第18話 ニーナside (火傷を負った使用人)


 キャシー様が私の手を見なくないと言ったあと、私はあっという間に食堂から出された。


 その後、お医者様に腕の火傷を診てもらった。


「酷い火傷だね。これは痕が残るな……」


 ああ……、これでもうお終いだ……。そう思った。


 キャシー様のあの態度で分かった。多分此処ではもう雇ってもらえないかもしれない……。ケイト様もキャシー様と同じ反応をするだろう。だけど、此処でクビになってしまえば他所で雇ってもらうことも容易くは出来ないだろうと思う。


 それと、もうひとつ。この火傷によって出来なくなったこと。ーー結婚。もう私はお嫁に行けないだろう……。こんなに酷い火傷を負った女などまず貴族の男性や、裕福の男性は娶らないだろう……。平民でも難しいかもしれない。


 お金のある男性に嫁げば私の実家の援助もしてくれたかもしれないのに……。その未来はなくなってしまった……。


 家族に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 だから、どうしてもこの公爵家で働かせて貰わなければならないと必死に縋った。


 その姿が哀れだったのか、私は他の使用人達から嫌悪されつつあった。そして、何故だかあの床の掃除を怠ったのは私になっていた。


 何故?とそう思ったがボニーが私を見ながらニタニタしていた笑顔をみて、ああ、擦りつけられた……、そう思った。それから、私は使用人達の中のターゲットにされた。セシリア様がされていることと同じ様に。


 それでも、私の愛する家族がお金に困らない様に給金は減るかもしれないが、そこら辺の給金とは比べ物にならないから辞めるわけにはいかない……。


 そんな思いで執事長に縋った……。




 すると、ひとつだけ私がこの公爵家で雇い続ける道が示された。


 ーーそれは、セシリア様付きの侍女になること。


 私はそう執事長に言われた時は驚いた。だって私はただのメイドだ。セシリア様といえど、いきなり侍女にはなれない。それに、セシリア様が私のことを許すとは思えない……。


 だけど、最後の望みをかけてセシリア様に誠心誠意謝罪をしよう!


 ーーもし、セシリア様が私のことを許さないのなら私は……ここを辞めよう。あんなに幼い子に暴力を振るった私だもの、拒絶されるに決まっているわ。だから、せめてもの償いとしてセシリア様に謝罪し、潔くここを去ろう……。






「いいよ。ゆるす」


「……え?」


 セシリア様はさらっと私のことを許して下さった。私は当然許されないと思っていたから驚いてしまった。


「だから、ゆるしてあげる」


「ですが、私はセシリア様に許されないことを……」


 信じられない私はセシリア様に確かめてしまう。


「もう、ゆるしてほしいの? それとも、ゆるさないでほしいの?」


 セシリア様は困った様にそうおっしゃった。そんなセシリア様を見て私は涙が溢れて来た。


 こんなに幼いのにとても優しく気高く器の大きい方は他にいらっしゃらない。どうして私はセシリア様にあんなに酷いことをしてしまったのか……。いくら後悔してもし足りない。なのに、私のことを救って下さったセシリア様。


「セシリア様……。ありが、とう、ご、ざい、ます!」


 涙を流しながら私はセシリア様にお礼を言うことしか出来なかった。


 私がこれからセシリア様に出来ること。ーーそれはひとつしかない。


 ーーセシリア様に私の絶対の忠誠を……。


 私はどんなことがあろうとも、これからの私の人生はセシリア様と共に。私が死を迎えるまでセシリア様をお守りし、絶対の味方であろう。


 そんな決意を胸の中で誓った。


「これから、よろしくね!」


「ぐすっ、はい! セシリア様」


 私はこの日のことを忘れない……。



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