全てのスキルが1回ずつしか使えなくなる呪いを受けたら、その代わりにスキルレベルが爆上がり!パーティからは捨てられたけど、スキル無限複製ができる女の子が味方になったのでもう戻らない!
まめまめあいす
第1話 呪いにかかって
「あらぁ、こんなところに宝箱よぉ~」
と、ミリアの声が聞こえてコールスは振り返る。
彼女が触れようとしている宝箱を素早く分析すると、視界が紫色に点滅した。
――“呪詛トラップ有り”のサインだ!
「危ないっ!」
「キャァ!」
コールスは慌ててミリアを横に押しのけた。
途端に宝箱の蓋が開いて、中から出てきた小さな球が閃光を放った。
「うわっ!」
強い光に、思わず目を押さえてうずくまる。
「おい、どうした?」
パーティーリーダーであるウォレスの声と、駆け寄ってくる複数の足音。
「びっくりしたぁ。宝箱を見ようとしたら、いきなりこの子に突き飛ばされたのぉ」
と、ミリア。
「何があった?」
と尋ねてくるウォレスに、コールスは目を押さえたまま答える。
「罠です。ミリアさんが開けようとした宝箱の中から、小さな球が出てきて光を放ちました」
「……ステータスを確認してくれ」
「はい」
ウォレスにいわれて、コールスは自分のステータス画面を開く。
何か状態異常になったとしたら、それが何か分かるようになっているからだ。
すると、視力が戻り始めたコールスの目に、信じられないものが飛び込んできた。
『全てのスキルの使用可能回数が残り1になりました』
と、薄緑の画面に赤い文字が浮かんでいる。
「なんだ、これ!?」
何らかのステータス異常が発生したことは間違いない。
(けど、こんなのは今まで見たことない!)
「スキルの使用可能回数が1?どういうことだ?」
一緒に画面を覗き込んでいたウォレスが呟く。
すると、ウォレスと一緒に来ていた回復術士のリュートが
「恐らく、そのままの意味だろうね。コールスくんが保有するスキルについて、それぞれ後1回ずつしか使えない。そういう類の呪いにかかってしまったんだろう」
と言った。
「そんな……」
コールスは、急に目の前が暗くなったような気がした。
獣人の特徴である、頭の耳がしょんぼりと垂れていく。
ウォレスは、
「ミリアはどうだ?確認してくれ」
と指示した。
ミリアはステータス画面を開いて調べていたが、やがて顔を上げた。
「私は大丈夫よぉ」
「リュート。解呪する方法はあるか?」
ウォレスがそうたずねると、リュートは眼鏡のつるをいじりながら
「いや、わ、私も初めて見るからな、こんな呪いは。街に戻れば何かわかるかもしれないが、今はなんとも言えんよ……」
と自信なさげに言った。
ウォレスは「えぇい!」と舌打ちをして、槍の石突で地面をドンと突いた。
|苛立たし気にため息をつくウォレスの向こうで、ミリアはコールスたちに目もくれず、スカートの裾についた泥をしきりに払っている。
「仕方がない。とにかく、地上に戻ろう」
とウォレスが言った。
「そうだな、この先は未知の領域だ。探索スキルが使えないのでは先には進めないからね」
リュートが同意する。
コールスは急いでステータスを閉じると、
「ご迷惑をおかけしましてすみません!」
と、深々と頭を下げて謝った。
「謝まれたところでどうにもならない。……君を雇ったのは間違いだったな」
ウォレスは吐き捨てるように言った。
「地上に戻り次第、君はクビだ!」
「そんな!」
コールスは抗議しかけたが、既にウォレスは背を向けて歩き出していた。
そのとき、
「すべてのスキルのレベルアップが完了しました」
と、頭の中に音声が響いた。
「え、スキルレベル?」
――これも呪いの影響か?
