集団召喚⁉︎ ちょっと待て!

春の小径

第一章

私はそんな仲間たちとの日々を大切に思っていたんだ


最近のラノベで多いのが『集団で召喚されちゃった』とか『え? 勇者&聖女召喚に巻き込まれちゃった⁉︎』というもの。

まあ、自分もそんなものを妄想全開で読み散らかしている一人だが。

そんな中、自分がそのどちらのジャンルにも混じる状態に陥るとは思わなかった。



『本日、先着順で10ギルドに特別イベントに参加願うこととなります』


いつものスマホ用ゲームアプリにタブレットからログインすると、自動で開いた【お知らせ】にそんな一文が表示された。

バックにはニッコリ笑顔のゲームキャラが大事そうに両手で胸の前に掲げている水色の球体。

このゲームで『魔法球』と呼ばれる、魔法が封印されたマジックアイテム。

イベントに参加するだけで配布されるその魔法球は、課金しないともらえない期間限定レジェンドかSレアがランダムでもらえる。

さらに魔法にはレベルがあり、合成すると魔法名の後ろに(+)(++)(+++)と続く。

最大は11回合成してもらえる(☆)だ。

レベルアップはあってもランクアップはない。


お知らせのスクショを撮り、右上のバツ印をタップしてゲーム画面に入る。

スクショを撮ったのに理由はない。

こういうゲームの特徴として、特別画面は一遍こっきりのことが多い。

今回もただなんとなく……気になったのだ。


《でも急ですね。いつもなら遅くても三日前からの告知なのに》

《夜中は告知されていませんでしたよ。2時にログインしてたから》

《魔法球がイベントの報酬なら参加者は多いですよね》

《でも、開始は何時から?》

《海外の運営サイトだから相変わらず日本語が下手だよね》


すでにギルドのチャットでは特別イベントの話で盛り上がっていた。


〈こんちゃ~〉

《おつかれ~》

《こんにちは》

《以下略》

〈りょ〉


軽く挨拶を交わして過去ログをチェック。

最後の二つはただ単純に『挨拶は省略するよ』『了解です』という意味だ。

挨拶だけでチャットが流される訳にはいかないからね。

ちなみに戻れるのはログイン15分前まで。

過疎化していれば12時間前まで戻れる。

チャット画面4ページ分だ。


「あれ?」


特別イベントの話が始まったのは約5分前から。

その前にはデイリークエストのボス戦討伐の成果がシステムで流れているだけ。


〈告知ってさっきだったの?〉

《うん、そう》

《ギルマスがお知らせに気付いたんだ》

《ああーりがう》

《ギルマス、ありがとう? ああ、違う?》

《後者。打ち直そうとしたら送信を押してもた》

〈ギルマス、違うってなにが?〉

《システムテロップに流れたんだよ。それに気付いただけだ》


ゲーム中に上の方でテロップが流れる。

誰がログインしたか、誰が何の合成をしたか、────── 誰が何にいくら課金したか。

テロップで流れても過去ログに残らない情報も多い。

それがシステムの問題点で改善希望が言われているものの効果はない。

今回のように大事な情報も残らないことが多く、「メンテって今日だったの⁉︎」と騒ぎになるのだ。

とりあえず特別イベントの情報を詳しく知ろうと【お知らせ】を開くと……


「え? ないじゃん」


お知らせには特別イベントに関することはなにも表示されていない。

チャットのシステムにも残っていない。

まだ15分たっていないのに記録が残っていない。


〈ちょっとー、お知らせに出てないんだけどー〉

《出たり出なかったりしているんだ》

《教えて、エロい人》

《教えて、エモい人》

《ちょっと待ってて。スクショ撮ったから》

〈おー、さすがサブマス〉

《役に立たないギルマスで申し訳ない》

《役に立たないギルメンで申し訳ない》

〈役に立たない無課金者で申し訳ない〉


私たちのギルドではこんな感じでゆるく会話が続く。

誰かがクエストに行くと言えば助っ人に行き、強敵と戦うときはギルドを越えて『体力削り隊』がでてくる。

ゲームの世界だけど、私はそんな仲間たちとの日々を大切に思っていたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る