第43話「師弟の連繋攻撃~剣と魔法~」

「師匠! 加勢します! ジェノサイド・ドールの説得は無理です! まずはシガヤ先生を倒さないと!」

「そうか。まぁ、そうだな。精霊を眷属化するなんて信じがたかったが……」


 俺は師匠と並ぶように陣取った。


「うふふふふ~♪ わたしとしてもヤナギくんのようなむかつくクソガキは自ら殺したいところですから~♪ ふたりまとめて相手してあげますよぉ~♪ 師弟揃って仲よく冥府に送ってさしあげます~♪」


 シガヤ先生は長大な鎌を右手で構えつつ、左手のひらに黒魔力を集中させていく。


「ヤナギ、この剣を使え」

「えっ、あ」


 師匠の魔力が発動するや、左手に黒い柄と白銀の刀身を持つ剣が現れる。

 それをこちらに放り投げた。


「おっと」


 俺はボロボロだった元の剣を捨て、それを右手で受け取る。


「わたしが作りだした聖魔剣だ。早くおまえに渡してやりたかったのだが今日の昼になってようやく完成したのでな。わたしの魔力が半分込められている。ここから魔力を供給することができる」


「えっ……ほ、本当だ!?」


 魔力を供給できる剣なんて聞いたことがない。

 しかも、ものすごい魔力量だ。


「あー、なるほどぉ~♪ 魔王なのにいまいち魔力量がすごくなかったのは、そんなヘンテコな剣を作っていたからですか~? 正直、バカじゃないかと思いますね~?剣なんて所詮は武器~、手から離れた途端に意味がなくなるんですよ~?」


「師匠の作ってくれた剣は死んでも離しませんよ」


 師匠の温かい魔力を感じる。底知れない暗い魔力も感じるとはいえ、戦場で傷ついた俺を幾度となく癒してくれた師匠の温かい魔力と変わらない。懐かしさを覚える。


「すまんな。さっさと渡すべきだったが、タイミングを逃していた」

「いえ、助かります! さっそく使わせてもらいます! 師匠の魔力を!」


 聖魔剣から魔力を取り出し内在系の魔法をあらためて行使して肉体を強化する。

 そして、薄くバリアも全身に張り巡らせた。


「まったく、そういうものを見らせられると気色悪くてたまりませんね~? 教師と教え子なんて、所詮、他人なんですから~?」


 シガヤ先生は眉間に皺を寄せながら吐き捨てるように言う。

 それに対して――。


「違う。俺たちは」

「わたしたちは」

「「師弟だ」」


 同時に答えた。

 師匠と弟子。それは教師と教え子というものとは次元が違う。

 戦場の最前線で育まれた俺たちの師弟愛は、家族の情に近い。


「イラっとしますね~? じゃあ~、師弟仲よく殺してやりますよぉ~!」


 シガヤ先生は牙を剥き出しにして叫ぶと左手から広範囲攻撃魔法を放ってきた。


 さっきまでは回避するしかなかったが師匠の魔力を使えるようになった俺はバリアを張ることができる。


 師匠は黒い障壁だが、こちらは紫だ。

 もともとの俺の魔力色は青だったので師匠の黒色と混じって紫になったのだろう。


「本当にいちいち腹の立つ存在ですよ~、あなたたちは~!」


 シガヤ先生は長大な鎌を右手にして突っ込んでくる。

 一閃、二閃、三閃――リーチの長い鎌は、まさに死神の刃。


「吸血鬼と死神のハーフだったな、おまえは」

「うふふ~♪ 貴族と騎士の血も混じってますよ、わたしは~!」


 シガヤ先生は自ら答え合わせをしながら、長大な鎌を振り回す。

 なんという膂力と魔力と技術。

 これだけ派手なスイングなのに飛びこむ隙がない。


「処刑します~! あなたたちのような正義を振りかざす偽善者たちは~ひとり残らず冥府の底に叩き落とすんですよぉ~! あはははは~っ♪ あっはははははぁああああああぁ~♪」


