人生狂っちゃうけどさ。きっと……大丈夫でしょ


「じゃあ、話がわかるあなたに根本的な質問」


私の言葉に少女は黙って頷く。


「私たちが異世界に飛ばされるっていうか、もう飛ばされてるんだけど。これ以上ほかの人が巻き込まれないようにできる?」


《はい。異世界との道を塞ぎます》


「じゃあ、次。さっきもらった魔法球の【帰還】で私だけ元の世界に帰れると聞いた。それは『行ったり来たり』はできるの?」


《レベルを上げてもらえれば》


「さっきのバカは無責任なこと言ってたけど、レベルアップはあるのね?」


《はい、あります。上限11回まで合成が可能です》


「じゃあ……範囲魔法まで上げたら、みんなで帰ることもできる?」


《見捨てないのですか?》

〈一応ゲームの仲間だから。みんな、あのままログインしてたと思うし〉

《残念ながら、すでに転移先で参加表明して魔法球を受け取っています。─── 同時に洗脳されています》

〈私の仲間は強い。いつも助けてもらってきたから、その強さを知ってる。大丈夫、きっと大丈夫。────── そう、信じさせて〉


みんなの洗脳がいつ解けるかわからない。

『特別イベント』が終わるまで続くのか?

終わっても続くのか?

この世界を素にしてゲームは作られた。

ゲーム内だったから、私たちは何度死んでも復活できた。

─── しかし、ここは現実世界。

死んだらそのまま、復活などありはしない。

でも信じたい。

今までどおりにイベントをクリアできるって。

みんなにかけられた洗脳は解けるって。

だから、みんなと一緒に帰る方法を探しだす。


《最大限までレベルを上げてください。そうしたら人数制限リミッターが外れて全員を連れて帰れるようになります》


私は二度目のログインのときにタブレットに表示された。


『あなたは何故危険を冒してまでログインをするのですか?』


私はキーボードを起動させて打ち込んだ。


『私は病気を理由に不参加を選択できる。でも、仲間を見捨てたくはない。不参加でも何か手助けする方法がある。みんなから離れた場所からみれば、きっと解決できる方法がある。わたしたちはいつもそうやって助けあってきた』


そして届いたのが『あなたは病気を理由に参加を拒否することができます』という画面だった。



魔法球は手に入れただけでは使えない。

アイテム欄からアイテムを選択して『使用』をタップする。

そして、もらった魔法球のひとつ【帰還】を試しに使った。

それは私の部屋と繋がっていた。

玄関から外に出てみた。

───────── 元の世界に帰っていた。

神獣の世界に戻るには私の部屋でステータスを使えばよかった。


《いかがでしたか?》


「ちゃんと家に帰れていた。時間は流れていたけど」


《すみません。召喚された時間に戻すことはできなくて》


「大丈夫。行方不明者になるだろうけど、肉体だけ残されて昏睡状態になっているわけではないから。生きていれば……何とかなる、と思う。うん、人生狂っちゃうけどさ。きっと……大丈夫でしょ」


最悪、私は毎日自分の部屋に帰っていれば生存確認されるんだから。


そしてこの話は誰にもしないことにした。

レベルを上げるには時間がかかる。

もし帰られなかったら、面倒だけど一人ずつ運ぶ気でいる。

しかし、連れて帰れるようになったとき「私を一番に帰してね」なんて言われるのは嫌だ。

それを目当てに擦り寄られるのも。

トラブルに巻き込まれるのは一番嫌だ。

だから黙っておこう。


《私と話せることも黙っていたほうがいいでしょうね》

〈ここでの話はしない方が無難でしょう? それより聞いてもいい?〉

《なんですか?》


「何で私が問いかけてないのに会話が成り立つんだ?」


────── しっかり読んでるじゃん。

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