シンデレラ?はポイント制(仮

うまうま

第一話 ここはシンデレラの世界?

 く……くるしい……


 一番最初に感じたのは痛みと苦しさだった。まるで万力で頭を締め付けられるような痛みと、何かに押し付けられた鼻と口では息を吸おうにも出来ずもがく。


 た、たすけて……


 何が起きているのかわからないまま必死にもがいてもがいて、何かからずるっと出た時にはぐったりしていた。なのに誰かに激しく背中を叩かれ反動でゲボッと口の中のものを吐き出した。それからスッと息が入ってきてあまりの出来事に身体が収縮して全身で泣いていた。


「――――!」

「―――」


 誰かが何か言っているが、もう正直くたくたで目を開ける事さえできなかった。そのまま眠ってしまい、次に目が覚めたときこんどは暗くて何も見えなかった。電気をつけようと身体を捻り起き上がろうとして、身体が動かない事に気づく。手と足はなんとなく動いている感じはするのだが、まるで思った通りに動かない。どうなっているのかわからなくてじわじわと恐怖が生まれ口が戦慄いたと思ったら、私は激しく泣いていた。


「―――?」


 誰か、たぶん女性と思われる声がして、身体が浮き上がった。そしてしっかりと抱かれたかと思ったら、口元に何かをあてがわれた。反射的にそれに吸い付いていて、何が何だかわからないままじわじわと出る何かを飲み込んで、いつの間にか安心してまた寝てしまった。

 そんな事を何度かしていると、だんだんと落ち着いて考える事が出来るようになってきた。

 私は林田恵。しがない会社員で三十半ば。毎日自宅と職場を往復するだけの代わり映えのしない日々を過ごしていた。記憶があるのはそこまでだったので、そこから何が起きたのかわからないが、私はどうやら生まれ変わってしまったらしい。

 生まれ変わった事を自覚した時は、家族の事や仕事の事、友人の事が気にかかったが、それを考えても結局どうする事も出来ない現実に軽く参った。

 だが毎日、何回も何度もやさしく「エラ」と呼びかけ抱っこしてくれる黄色っぽい髪の女性に、次第に今を見ないといけないと思うようになった。

 前世を考えて落ち込んで、そのせいでこの優しい女性に心配をかけるのはそれは違うのではないかと。

 ぼやけた視界で顔立ちははっきりと見えないが、いつも笑顔であやしてくれる。この優しい女性はきっと私の母親なのだろう。若干髪色がファンキーな気もしないでもないが、声や動きはやさしいのでひょっとしたらそういう人種のお方かもしれない。言葉が日本語ではないので、多分そうだろう。うん。

 そしてもう一人、良く抱っこしてくれる人物がいる。それは母親よりも濃いブラウンのような髪色の男性。低く優しい声音で「エラ」と言ってくれる。たぶん、こっちは父親だ。

 優しい両親のようで良かったと思い、そしてそんな両親に心配はかけないようにしようと一旦前世の事には蓋をする事にした。今の私はエラ(推測)だ。新しく生を受けた赤ちゃんなのだから、赤ちゃんらしくしなければ。

 しかし赤ちゃんらしくとはどういう事をすればいいのだろうかと腕をぶんぶん振りながら考える。赤ちゃんと言えば泣くのが仕事と聞いた事があるが、このボディはお腹が空けば泣き、おならが出そうで出ないと泣き、げっぷが出なくて泣き、うんちに泣き、おしっこで布がべっちゃりした感触に泣き、寝たいのに寝れなくて泣き、振り回した手が自分の顔にあたって泣き、そして何でもないのになんとなく泣く。もはや泣きすぎではなかろうかというほど泣く。これ以上泣く必要はないと思われたので、別の事を考える。否、考えようとして眠くなって寝た。

 そういえば赤ちゃんは一日中寝ていると聞いたことがあると、目覚めてから思いだす。となると、今は私が努めて何かしなくても赤ちゃんらしいという事ではないかと天啓を得たように閃いた。ならば次に何をしようかと考えたところで、おなら出て泣いた。しかし大丈夫だろうか私のおしり。本当に意識なくするっとうんちもおならも出るのだが。括約筋が役目を果たしてくれるようになるのだろうか。赤ちゃんの頃の記憶なんてないので、すごい不安。