そう思って再びステータス画面を開こうとしたが、
「何をしている、置いていくぞ!」
ウォレスから厳しい声が飛んできた。
「す、すみません!」
コールスは画面を開くことなく、走り出した。
* * *
コールスがスキルを使えなくなったことで、一行は一度、ダンジョンを脱出することにした。
「あー、ったく!せっかくこの階層まで来れたってのによぉ!あのクソガキのせいで台なしじゃねぇか!」
“暁の鷹”の剣士ギリアムは、歩きながらわざとらしくため息をついてそう言った。
「仕方がないだろう。探索師が使い物にならないんじゃ、これ以上の冒険はできんよ」
とリュートが応じる。
「そうよ。それに、ミリアが呪いにかからなくて良かったじゃない!魔術師はパーティの要だもの。それが役立たずになったら目も当てられないわ」
そう言ったのは弓手のマーサだ。
「ハッ!ミリアを守るのは当然だろ。そもそも獣人のガキなんぞ、俺たち人間さまの身代わりになるくらい当たり前だろうが!」
「言いたいことは分かるけど。ギリアム、そういうことは表で言わないでくれよ?人権派の奴らがうるさいから」
大声のギリアムを、リュートがやんわりとたしなめる。
「それより、ねぇ見てよぉ。泥が全然落ちないのぉ。おろしたてだったのにぃ~」
「はいはい、また買えばいいじゃないの」
相変わらずスカートの汚れを気にしているミリアを、マーサがなだめる。
「お前たち、少し静かにしろ。まだこの階層のボスを確認できてないんだ。奴がどこから来るかわからん」
ウォレスは槍を構えながら、周囲に油断なく気を配っている。
そして、彼らから少し離れたところ、列の一番後方をコールスは後ずさりで歩いていた。
「いてて……」
自分の頬に手を当てると、先ほど殴られた所がズキッと痛んだ。
頬だけではない、いまや全身あざだらけだった。
地上に引き返すことが決まったあと、ギリアムからタコ殴りにされたのだ。
剣士の気が済むまで、仲間たちは黙って見ていた。
だが、コールスは今、そのことは忘れようと努めていた。
――とにかく、今はダンジョンを出ることが最優先だ
パーティの雑談も今は聞こえていなかった。
頭の上の耳をそばだてて、わずかな音も聞き漏らさないように集中する。
確かに探知スキルは使えない。
――けど、ボクにはこれまでの探索で培った勘と経験がある。それをフルに活用するんだ。探索師としての誇りをかけて、無事にパーティを脱出させなくちゃ!
しかし、そんなコールスの決意に水を差すように、
ガランガランガラン!!
と割れ鐘の音が道いっぱいに鳴り響いた。
「ちょっと何やってるのよ、ミリア!」
「だってぇ、あの奥で何か光ってて、気になったんだもん!」
どうやら、ミリアが勝手にダンジョンの脇道に入って、仕掛けられていた鳴子に引っかかったらしい。
「おい、グズガキ!こんなトラップくらい解除しとけよ!」
ギリアムから罵声を浴びせられて、さすがのコールスも顔をしかめた。
――無茶言わないでよ……
脇道なんて無数にあるのだ。
入りもしない場所のトラップまでいちいち解いている暇はない。
だからこそ、『探索師が確かめた道以外は、絶対に入らない』というのがダンジョン攻略の鉄則なのだが。
何度もこのダンジョンに出入りするうちに、悪い意味で慣れてしまったのだろうか、警戒心が薄れたミリアはとんでもない事態を引き起こしてしまった。
ズズズズ、と低い地響きが伝わってくる。
何か巨大なもの……モンスターの足音だ!
「来るぞ!」
ウォレスの声に皆が一斉に武器を構える。
ボゴォ!
突如、洞窟の壁の一部が崩れた。
ぽっかりと開いた穴から伸びてきたのは、巨大な斧を持った太い腕。
「こいつは!」
現れたのは、アーマーミノタウロス。
この階層における最強種だ。だがー―
「おい、嘘だろ!」
出てきたのは1体だけではなかった。
2、3……全部で5体!
1体だけでも、このパーティで倒せるかどうかの強敵だ。
――とても太刀打ちできない!
コールスは唇を噛んだ。
「くそっ、逃げるぞ!」
ウォレスの声が響いた。
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