第40話「カナタの純白魔法球」

 師匠はシガヤ先生と交戦中。

 魔剣と長大な鎌がぶつかりあい、青白い火花が散っている。

 カナタたちのほうは――。


「あぁ、もう! 本っ当に面倒くさいですわね!」

「うるっせぇ! おまえたちが倒れるまで、あたしは攻撃をやめるつもりはないんだよぉおおおおお!」

「や、やめてっ! ラビさん! みんなぁ! あたしたちクラスメイトが戦う必要なんてないよぉ……!」


 やはりカナタは優しすぎる。

 ラビを始めとするクラスメイトたちが攻撃魔法を集中させていても反撃しない。

 カナタが戦う意志がないことから、リリィも防戦一方という状態だ。


「カナタ! 傷つけなければいい! とりあえずこいつらは気絶させておけ!」


 大声で指示を出す。俺が全員峰打ちすることもできるが、カナタのこの戦闘意欲のなさはいずれ自分の身を危険にさらすことになる。

 美徳は美徳として、戦うときは戦う気持ちを持ってもらわねば。


「で、でもっ」

「いいんだ! それが本人たちのためにもなる! おまえが人を傷つけることを嫌っていることはわかる。だが、時には戦わなきゃいけない場合があるんだ。そうすることで傷つく人を減らすことができる!」


 俺も最初に戦場に出たときは、敵とはいえ人を斬ることには葛藤があった。

 だが、味方の命をひとりでも多く救うためには戦うしかないのだ。

 無益な殺生はしない。しかし、いざとなったら躊躇しない。


「カナタ! これはみんなのためだ! ひいては世界のためだ! やれ!」

「そうですわよ! こんなところでグズグズしている場合ではないですわ! こんな状態で暗黒黎明窟急進派が攻めてきたら救える命も救えなくなりますわよ!」


 俺たちの声を受けて、揺らいでいたカナタの瞳が定まった。


「う、うんっ……! ごめん、そうだよね……! 逃げてちゃダメだよね……戦うことから」


 そう。それでいい。優しさだけでは人を救えない。

 やるときはやる。その気持ちを持つことで強くなることができる。


「みんな、ごめんね!」


 カナタは魔力を解放する。

 それとともに全身から雪玉のような純白魔法球が無数に生み出されていった。


「ええいっ!」


 カナタの言葉とともに、一斉に魔法球が動き出す。

 って、一度に全部動かす気か!? それはかなり高度な技術力を要するのだが――。


「うわっ、来るなぁああ!」


 ラビは魔法を放ったが、カナタの放った無数の魔法球は意志あるように魔法波をかいくぐりラビに直撃した。


 その即効性はすさまじい。触れただけで意識を失ったのかラビは倒れこんだ。

 そして、ほかのクラスメイトに次々と吸いこまれていき昏倒していった。


「……すごいな」


 これだけの魔法を同時に使って、完璧に制御しきっている。

 中には全力で回避しようと動いた者もいたが、それも追尾してヒットさせていた。


「しかし、効果が絶大だな……」


 って、これは、もしかして――?


「えっと、これ……動物病院で使っていた魔法……手術のときに痛くならないように麻酔魔法を使ってたから」

「なるほど。だからここまで上手く制御できていますのね? でも、これだけの数をコントロールするなんて、すごいですわね……」

「そっ、それはリリィちゃんのおかげだよ……! 夢の中でわたしに術式の組み方を丁寧に教えてくれたから! ありがとう、リリィちゃん!」


 カナタにとって学園生活的にはハンデを背負った一年だったとも言えるが、これだけの術式を編めるようになったのだから、無駄ばかりではない。


「ま、まぁ……わたくしもあなたの中で休息をとらせてもらっていたわけですからね。それぐらい当り前ですわ。むしろ、わたくしのせいで遅刻令嬢という不名誉なアダ名をつけられてしまったわけですから……責任を感じないでもないですわ」


「責任なんて感じることなんてないよ! わたし、リリィちゃんと夢の中で過ごせた一年間、とっても楽しかったし、今もこうして友達になれたし!」


 さすが次の人類の始祖に選ばれるだけある。

 カナタの性格のよさは、ほかの追随を許さない。

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