 母親が来て抱っこしてくれてお乳をもらって、おならだったんだけどなぁと思いながらも、ありがたくいただいて満腹になってお休みなさい。

 だめだ。長時間考える事がこのボディでは難しい。すぐに生理的横やりが入る。いや、諦めてはもったいない。せっかく赤子から人生を謳歌せよとこんな三十過ぎの意識を神が残してくれたのだろう。

 必至に考える。どうせなら、前世のような冴えない人生ではなく(あれはあれで平穏で良かったと思うが)もっとこう努力して、自分の力がどこまで試せるのかやってみたい。そう、上を目指してみるというのはどうだろう。

 それから私は日々努力を重ねた。転生なんてファンタジーな事が起きたのだから魔法の一つや二つ使えるだろうと瞑想してみたり(ただの熟睡)。丹田に血を巡らせるよう意識してみたり(眠くなってすぐに寝た)。指先に魔力が集中するようイメージしてみたり(気が付いたら寝てた)。考えられる事を飽きもせず日々繰り返していったのだが、私はある日気づいた。

 この世界には、魔法なんてものはない。

 この時、私二歳。

 もっと早く気づけよという話だが、かなり私は真剣に努力していたので見逃してほしい。思い返す度に恥ずかしくなってシーツに隠れたくなるので、それで勘弁してほしい。ちなみにおならもうんちもちゃんと我慢出来るようになったのでそこは安心した。

 それはともかく、視界がはっきりしてくると両親のご尊顔をやっと拝めるようになったのだが、この両親がまたとてつもなく美男美女で思わずガッツポーズをしてしまった。私の容姿は髪は母の金髪(黄色じゃなかった)と父の緑の目を継いでいて、母親方向に育てばおっとり美人、父親方向に育てば綺麗系美人になるだろう。

 メイドのリリスに「お嬢様?」と言われて慌ててガッツポーズの拳を開き意味不明にバンザーイをして「たーいー(たのしい)」と誤魔化してみたら、意味はわからなかったようだが、遊んでいるんだろうと思ってくれたようだ。

 家は裕福で、両親の仲はよく私の事もメイドや執事含めみんな優しく見守ってくれる。まさに絵にかいたような幸せな家庭だった。そんな中にいると前世を覚えている自分というのが少々異物のような気がして申し訳なくもあった。もちろん前世の事を話すつもりもないし、表に出すような事もしない。爵位は低くとも父親は男爵位を賜っており、その娘の私は男爵令嬢。末席貴族とはいえ変な噂になりそうな事をするわけにはいかなかった。

 ただ、申し訳ない代わりにというわけではないが、この両親のためにも上を目指してみるという目標を魔法方面以外で実行する事にした。文字の勉強や、読書と見せかけて歴史を学んだり、母親がやっている刺繍を真似てみたり、とにかくなんでもかんでもやり始めた。

 私がいろいろな事に興味を示している事に両親が気づくと、なんと四歳の娘に家庭教師をつけてくれた。人件費と私の学習率を考えると、一分たりとも無駄にしてはいけないと思い、初日から喰らいつく勢いでやったら家庭教師の女性にちょっと引かれた。けれど、次の日からは前日よりもより難しいものを用意してくれたので私のぐいぐいいく勢いにびっくりしただけのようだった。家庭教師の女性はケネスという赤茶色の髪をひっ詰めている一見厳しそうな見た目の先生だが、よく私の事を見てくれて助言をくれる優しい先生だ。

 そうやって男爵令嬢に必要なマナー、会話術、文学(詩)、音楽、刺繍、簡単な歴史と算術を教えてくれた。ケネス先生によると、令嬢に求められるのはその場に合わせて適切な対応が取れるという事で、歴史や算術と言った領地経営や士官にあたって必要な能力は不要らしかった。個人的にはそちらの方がとても興味があるのだが、大っぴらにすると頭でっかちの女と誹りを受ける事もあるとのことで、やるならこっそりと、と言って朗読と見せかけて近隣諸国の事を教えてくれた。

