第41話「真実と真実と危機」
「うふふふ~、反吐が出ますね~。イキっているガキも嫌いですが~いい子ぶってるガキはもっと嫌いですねぇ~?」
「貴様、それでも仮にも教育者だった者の言葉か」
こちらの会話が聞こえていたのかシガヤ先生が伸びやかな口調でクズ発言をする。
師匠が斬りかかるが、それを巧みなステップでかわしていた。
というか師匠相手に減らず口を叩く余裕があるなんて……シガヤ先生の技量はどうなっているんだ。
「そうそう~、イキっているガキ代表のヤナギと暗黒黎明窟穏健派のポンコツナンバー2に教えといてあげましょうか~? 先の大戦であなたの軍を急襲して惨殺しまくったのは、実は~、わたしです~♪ いやぁ、楽しかったですよぉ~♪ せっかくの有給休暇でしたから殺戮のバカンス楽しんじゃいました~♪」
「なっ!?」
「なんだと? しかし、傷は鎌によるものでは……」
思いもしない方向に話が飛んで、俺と師匠は動揺する。
そんな俺たちを見て、シガヤ先生は歯を剥き出しにして嗤った。
「あっはは~、わざわざ証拠残すわけないじゃないですかぁ~♪ わたしは剣も得意なんですよ~♪ 味方を背後から急襲してワンサイドキルしていくのすごく楽しかったです~♪ あとは帝国軍の兵士も隷属化して協力してもらいましたからね~♪」
俺がアンド・ロイド・ドール・零式と戦っている間に、仲間たちは敵軍との戦いで全滅したという話だった。
だが、仲間がそう簡単にやられるはずはないと思っていた。
「……虚を突かれたとはいえ全滅はおかしいとは思っていたが……あのとき一瞬だけ感じた禍々しい魔力は、おまえだったのか……」
「奇襲は戦の基本ですからね~♪ あなたが戦場に駆けつける前に離脱したんですよ~。魔法で現場を見てましたが~、わたしが隷属化した帝国軍兵士をあなたが狂ったように斬りまくっていたのは滑稽でしたね~♪」
本当に……あの戦場にシガヤ先生がいたのか……?
そして、俺の仲間を殺戮した……?
「まあ~、もうどうでもいいですよねぇ~? どうせ世界は滅ぶんですから~♪ は~い、では~、本日の主役登場です~♪ ガキに頼るのは嫌いなんですが~、そうも言ってられないですしね~♪」
シガヤ先生の言葉とともに、校庭の一角の空間が歪む。
闇が、すべてを覆い尽くすような漆黒が――出現する。
「スズネちゃん……」
カナタが、ポツリとその名を呼ぶ。
そう。現れたのは――スズネだった。
だが、先日見たときとは雰囲気が違う。
瞳が昏い。真っ黒だ。
「…………」
ただ沈黙してそこに佇んでいるだけなのに、すさまじい存在感だった。
まるで、すべてが呑みこまれてしまうかのような――。
唐突にシガヤ先生が肩を震わせる。そして、
「ふふふっ、ふはっ、あっはははははぁ~~~♪ この子を完全に隷属化するのはぁ~、すっごく大変でしたよぉお~~~? なんてったって、あの『虚無の精霊』ですからねぇ~?」
「バカな。精霊を隷属化させたというのか!」
「あなただって禁忌を使って魔力を大幅にアップしてるじゃないですかぁ~? それってもしかすると魔王の力なんじゃないですかぁ~? あなたこそ、なんてものに魂売ってるんですかぁ~?」
なにを言っているんだ……?
あまりにも理解を越えた話になっている。
「世界を救うなんてこと~、魔王になってまでやることですかね~?」
「……。わたしには守るべき者たちがいる。戦場で救えなかった命が無数にあった。強くなるためには魂でもなんでも売るさ。世界が滅ぶぐらいなら、わたしは魔王になってでも世界を救う」
そんな……師匠が魔王? 普通の人間が魔王になることなんてできるのか?
師匠の魔力が以前よりも格段に上がっているのはわかった。
纏うオーラが以前よりも暗いもの変わっていた気はしていたが……。
「ヤナギ、カナタ……そして、リリィ。あとのことは頼んだ」
師匠はこちらに背を向けたまま言った。
そして――その身体から暗黒色のオーラが爆発的に放出される。
「し、師匠っ……」
「おまえにこんな姿を見せるのは不本意だったのだがな。致し方ない」
師匠の頭部から一対の角が頭皮を突き破るように出現した。
これは鬼――いや、魔族の証。
本当に師匠は魔王になったのか?
「うっふふふ~! あっははははぁ~! よくお似合いですよぉ~? いっそバンパイアのわたしと魔王のあなたで組んだほうがいいんじゃないですかぁ~? そのほうがビジュアル的にふさわしいんじゃないですかぁ~?」
「黙れ。わたしの師団の兵士を惨殺したことは絶対に許せん」
「部下思いですねぇ~? そういうの見ると反吐が出ちゃいますねぇ~? それでは~、世界が滅ぶ前に暗黒黎明窟急進派と穏健派の最強同士で頂上決戦といきましょうかねぇ~? ふふ、スズネ~、あなたにはあの三人をやってもらいますよ~」
「イエス、マイロード」
スズネは暗い瞳のまま抑揚のない声で肯定する。
そして、こちらに向かって両手を向けた。
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