからない。黒い霧に影響されて変異したもの、とかいうけど。僕たちはそれが何か、何が真実なのかも知らないんだ」


シャーベットが左右に首を振る。

状況が状況なら庇護欲を掻き立てられるだろう。

この集団召喚の元凶の一人である以上、そうならないが。


「じゃあさ。私らは何と戦うのよ」

「それは、私たちが魔物と呼んでいるもの」

「ゲームみたいなボス?」

「いや、ボスはダンジョンにいる」

「えー! ダンジョンがあるのー!」

「うん、そのダンジョンで数は少ないけど魔法球がでるんだ」

「ちょっと面白そうだよね」


永遠とわと撫子の二人がキャアキャアとはしゃいで会話を脱線させていく。

正直なところ「いい加減にしろ!」と誰もが思っている。

二人のリアルで男友達だという&龍アンドリューとレベッカは、もう二人とは関わり合いたくないのか。

彼女たちを放置して離れた場所にいる。

そんな二人に絡まれているのはキュリオだ。

何故か私が敵視されているが……

どうやらキュリオたちと私の関係が『馴れ馴れしい』そうだ。

キュリオをぶん殴ったことも、正論を吐かれたことも、洗脳できなかったことも。

すべてが原因で、私に刃向かえないだけなんだ、とは教えない。

勘違いして空回りしている状態は、周囲から孤立していることを自覚していない。


永遠とわと撫子、うるさい。黙れ」

「なによ! 馬鹿ロミンの分際で」

「黙れないならここから出てけ」


静の嫌悪を含むロミンと違い、動の怒りを含んだレベッカの言葉に振り向いた撫子は周囲が自身に向ける白い目に動きが止まる。

同様に永遠とわも嫌悪感を隠しもしないで見つめる視線に恐怖を感じたのか身をすくめる。


「キュリオ、話を続けて。魔物とは?」

「あ、はい」


私が話を促すと、ホッとした表情をみせたキュリオが絡んでいた毒花二人から離れて説明を始める。


「魔物は黒い霧に取り込まれた生き物だと思う。そしてこの黒い霧を通ってたまに魔物が城壁の近くに現れる。それを倒してもらうのが当分の仕事だ」

「ちょっと、ダンジョンはー?」

「すぐ行けるわけないだろ」

「ちぇー」


危機感がなさすぎだ。

誰もがそう思っただろう。

それは表情にでていたが、決して口に出さなかった。


「痛い目に遭わないとわからない」


あとでそう思っていたと&龍アンドリューが告白した。

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