 狂気、凶器、狂喜――。


 燃え上がるように感情を爆発させつつも、それとは対照的にどこまでも冷たい鎌が襲ってくる。


「まさかここまで壊れていたとはな。わたしは甘すぎた」

「くっ、シガヤ先生! 俺は仲間を殺したあんたを許さない!」


 俺と師匠は左右に散るとシガヤ先生を挟撃する構えをとった。


 いくらリーチが長いとはいえ、まったく別方向にいれば攻撃が当たることはないだろう。


「いくぞ! ヤナギ!」

「はい!」


 連繋をとって攻撃に移る。

 しかし――、


「甘い甘い甘い甘いですよぉ~!」


 シガヤ先生は長大な鎌を手にしたまま回り始めた。

 それはあたかも高速回転する独楽(こま)。


「くっ、厄介だな」

「師匠、一旦、下がりましょう」


 これだけの速度で長大な鎌を振るわれると飛びこんで斬撃を放つことはできない。


「逃がしません~、逃がしませんよぉ~! あはははあはははは~、あっはははははあああぁ~!」


 さらに勢いは増していき――ついにはひとつの竜巻と化した。


 衝撃波も発生しているのか、後退したにもかかわらず鎌鼬のように不可視の斬撃が発生して傷がつけられていく。


「ならば!」


 師匠は左手から光属性の魔力波を放つ。

 吸血鬼であるシガヤ先生には通用するはずだが――いともたやすく弾かれた。


「無駄無駄無駄無駄ですよぉ~! どんな魔法も無意味ですからぁ~! あはははははは~! 殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺~~~! 殺戮開始ぃい~~~♪」


 十分に勢力を増したのだろう。シガヤ先生は攻勢に転じた。

 物理攻撃や衝撃波のみならず様々な角度から魔法刃が襲いかかってくる。


「くっ!」


 竜巻から放たれる刃は不規則で軌道を読むことは難しい。

 というよりも不可能だ。

 

「見ようとするな。殺気を感じろ」

「っ、はい!」


 いくつもの修羅場をくぐりぬけてきた師匠は、さすがこういうときも冷静だった。

 そうだ。

 戦場において一番やってはいけないのは慌てることだ。


「平常心」


 これこそが剣の極意。

 口に出して――心を落ち着けていく。


 心を研ぎ澄まして明鏡止水の境地に至れば、徐々にシガヤ先生の攻撃パターンや癖ともいうべきものがわかってくる。


「あはっはははあ~♪ 防戦一方ですねぇえ~~~♪ 逃げているだけでは戦いには勝てませんよぉ~~~♪」


 こちらが反撃に出ないことを手も足も出ないと判断したようだが、俺も師匠も攻撃を見切りつつある。

 やはり、まずは……あの回転を止めないことにはどうしようもない。


「ヤナギ。わたしが止める。おまえが仕留めろ」


 それだけ言うと師匠は剣を消した。

 師匠になにか策があるというなら――俺はそれに従うだけだ。


「天雷直下(てんらいちょっか)!」


 師匠は雷性魔法を唱えて――上空から竜巻の中央へと落とす。

 続いて――、


「噴土竜(ふきもぐら)!」


 右拳を地面へ勢いよく叩きつけた。


 それとともにシガヤ先生の足元の地面から土が噴き出したのか竜巻の向こうが土煙に包まれる。いずれも、俺が初めて見る魔法だ。


「ぶはっはははあ~!? こ、小癪なマネをぉお~~~!」


 無敵を誇った竜巻が止む。上からの雷撃に加えて足元の土を噴き上げさせて視界と呼吸を乱すとは思わなかった。さすが師匠。

 殺戮のことしか考えていないシガヤ先生には思いもしない魔法の使い方だろう。


「らああああああああああああ!」


 そして、俺は師匠が絶対に隙を作ってくれると信じていたから――すでに全力でシガヤ先生に肉薄していた。


「斬!」

「んぐぅ~!?」


 長大な鎌で受けとめようとしたシガヤ先生だが――俺の狙いは最初から鎌の半ば。

 まずは――武器の無効化だ。


「なぁああ~!? くぅう~!」

「次は本体――!」


 鎌首を落とすことはできた。あとはシガヤ先生自身だ。

 俺は振り下ろした聖魔剣を今度は横に薙ぐ。


「っぐぅう~!」


 完全に虚を突いたかと思ったが――シガヤ先生は背中の翼を羽ばたかせて飛び下がる。それでも俺の放った斬撃は、胴体に横一文字に傷をつけた。


「や、や、や、やりましたねぇ~~~~~~!」


 着地したシガヤ先生は、地の底から響いてくるような怨嗟の声を上げて俺を睨みつけた。胴体からは血が滲み、ポタポタと垂れている。


「ヤナギ、相手は手負いだ。気をつけろ」

「了解です、師匠」


 師匠はいつでも魔力を発動する構えをとり、俺も改めて聖魔剣を握り直す。


「くうぅぅう~! ……ふふ、ふふ~、でも、なにも正面切って戦う必要はないですからねぇ~! スズネちゃあ~ん! このふたりを滅殺してくださぁ~い!」


 シガヤ先生は地の底から響くような声でスズネに呼びかけた。

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