 その話がまた面白いのだが、それとは別に重要な事も判明した。なんと、この世界には冒険者とか、魔法使いとか、そういった類のお方が実際にいるというのだ。

 そんな……私の幼き日の努力は足りなかったという事か……と思ったのだが、よくよく聞くと魔法使いというのはそもそも魔法使いの家系にしか生まれないようで、この国にはほとんど居ないという事だった。魔法使いが多いのはここよりも西側の国々で、中でも魔法使いの国とも呼ばれる塔という研究機関に集結しているらしい。有名な魔法使いもいて、塔の主と呼ばれる人はもう何百年も生きているとかなんとか。さすがファンタジーな職業である。やっぱり魔法使いは白いひげを生やして裾を引きずるようなローブを着ているのだろう。きっと。

 冒険者の方も有名どころを教えてもらったのだが、二つ名が『見えざる手』とか『曲芸師』とかで、正直どういう人物なのかさっぱりわからなかった。見えざる手って、痴漢とかそういう事じゃないだろうし。

 ケネス先生の授業はとても楽しくていつまでも受けていたいものだったが、私が八歳になる年にご結婚されてしまい、そこでお別れとなってしまった。もちろん、とても喜ばしい事なのでお祝いに精一杯縫った刺繍のハンカチを贈ったが、涙でお祝いの言葉がぐだぐだになってしまった。先生はそんな私を笑いながら抱きしめてくれて、成人したらきっとまた会えるわと言ってくれた。そう、女は基本的に家から出ないので、成人になって参加が認められる茶会や夜会でないと会うことが出来ない。手紙ぐらいなら出来るが、入って間もない家で苦労するであろう先生の負担にはなりたくなかったので、泣く泣く諦めた。

 その後父は別の家庭教師を呼んでくれたのだが、残念な事に既に学んだ事が多く何度か授業を行った後に、帰っていかれた。ケネス先生って優秀だったのだ。

 父には家庭教師の代わりに本をお願いして、そこからは自主学習だった。歴史系の勉強はこっそり進めつつ毎日の体力トレーニングも欠かさず上を目指すという目標に向かって過ごして数年。

 そうして私が十三歳になった時だった。

 それまでずっと健康に美しさを損なう事なく歳を重ねていた母が、急に倒れた。

 それから私は母に会えなかった。咳が出ておりうつるといけないからと隔離されたのだ。病状を聞くと肺の疾患のようだったが、血を吐いたと話しているメイドの声を聴いてすぅっと身体が冷えて行った。

 それからどうやって自室に戻ったのか覚えていないが、思い出せる限りの前世の知識を紙に書きなぐっていた。

 可能性があるのは、気管支炎、心不全系、そして肺結核と、癌。

 この世界の医療技術はどの程度なのか、医療系の勉強に手を出していなかった事が悔やまれた。相談できるのは父ぐらいだったが、その父親も忙しく仕事をしており捕まらない。

 血が出ているなら、先はそう長くないかもしれない。そんな考えたくない事が頭を何度もよぎってその都度振り払った。

 けれど現実は淡々としていて、一か月後、母は帰らぬ人となった。

 亡くなってからようやく会うことが出来た母は、やつれていた。化粧が施されて綺麗にされていたが、ふっくらとしていた頬がこけ、肌もかさついて骨ばっていた。

 葬式はひっそりとしたもので、父親はずっと私の傍にいた。私も父も、どちらも泣く事なく葬儀を終えて屋敷に戻ると、なんだか屋敷が寒かった。いままであんなに暖かく感じていたのに、変な感じだった。


