第2話「花咲き誇る上級貴族の学園へ」
☆ ☆ ☆
「ここが、ゲオルア学園か」
百花繚乱。学園を囲うように咲き乱れる名のある花々。
名門中の名門であり、高貴なる者しか入れない学び舎。
「俺のいた血と土にまみれた世界とは対極的だな」
貴族の通う学園とはいえ軍事魔法を扱うのだ。
だから、一応は軍人になる者もいる学校のはずだが――およそ戦う者を輩出する雰囲気とは程遠い。
「まあ、貴族は参謀本部務めばかりだったからな。最前線で戦ってた奴らは、みんな地方出身の叩き上げが多かったし……」
俺の周りにいた奴らのほとんどが徴兵された奴らか志願兵ばかりだった。
ゲオルア学園出身の前線指揮官は皆無だし、たまに上から現場無視の無茶な命令が来たが、だいたいが参謀本部のアホからだった。
「いつも危険な最前線に行かされるのは庶民かそれ以下の存在である俺のような孤児ってわけか」
色々と複雑な気持ちになるが、戦場に出ている間は最低限の食料は出た。
それだけでも、よしとするべきかもしれない。
「この学園に入って普通に学生生活を送るのって戦場で生き残るよりも難しいかもな」
俺は作戦に臨むような気持ちで、校門へ向かうが――。
門の前に立っていた守衛がふたり、俺に槍を突きつけながら行く手を遮った。
「なんだおまえは!」
「おまえのような庶民が近づいていい場所ではない! 帰れ!」
守衛たちは俺を見てもまったく実力がわからないらしい。
ある程度のレベルまで鍛練すると、だいたいの実力差がわかるものだが。
やっぱり王都の連中は平和ボケしているということだろう
だが、こんなところで揉めていても仕方がない。
「俺は転校生です。これが添え書きです」
師匠に渡された紹介状を懐から取り出した。
魔導紙によって作られており、師匠直筆の魔導サインもしっかりとある。
これは公文書としての効力を持つ。
「ソノン学園長の添え書きだと?」
「……ニセモノではないのか?」
守衛たちは顔を見合わせる。
というか、師匠は、俺が来るということをちゃんと伝えていないのだろうか。
……まぁ、師匠ならありうる。あの人は事務仕事が一番嫌いなのだ。
「……待て。確認をしてくる」
守衛が魔導紙を手にして学園のほうへ行こうとするが――。
魔力の気配。
一瞬後、目の前に幻影のように人影が現出した。
『それには及ばん。彼が転校生のヤナギ・カゲモリ本人だ。さっさと通せ』
俺のことを見守ってくれていたのだろう。
師匠はわざわざ説明のために幻影魔法を使ってくれた。
「が、学園長様!?」
「か、かしこまりました!」
守衛たちは慌てて槍を引っ込めると、門を開いて左右に退いた。
「ご苦労さま」
まあ、この人たちも自分の仕事をしただけなので責められるようなものでもないだろう。俺が貴族らしい格好をしていたら対応は違っただろうが。
『こっちだ』
師匠の幻影は俺を先導してくれる。
中庭も色とりどりの花が咲き誇り、つい一年前まで戦争をしていた国の学園だったとは思えない。
『こんなところで学園生活を送っているから平和ボケしてしまうのではないかと思うがな。いっそ生徒たちに塹壕(ざんごう)を掘らせて中庭を戦場みたいにしてしまおうかと思ったのだが学園の教師陣が反対してな』
「さすが師匠」
なにごとも実践重視・現場重視の師匠らしい考え方だ。
さすがに学園に塹壕を掘るのは殺伐としすぎだとは思うが。
「というわけで、この学園の連中の性根を鍛え直してやってくれ。しかし、やりすぎないようにな。死人が出たら元も子もない」
「それは、そうです。俺もそのあたりは考えてます」
やはりいきなり目立つのはよくない。
力もできるだけ抑えて生活しよう。
まずは、この学園に馴染むことを第一に考えねば。
そうしないと友達を作ることも青春を送ることも難しくなってしまうだろう。
『あまり気負わずにやってくれればいいさ。おまえほどの優秀な戦士なら、その場その場で最善を尽くせると信じている。わたしがこれまで接した中で最も傑出した人物だからな、おまえは』
「褒めすぎですよ」
とはいっても師匠からそこまで言われると悪くない気分だ。
歳の離れた姉といった感じだし。
『ここだ。おまえの教室は1-3白百合組だ。担任はシガヤ・ホワイトローズだ』
クラスにそんな名称がつけられているとは。
しかも、担任が白薔薇。華やかなことだ。
『あとは上手くやってくれ。健闘を祈る』
最前線で指示をするきと同じ言葉で締めて、師匠の幻影は消えていった。
これでは、まるで任務だ。
いや、だが、実際、任務なのだ。
これは、難しい任務になる。
ただ戦えばいいというものでもない。
戦場では敵味方がハッキリしているので敵は殲滅すればいいが、教室での人間関係ではそんなに単純にはいかない。
俺は気を引き締めた。
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