第8話「鑑定スキル発揮・VS名門貴族剣士」
「それでは、皆さんに模造剣を配ります~。委員長さん、お願いしますね~」
「はい」
先生の指示を受けてメガネをかけた真面目そうな生徒が倉庫へ向かう。
鉄扉を開き、中から鞘に入った大量の木剣の入った台車を運んできた。
「それでは皆さん~、模造剣を受け取ってください~」
クラスのみんなに続き、俺とカナタも模造剣を受け取る。
なんのへんてつもない訓練用の模造剣に見えるが――違和感を覚える。
「先生、これ……呪いがエンチャントされてますよ? カナタのにも。というか、みんなのにも」
俺ほどのレベルで、かろうじてどうにかわかるほど探知が難しい。
かなり微小だが、確かに『アンラッキー』の呪いが付与されている。
これを使って戦うと命中率は下がるし、最悪、自らの剣で怪我することもある。
特に、振り下ろした剣で自らの足を負傷するということは戦場でもあることだ。
「あの~ヤナギくん~、変なことを言うのはやめていただけませんか~? この模造剣は学園の備品ですよ~? そんなものに呪いがエンチャントされているわけがないじゃないですか~?」
「さっきはゴーレムが暴走してたじゃないですか?」
「あれは例外中の例外ですから~」
とは、とても思えない。
やっぱりシガヤ先生はうさんくさい。
「でも、確かにこれは呪いがエンチャントされてますよ。数字にすると、マイナス3パーセント補正ってところだと思います」
「そもそも~、なんでヤナギくんが、そんなことわかるんですか~?」
「うっ……」
もっともな疑問だ。普通はそんなことがわかるはずがない。
だが、鑑定スキルはほとんど魔法を使わなくてもわかるのだ。『目利き』はこれまでどれだけ数多くの武器を手にしてきたかが物を言う。
「どうして、そんなことわかるんですか~?」
シガヤ先生は、疑わしい者を見る瞳で俺に訊ねてくる。
やばい、これはどうにか誤魔さないと……。
「え、えっと、俺……実家が古道具屋なんですよ! それで家業の手伝いをするうちに『鑑定』とか『目利き』のスキルが上がって……」
思いついたままを口にしただけだが、ナイスな言い訳ではないだろうか?
だが、俺の返答を聞いて、クラスメイトがさらにざわつく。
「なんだよ、庶民の中でもそれなりに地位があるかと思えば古道具屋かよ!」
「ぷはは、じゃ、ゴミでも毎日漁ってたんじゃねーの?」
「やだ、きたなーい!」
予想外のことで、またクラスの連中から侮れた。
しかし、貴族というのもずいぶんと口が悪いな。
俺の勝手に描いていた貴族のイメージはガタ落ちだ。
「ほらほら皆さん~、静かにしてください~。授業続けますよ~。あと、ヤナギくん~……あなたの家が古道具屋だろうとなんだろうと~学園の備品に文句をつけるのは論外ですからね~? あまりおかしなことばかり言っていると内申点に響くので慎んでくださいね~? あまりマイナスポイントがたまりすぎると~出席停止や留年、退学になりますから~」
シガヤ先生はいちいち俺に釘をさしてから、授業を再開した。
俺としても、いちいち呪いを立証するのは面倒だった。
このエンチャントの仕方は、かなり精密だ。
これを解呪するとなるとかなりの魔力量が必要なので、今の俺では無理だ。
なお、解呪が成功すると武器は独特の淡い光を発するので、それで証明できる。
「それでは時間もなくなってきましたし~、さっそく模擬戦を行いましょうか~」
準備運動もなしにいきなり戦うというのは俺としては全否定したい考え方だ。
怪我の防止の観点から、絶対に準備運動は必要だ。
だが、ここで異議を唱えると内申点をマイナスにされるかもしれない。
まったく、厄介な制約がついたものだ。
そんな中、クラスで最も不良っぽい金髪の髪が逆立った生徒が進み出る。
教室で俺に対して悪態を吐いていた奴だ。
「先生! 剣術の授業ならまずは俺にやらせてくださいよ!」
軽薄そうなチャラチャラした感じだが、臨機応変に動けるような歩法ができている。それなりに剣術を習った人間だとわかった。
「いよっ! 麗閃(れいせん)一刀流次期当主!」
「帝国貴族一の剣の名家!」
取り巻きのような連中が囃し立てる。
そうか。麗閃一刀流か。我流とはいえ剣をやっていた俺も知っている。
貴族なら誰しもが習う伝統と格式ある剣術流派。
それを代々務るのがワーグ家といったか。そのボンボンといったところか。
「それでは~、まずはロイルくんにお手本を見せてもらいましょうか~」
こいつの名前はロイルと言うらしい。つまりロイル・ワーグという名前か。
まぁ、どうでもいいっちゃどうでもいいな。
「先生! せっかくなんで俺ヤナギと戦っていいっすか!」
「あら~、ヤナギくんはさっきゴーレムと戦ったばかりですけど~……まぁ、ロイルくんのリクエストなら、しょうがないですね~、ヤナギくん、それでは対戦してください~」
いや、ほんと、ここまでメチャクチャな教師だと腹が立つどころか呆れるばかりだな……。こんなの授業でもなんでもないだろう。
でも――。
「そのほうがわかりやすくていいか」
俺としても、かなりフラストレーションが溜まっていた。あまり目立つのはよくないと思っていたが、剣術なら俺の技術力で誤魔化しが効くだろう。
「ヤナギ! さっさと来いよ! 庶民のおまえに貴族の剣術を特別に見せてやるぜ!」
ロイルは自信満々で校庭のど真ん中に移動する。
やれやれ、大した自信だな。実戦を知らない奴ほどイキるから困る。
俺は模造剣を手に取ると、ロイルと対峙する位置まで移動した。
「……おまえさぁ、さっさと学園やめろよ。名門ゲオルア学園におまえのような庶民が来るってこと自体おかしいんだよ。場違いすぎんだよ」
ロイルは俺のことを睨みつけながら、そんなことを言ってくる。
「それは飲めないな。俺はこの学園で青春を送るつもりだ」
「は? 青春を送るだぁ? ぶははははははっ! この学園におまえの居場所なんてねぇから! このまま病院送りにしてやるよ!」
ほんと、貴族の子弟の根性がここまで腐っているとは。
これは……ちょっと性根を叩き直してやらないといけないかな。
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