頭の足りなさに関しては理解した


《ご理解いただけましたか?》


周囲が一瞬で姿を変えたため私の頭は落ち着いた。

本当に滅ぼしたと思った。

冷静になった頭で考えたのは「人間じゃないから殺人にはならないな」だった。

そんなときに声が聞こえた。

彼らは口を動かすが声は頭に直接届いてくる。

だから声を頼りに声の主を探せない。

ただ、私を怒らせた張本人が右を見ていたから、向かい合っている私は左に視線を移した。

そこには私がスクショを撮った『器用に魔法球を14個も手にしていた少女キャラ』が立っていた。


「理解とは『ナニサマだよこの野郎』ですか? 『偉そうにいうなら自分で何とかしろよ』ですか? 『分からないなら口をだしてんじゃねえよ』ですか? 『ムダに役にも立たない正義感かざすんだったらなんで私たちを巻き込んだんだ、このクズ!』ですか?」


《すべてをまとめて『救いようのない、救いたくもない、救う気も失せた愚か者』ってことです》


あー、可愛い笑顔で毒づいているよ。


「頭の足りなさに関しては理解した」


《さすがです。ところでこの環境を戻してもいいですか? もうしばらく反省のためにこのままにしていましょうか?》


「私が寒いから、元に戻せるならお願いしてもいい?」


《はい、わかりました。ありがとうございます》


少女は私に頭を下げると右腕を空に伸ばした。

それにあわせて黒かった空が明るさを取り戻した。

今度はおろした右腕を左から右へと薙ぎ払う。

すると大地は草や木々が生え戻った。

逆再生ではなく見えなくなっていた周囲が明るくなって見えてきたようだ。

ただと言えるのは、裸足で触れている大地を感じていたからだ。


《お礼にこの事態を引き起こした愚か者には重い罰を与えます》


「それに私も含まれているよね? この事態を引き起こしたのは私も同じでしょう?」


《いいえ、あなたは被害者です。不適切な態度をとられたら怒って当然です》


そういった少女は私に向けた笑顔のまま諸悪の根源を見つめる。

それだけだったが一部、目から発する温度が氷点下まで下がっていた。


《覚えておいてくださいね》


言われた張本人の目が泳いでいる。

その目が私に固定されて縋るように見つめてきたが、元を正せば自業自得。

ジーッと見つめ返して笑顔になると許されると思ったのか表情がゆるんだ。

それを見返してプイッと顔をそらすと、視界の端でショックを受けた表情のあとにガックリと肩を落とした。

だからさあ、何で謝罪ができないんだよ。


《申し訳ございません。ぬるま湯で育ったので非常識に育ったようです》


まさかと思うけど私の思考を読んでる?


《誤解なさると思われますが、私以外には読まれていません。それと私が読めるのも表層部分だけです。そして『誰かに向けて』の疑問だけです。先ほどは『何で謝罪ができないのか』という問いだったのでわかりました。その前に何やら呆れた感情を察知しましたが、何をお考えかは私でも分かりません》


じゃあ、なんで私の頭に直接声が聞こえるんだ?

あ、目が合った……キモッ!


《はい、私たちは口を動かしますがそれはクセですね。実際は今みたいに口を動かす必要はありません。それは私たちの声が思念でできているからです》

〈聞こえたのはこれだけ? うーん、テレパシーみたいなやり方で合ってるのかな? 大丈夫? 聞こえてる?〉

《はい、先程聞こえたのは『なぜ直接頭に声が聞こえるのか』という問い合わせでした。それと、『テレパシー』というものは私には分かりませんが、しっかり聞こえています》


あ、感情は聞こえないようだ。

さっきのキモいと思った声までは届いていない。

─── 聞いてないフリかもしれないな。


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