見た目は美少女 中身はおバカな女子高生の オモシロ吹奏楽ライフ!〜オーボエを奏でる元野球少女〜

大橋 仰

プロローグ

美人爆発しろ、でもアンタはバカだから許す

 ここはよく知らない高校の入学式会場。

 アタシはこのよく知らない高校の新入生である。

 要するに、このよく知らない高校しか受からなかったんだよ、アタシは。


 おんなじ制服を着た女子達に混じって、さっきからずっとアタシは安っぽいパイプイスに座らされている。

 周りにいる男子達が、チラチラとこっちを見てやがる。


 アタシは中学の時、友達からこう言われていた。

『ポイントを顔スキルに全振りした女』

『顔だけ見れば超最高、でも頭の中身は小学校』

『美人爆発しろ。でもアンタはバカだから許す』


 要するに、みんなアタシがバカだって言いたいのだ。でも、それって悪口じゃないんだよね。だってアタシは、バカであることに誇りを持つ女なのだから!

 嗚呼ああ、バカなアタシって最高!



♢♢♢♢♢♢



 退屈な入学式は、まだ続いている。

「あーあ、校長先生の話、早く終わんないかなー」

 おっと! 思ってることが思わず口から出ちゃったよ。周りの子がクスクス笑っている。

 アタシってば、考えてることがつい口に出ちゃうんだよね。だからバカだって言われるのかな?



 退屈な入学式がやっと終わり、これからみんな、自分達のクラスに向かうようだ。アタシも人の流れに沿って教室に向かおうとしたところ……


 アタシの元へ近づいて来る男子達。早くもやって来たよ、色ボケ男子共が。ここはいつもの『華麗にお断りスキル』を使って、サッサとやり過ごそう。大丈夫、こういうのは慣れているのだ。



 早速、スポーツマンタイプの男子が声をかけてきた。

「君カワイイね。どこ中から来たの?」


「ギョウ虫だよ」

 いつも通りにアタシは答えた。


「小学生かよ……」

 男がなんか言ったようだが気にしない。



 今度はサッカーのユニフォームを着た男子達に声をかけられた。先輩かな?

「君、すっごく美人だね。俺たちサッカー部なんだけど、今マネージャー募集中なんだ。ねえ君、なに部に入るかもう決めてるの?」


「ワカメです…………………… 違った、コンブです」

 ちょっと間違えた…… まあいい。だいたい、いつも通りだ。


「ちょっとバカな子なのかな……」

 また何か聞こえたが、いつも通り放置だ。



 次はチャラそうな3人組が現れた。こういう連中は面倒くさい。アタシは奥義を披露することにした。

「キミ、チョーカワイイじゃん。この後さあ、オレらとどっか行かない?」


「ごめん。ウチの家族みんな呪われてるんだ」

 これでもうコイツらがアタシに近づくことはないだろう。


「意味わかんねえよ……」

 つぶやくチャラ男達。うん。自分でもナニ言ってんのか、よくわかんないよ。



 アタシはその後も、次々と襲いかかってくる強敵どもを華麗なスキルでかわしつつ、なんとか自分の教室までたどり着いた。もう、すっごく時間かかったんだからね。

 手元にある座席表が書かれた紙を熟読した後、自分の席に着くアタシ。


 そうこうしているうちに——


 あーあ。またアタシの周囲がザワついてきたよ。ホント、面倒くさいな。もう、あからさまにコッチ見ちゃってさ。男子に交じって女子まで見てるし。


「あのー、ちょっといいかな?」

 今度はメガネをかけた真面目そうな男が声をかけて来た。


「悪いけどアタシ、ここに来るまでに、手持ちのスキル全部使っちゃったんだよね。だからアタシの笑いの引き出し、もうからだよ?」


「いや…… 君の言ってること、よくわからないんだけど……」

 ああもう、面倒くさいから、普通に断っちゃえ。


「アタシ、彼氏とか、そういうの興味ないんだよ。ごめんね」

「いや、そういうことが言いたいんじゃなくて……」


「じゃあ何よ? アタシんは無宗教なんだ。だから宗教の勧誘をしようもんなら、アンタ、無宗教の神様にたたられるよ? それからウチの家族はみんな、羽毛布団で寝るとブツブツができるんだからね」


「いや、勧誘とかセールスがしたいのでもなくて……」


「じゃあ何よ? モジモジしちゃって。わかった! アンタ、ウンコに行きたいんだ! でもごめんね。アタシ、ティッシュ持ってないんだ」


「トイレなら朝、家で済ませたよ! 僕が言いたいのは、そういうことじゃないんだよ!」


「じゃあ、何なのよ!」

「そこ、僕の席なんだよ!」


「ちょっと何言ってんの? ここ6組でしょ? アンタ、ちゃんと確認しなさいよ!」

 アタシがそう言うと、ムッとした様子でメガネ男子が黒板を指差した。そこにはこう書いてる。


『進級おめでとう。2年6組へようこそ!』


 ……あれ? アタシ、やっちまった? ここって6組だけど、2年6組だったのか。 そうか、だから女子までアタシのことをチラチラ見てたんだ。うわっ、アタシったら『彼氏とか興味ないし』とか言っちゃったよ。ハズカシイ……


 目の前にいるメガネ男子は先輩だったのか…… この先輩ってば、メチャクチャ怒ってるよ。そりゃまあ、ウンコとか言っちゃったからね。

 これはマズイ。ここは…… そうだ! ここは先輩のご機嫌をとって許してもらおう!


「あれっ! 先輩ってよく見るとなんて言うか…… とってもアレな感じですよね! アレですよアレ。そう言えば、顔もちょっとソレ系だし。そう! 性格はきっと、コレっぽかったりして、アハハ……」


「……僕を一生懸命褒めようとした結果がこのザマなのかい? 僕はアレだったりソレだったり、そんなに指示代名詞っぽい顔をしているのかい? それから、ひょっとして君はバカなのかい?」


「すみませんでした!!!」

 ダッシュで教室から逃げ出すアタシ。ダメだ、アタシはバカだけど、『先輩カッコいいですね』とか、そんな思ってもいないウソをつけないタイプなのだ。あっ、名も知らぬメガネの先輩ゴメンナサイ。



「おい! 廊下を走るな! お前は小学生か?」

 遠くから先生の声が聞こえた。



 アタシの名前は相田あいだ夏子。友だちからはナツと呼ばれている。


 アタシはいつも、友だちからこう言われる。

 ナツの頭の中は、ずっと小学生のままだと。

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