「エラ、もう我慢しなくていいよ。よく耐えたね」


 令嬢は感情を表に出しません。それはケネス先生に教えてもらった事だが、この時私は別に出さないようにしていたわけではなかった。

 頭では理解できていたが、心が理解を拒んでいた。


「お父様こそ、もう我慢する必要はありませんよ」


 強張った口元をなんとか持ち上げて微笑みを作って、そう父に言うと父はそれまで厳粛な顔つきだったのを放り捨ててくしゃくしゃに歪めると私を抱きしめた。


「すまない。もっと傍にいてやればよかった……お前にも、クロエにも」

「お父様、大丈夫ですよ。お父様がどうして仕事をされているのか、ちゃんと知っています。お母さまや私のために、頑張っていてくれているって、ちゃんと、知っています」


 話しているうちに、何故か鼻の奥がツンとしてきて、父の大きな背中に手を回す。

 父のごつごつした手が私の頭を撫でると、ぼたぼたと涙が零れて父の服に染みを作っていった。


 そして月日は流れ私が十四歳になった年、父は再婚した。


 なんで!? と、突っ込みを私は入れたかった。

 結論から言うと、父は私が母不在でデピュタントを迎える事を不安に思っていたようだ。

 この国の女性の成人は十六歳。その歳になると各家の結びつきが最も強い派閥で催される夜会に参加しお披露目となる。成人したので婚活ヨロという奴だ。

 上の方々(侯爵家や伯爵家)は幼い頃から許嫁が決まっているが下の方はそうではない。派閥の中で年ごろの子供を持つ親はそこでどういった相手がいるのかチェックをして縁談を持ち掛ける。その際段取りをするのは表向きには父親だが実際は母親が動いている。その役割を新しく再婚した女性に求めているようなのだ。

 いや、そりゃ確かに私は男爵家の一人娘なわけで後を継がせようと思ったら婿養子を得る必要はあるのだが。正直なところ、その後妻さんと子供、出来れば男児を設けて私は適当に家を出ていくという案の方が嬉しい。一応ケネス先生から合格点を貰ったが、基本的に社交は苦手なのだ。どうしても日本人の感性が抜けきらず背中が痒い言い回しやらをやる事に抵抗がある。むしろ一般男子並みの体力もあるし、執事のおじいちゃんにこっそり習った剣術、護身術があるので平民になってもやっていけるんではないかと思っている。

 微妙な反応をしている私に、もちろん母の事を愛している、それは変わらないが今後の事を考えると形式というものは必要なんだと言い繕う父に、それはそれで相手の方にとってどうなのよとさらに微妙になってしまう。

 相手の方はデュロスメア夫人と言い、こちらも再婚となる女性で歳は父とそう変わらないが私より年上の娘が二人いた。旦那さんは流行り病で亡くなったようで実家の商家の助けを得ながら二人の娘を育てていたらしい。この世界でシングルマザーというのは相当きついので、よっぽどしっかりした女性なのだろうと思う。

 つまり、父としては私の支えになる人が欲しい。デュロスメア夫人は金銭的な余裕が欲しいという利害関係の一致で再婚という結果になったのだろうか。父の再婚というのは少々自分で思うよりも衝撃であったが、そういう事なら納得も出来た。

 初めての顔合わせで見たデュロスメア夫人は、パールグレイの髪を綺麗に纏めたいかにも仕事が出来そうなしっかりした夫人に見えた。やや目力が強めだなと思った他にはマナーも綺麗だし、言葉も丁寧で落ち着いた、奥方という言葉にふさわしいような女性だった。一緒にいた義理の姉となる二人は、上がシアナールといい夫人と同じ髪色の釣り目がちな気の強そうな少女で、下がエミリアといいこげ茶の髪色の姉よりは垂れ目な控え目な少女だった。挨拶はよろしくお願いいたしますの一言のみで、まぁ貴族相手にいきなりマナーをというのも難しいのかもしれない。

 式は挙げず、書類だけで済まし数日後にはこの新たな家族と過ごすことになったのだが、この婦人はすごかった。

 うちは男爵位だが領地は拝領しておらず、王宮に出仕する事でお給料をいただいて生計をたてている。なので、領地管理に必要な人では必要なく、家の事もおじいちゃん執事が一人と、その孫が次の執事候補として一人、メイドもリリスと古株のおばちゃんが一人ぐらいだ。

 何がすごかったというと、この数少ない我が家の使用人とのバトルだ。

 家を守るのは女主人の仕事という事で、とにかくあらゆる事を確認し把握していないと落ち着かないのか、あれはどうなっているこれはどうなっていると問いただし、少しでも不備や不足があると追及が激しくなる。

 それを目撃したとき、鬼や……鬼がおる……と思ってしまった。いやまじで髪振り乱して叫んでいたら鬼婆そのままだったと思う。さすがにそこは身だしなみはきっちりしていてそんな事はなかったけども。

