第二章

第十話

 私、どこかに、連れてこられてるんですけど。

 

 でも、これは――凄いわね!


「ふぁーーーーー!!!!! さ、最高ーーーーー!!!!! 生き返るわーーーーー!!!!! 身体の隅々が癒やされていくわぁーーーーー!!!!!」

 

 水中なのに肺呼吸できるって……。

 流石は、異世界ファンタジーーーーーー!!!!! というか、この世界って私の生きていた世界よりも科学技術が、絶対に発達している気がするのだけれども、どうなのかな……?

 某有名な、SF作家さんが言ってた言葉! 「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」って言葉が正しいとするならば。

 私が水中で肺呼吸ができているって事は。やっぱり物凄く、科学技術が発達している世界って事になるわよね。それに、野党達が使用してた、光学迷彩もそうだし。あの女騎士の見せた急激な肉体再生とかも。

 私が今、体験している事や今まで見てきた事が、魔法とするなら。この世界は、十分に発達した科学技術があるって事の証明なのかな?

 

 …………。

 

 私、よっぽど、今の状態が退屈なんだろうな。変な事を考え出したら、だいたい、退屈のピークよね。

 仕方ないと言えば、仕方ないか……。

 身体、麻痺して全然、動かせないのよね。あの女騎士が馬鹿力で後頭部に斬撃、打ち込んでくれたおかけで、脳震盪の後遺症なんだろうなぁー。

 まぁ、頭が、真横にスライスされるよりは、マシだけど。

 しかし、火産霊ほむすびが、あの女騎士の持っていた剣と技よりも、運、良く上で助かったわ。

 それに、地面、目掛けて顔面ダイブしたけど。そのおかけで大量の砂埃が上がって、目隠しになってくれたし。ありがたい事に、あの女騎士が一瞬でも私から離れてくれたしね。

 それで一気に逃げたんだけどね。


 など、色々な事を考えて、ひまを紛らわしていた摩志常だったが。

 摩志常の暇力ひまりょくは、すぐに限界を迎えた。そして、限界突破した結果!


「ひまだーーーーー!!!!!」


 取り敢えず、叫ぶ、単純でありながら効果的なストレス解消方法を始める。


 …………、…………。しばらくすると。

 

 摩志常の脳裏に、虫が服の中に入った時に近い感覚の、むず痒さと、共に、言葉が聞こえてきた。

 

「あれだけの肉体損傷を受けて、元気な娘だ」

「ぇ、えへへへェーーー。身体が丈夫なのが取りの一つですから」

「…………、…………、…………、」


 あれ……? セリフ間違えたかな……。リテイク、リテイク。


「…………。ア・ナ・タ、ガ……、ワ・タ・シ、ヲ……、タ、タスケテ……、クレタ。ヒト……?」

「今更、そんな怪我人みたいな、話し方をする必要ないぞ、娘……」


 あれ? 私、スベったぽいな。

 

「あっそ、それじゃ遠慮なく普通に喋らせてもらうわね。というか、頭の中で会話していると、背筋がむず痒いわね」

「すぐにその感覚に慣れてくる。しかし、肝が据わっているのか? 鈍感なのか? アホの子なのか?」

「失礼ねぇー。アホの子よ!」

「……ぁー……」 

 

 摩志常は、乗りツッコミに失敗した。


「ごめんない、話し続けて下さい」

「ぅむ。私の名前は、『マーナガルム』」

「マーナガルムさんね。私の名前は、『天之高神あめのたかかみ摩志常ましとこ』」 


 マーナガルムは、摩志常の名前を聞くと。一呼吸分の空白を生み出した後。


「なるほど。摩志常は、異世界からの来訪者だな」


 摩志常は、というセリフに!


「分かっちゃう!! やっぱり、異世界人オーラが溢れ出しちゃってるからかな」

 と、マーナガルムに話し掛ける声が、一段張りのある声になっていた。

 

 マーナガルムは、三呼吸分の空白を生み出した後。 


「いや、申し訳ないのだが……。摩志常よ、お前に話し掛ける前に、お前が頭の中で考えていた事が、だだ漏れしていてな。その中に『』という単語が出てきていたのと。『天之高神あめのたかかみ摩志常ましとこ』という聞き慣れない、名前から……な……」


 摩志常は、あの女騎士を恨んだ。

 あまりの恥ずかしさに、顔を真っ赤に染まっており。その顔を両手で隠しながら、もの凄い勢いで転がりながら、この場から立ち去りたかったが。身体が麻痺しており、それができないからだ。


「この様な恥辱ちじょくを私に味合わせるとは、あの女騎士、許すマジ」 

「すまぬ、摩志常よ。普通に会話をしてほしいのだが」

 

 マーナガルムは、正直、辛かった。

 シェイクスピアも裸足で逃げ出す。摩志常の酷い、三文芝居さんもんしばいを見せ、いや、聞かされている状況が。


 摩志常は、一応、可愛らしく。ぷくーっと顔を膨らませた後。


「はい、はい、ごめんなぁーさぁーい。話の腰を、毎回、折って申し訳ありません。一ヶ月近く人と会話してなかったので、嬉しくなって興奮してました。ちゃんと話を聞きますー」


 その謝罪の言葉には薔薇ばらとげより、刺々とげとげしさがあった。

 

「ここ、どこ、なの?」


摩志常の高いトーンの声は、消え失せていた。


「ここは、『神と魔の悪戯いたずらと呼ばれる、種族の一つ、獣人じゅうじん族』の『ヒュペオトル王国』だ」

「獣人族ねぇー。じゃぁー、あれだ! 私を助けてくれたのは、あのバカ猫ちゃんって事でいいのかしら?」

「バカ猫! …………。行方知れずになっていた、『プリシエ』が急に帰ってくるなり。「バケモノ、殺せなかった、怖かった、一緒にきて、オレイ、する」と言い出してな。それで、プリシエに場所を案内させて、たどり着いたら」

「ちょうど私が、倒れていたって事か」

「正解だ」


 女騎士から脱兎だっとごとく、逃げ出したのは、よかったんだけど。私、アジトの前に着いた瞬間に、気が抜けて、そのまま倒れちゃったのよねぇー。逃げてる時から、フラフラ状態だったからなぁー。森の中でけたり、木に体当たりしてたから。

 あれって、後頭部に衝撃受けた、影響だったんだろうけど。


「それで、私、いつ? この水の中から出れるのかな?」

「それは、摩志常の肉体の回復、次第だな。気長に浸かっておれ」

「りょうーかーぃ、でぇーすぅー」

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