言葉が足りないだけ


《そろそろ部屋ごとに分かれた方がいいでしょう》


そういえば、私の召喚二時間後に第一戦が始まるんだっけ。

部屋決めか。

私専用の部屋が用意されているって言ってたけど。


《はい、彼らは気付いていませんがすでに手は回しています。ここは城である以上、籠城に特化した部屋がいくつかあります。その一つで防御に特化した部屋をあなたの部屋にあてがいました》

〈とりあえず現時点でも敵が多いから、入られないようにしたいよね〉

《その部屋は誰も入れません。それに彼らは洗脳されています。戦闘が始まれば彼らの頭からあなたの存在は隠されます》

〈戦闘に集中するためだっけ〉

《ええ、そうです》


私たちが思念で話をしていると、突然戦闘の方法に入った。

私たちの思念こえがもれたのかと驚いたが、どうやら違うらしい。

部屋割りから「パーティごとに区切ったらどうか」となっていたのだ。


「ねえ、戦闘のパーティってギルド戦にするの?」

「でも偏りすぎじゃない?」

「じゃあ、『平和旅団』の人〜」


エクエクが手をあげながら言うと私の周辺でパパパッと手があがる。

九人とプラス不参加の私。


「おーい、シャーベット。カモ〜ン」

「は、はい!」

「お前も参加要員だ」


クイクイッと指で呼ぶと困惑した表情を見せた。


「え? ですが……」

「『お前らも生命を張れ』と言ったはずだ。これで『平和旅団』の戦闘員はちょうど十人」

「あ、あの」

「黙ってこっちに入ってろ」

「はい」


やはり気が小さいのか、私に反論できずに大人しく寄ってくる。


「じゃあ、こっち〜『浮世離れ』」

「『発光金属』はこっちに集まって〜」


私たちにあわせて各ギルドも仲間を集めていく。

『真実の眼』の紅目あかめ兎も『のんびり日和』のキュリオも、こちらを気にしながらも自分のギルドに加わっていった。



「やっぱり偏るね」

「しかし、知らないギルドとは組めないでしょ。特に『俺がルールだ』の三人は」

「当たり前だ!」


ロミンが大声をだしながら立ち上がる。


「そんなに大声出さなくても聞こえる」


エクエクの言葉に顔を赤らめたものの黙って座り直す。


「ロミンってなんかエクエクには大人しいな」

「たしかに」


そんな声があちこちで聞こえる。

あんまりしつこく言っていればロミンじゃなくてもキレるでしょうに。

─── これもイジメじゃないか。


「いい加減にしとけよ」


思わず苛立ったまま口に出してしまった。

驚いたように全員……ロミンまで驚きの表情で私をみた。

思わず大きく息を吐く。


「あのさあ、今のやり方、卑怯じゃねえ? 聞こえるような音量での悪口って性格が悪いとしか思えんよ。相手をバカにする態度、成人としてみっともなくないか?」


全員がロミンから顔を背けたり俯いている。


はたからだと、集団イジメにしか見えない。人数が多い方が勝ちでも、強い者が勝ちでもないんじゃないの? 特にこれから『敵と戦う』仲間なのにさ。足を引っ張りあっててどうすんだよ」

「ん、アイリスの言うとおりだ。─── ロミン、今のは俺たちの方が悪かった。スマン」


エクエクが立ち上がって頭を下げると、悪口を言っていた者も笑っていた者も次々と立ち上がり「ごめんなさい」「悪かった」と謝罪を口にしながら頭を下げた。

ロミンたちは目を丸くして固まっていた。

今まではケンカ腰で散々荒らし回ってロミンたちがログアウトする形で打ち切られる。

その後はロミンたちの悪口大会で、それもそのうち一人また一人とログアウトして終わる。

一触即発の時点で止める人が出ることも謝罪されることも今まではなかった。

そのため自分たちに頭を下げて謝罪されていることに驚いているようだ。

タブレットの描画ツールで『許したって』と書いて大きくしてから三人にみせるとレモンが気付いて頷いた。

レモンがロミンに私のタブレットを指差して何かを話すとジロリと睨んできた。


「もういい。その代わり、二度と俺たちをバカにするな。今度はタダでは済まさないからな」


ああ、ロミンはちゃんと周りが見えている。

ただ言葉が足りないだけだ。

今もと言った。

、ではない。

普段から仲間を大事にしているから自然と口から出た言葉だろう。

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