 いやー怖いもんみたわぁと腕をさすさす部屋に戻り、しかしまてよと考えた。

 このままいくと、この家の実権を父ではなくあの継母が握る事になるのではないだろうか? そうすると、やっぱり継子の私よりも実子の娘の方が可愛くて目を掛けたりするもんじゃないだろうか? そういう話、この世界の小説にもあったよなと思い返し、よし逃走資金を作ろうと思い立った。何事も父に相談出来れば早いのだが、何しろ父は出張が多い。そうなるとこの家の最高権力者は継母だ。

 とりあえずおじいちゃん執事に声をかけて母の財産を私へと移し替えてもらった。母の実家はこの国ではなく隣国の大店だったようでそれなりの個人資産があった。これに関しては男爵家とはそもそも切り離して管理していたので継母は存在すら知らない。何事もなければ私が嫁入りするか平民に下るかして家を出た時に父に返還すればいい。


 そう呑気に考えていた時期もありました。


 再婚した翌年、父が出張先で流行り病に倒れ帰らぬ人となった。

 悪夢かと思った。母に続いて父までも。呪われているのかとも思った。

 知らせを聞いた継母はぐっと口を引き結び事実確認に人を走らせた。そして事実であると判明すると、葬儀を執り行った。そうして次期男爵の配偶者となる私の後見人となる事で実質男爵家の実権を握った。

 彼女は我が家の使用人を解雇すると、私に使用人の仕事を押し付けてきた。

 食事に洗濯に掃除に薪割りに。

 いやまてと。待ってくれと思った。普通に考えて令嬢にそれらの仕事がまともに出来ると思っているのかと。残念ながら私は出来たのだが。

 食事は自分の食べたいものを食べたかったからしょっちゅう厨房に入って作っていたし、洗濯も掃除もおばちゃんが腰が痛いと言っていたから体力づくりに手伝っていたし、薪割りは剣術練習におじいちゃん執事に教えてもらっていた。だから出来るには出来るのだが、お前自分の娘より年下のこの小娘にそんな仕事全部まともに出来ると思ってるのかと襟首掴んでカックンカックンしたかった。

 まぁまだ成人していないし、この年で平民になっても行先は娼館ぐらいになるだろうなと思って黙って従った。それに成人になるまで待たないと私に移した母の財産をどうのこうのする事が出来ないのだ。おじいちゃん執事なんかは家を出る事を進めてきたが、その事を話すとわかってもらえた。

 着るものを取られて部屋も取られて、寝床は屋根裏部屋に近いくそ寒いとこ。

 いくら何でもこのまま寝たら凍死するわと思ったある日、暖炉の前で寝ていたら起きてきた継母に言われた。


「いやだ、灰まみれがいる。灰まみれのシンダーエラね」


 あぁはいはい。灰まみれだろうとなんだろうといいですよと気にせず頭を下げたところでピシャーンと雷が落ちたように身体に電流が走った。


===

称号、灰かぶり獲得。

格、最上位。

不幸ポイント23獲得。

===


 次々と頭の中に流れるポーン、ポーンという機械音とメッセージ。

 蹲ったまま動かない私に継母は何事か吐き捨てて出て行ったが、どうせ食事の準備が遅いとか暖炉に早く火を入れろとかそういう事だろう。そんな事より私は視界の端に映る見覚えのある表示に固まっていた。


エラ・アインホルン

女 15歳

HP  111/164

MP  12/12

STR  34

VIT  32

INT  11

DEX  41

AGI  42

LUC  9

称号 灰かぶり

スキル 料理 4/10 習得率77

    掃除 4/10 習得率63

    洗濯 4/10 習得率51

    裁縫 3/10 取得率79

    話術 3/10 習得率12

    儀礼 8/10 習得率31

    算術 6/10 習得率11

    体術 2/10 習得率21

    長剣術 3/10 習得率95

    精神耐性 6/10 習得率88

不幸ポイント 371830

取得可能スキル一覧


 これは、見間違いでなければ前世でよく見かけたステータスという奴ではないだろうか。INTの値が低いのは頭が悪いという事だろうかとちょっと悲しくなる。しかし悲しんでいる時間は無い。とりあえず暖炉に火を入れて食事を作らねば。もぞもぞと毛布を脱いで身体にかかった灰を叩き落とし、そこでハッとした。


「シンダーエラってシンデレラ? え……ここシンデレラの世界?」


 衝撃の事実だった。

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