恋愛したい?(1)
カナデから「今日は寝坊した上に夕方レッスンがあって、全然練習できてないから学校サボる」と連絡がきたため、本日の昼休みは若葉と日菜子と顔を突き合わせて過ごしていた。このところ、わたしの練習に付きっきりにさせたせいだろうかと思って詫びのメッセージを入れると、単に楽曲が好みと合わず練習が面倒くさかっただけと返答が来た。カナデはわたしに気を使ってそう言ってくれたのかもしれないし、本当にカナデが言うとおりなのかもしれないけれど。カナデが言った「気を使わなくていいんだよ」という優しい言葉が蘇る。カナデがそう言うのなら、わたしはその言葉を信じるべきなんだろう。
昼休み、若葉には振られたのかと笑われたけど、二人は変わらずわたしを受け入れてくれて、少し安心してしまった。他愛もない、どうでもいいような話をしながら時間を浪費し、弁当を食べ終わった日菜子がお手洗いに行くと言って席を立った。日菜子が教室を出たことを確認した若葉は、突然わたしにぐいと顔を近付けた。若葉の唐突な行動はいつものことだが、真ん丸な大きい瞳に見つめられてついどぎまぎしてしまう。
「……今日の日菜子氏、なんか可愛くない?」
「は?」
内緒話をするよう、こそこそと若葉が述べた言葉に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「……日菜子ちゃんはいつも可愛いけど?」
「いやいやいや違うんだよ美奈氏。日菜子氏がいつも可愛いのは認めるけど!今日は、いつにも増して可愛いってこと!」
「はあ……」
わたしから顔を離した若葉は、ぶんぶんと頭を振って反論する。小さい身体でよくもまあこんなオーバーリアクションが出来るよなあと感心していると、再度若葉の顔が近付いた。まるで悪党のような顔をしながら、わたしの耳元で囁く。
「日菜子氏は普段スカートは2回巻きなの、それが長くも短くもなく無難に清楚な感じで制服を着こなせる最適な長さだから。でも!今日はいつもより短い!おそらくあれは3回巻きだ!それに!今日は髪の毛を可愛いリボンで結んでいる!いつもはヘアゴムなのに!さらに、近付くとなんかいつもよりいい香りがするし、あれはコロンか香水か……!」
最初はひそひそと話していた若葉だが、徐々にヒートアップしてすっかり熱弁を振るっていた。それにしても、若葉は日菜子のことをよく見ているのだなあ。スカートの長さとか、リボンとか、全く気が付かなかった。確かに言われてみれば、日菜子はいつもとは違うピンク色のリボンで髪を結っていたかもしれない。
「これは絶対なにかある!こないだ言ってた本命とやらとデートをするのかもしれない!というわけで美奈氏、今日放課後ひま?」
「えっ」
唐突に名前を呼ばれ、意識が引き戻される。今日の放課後が暇かって?そりゃあ確かに、予定はなにもないけれど……。
「ひまだけど、若葉ちゃん、部活は……」
「創作のネタ集めって言って休む!こんな身近にネタが落ちてるとは思わなかったよ〜!」
両目をきらきらさせてガッツポーズを取る若葉を、つい呆れて見てしまう。なるほど、ネタ探しとは便利な理由だな……。
当の日菜子は、何も知らないまま笑顔で教室に戻ってきた。その姿を上から下まで観察すると、確かにスカートから覗く白い太ももの面積は、いつもより多いかもしれない。ふわふわの髪の毛をピンク色のリボンで2つに結んだその姿は、同性のわたしから見ても大変可愛らしい。
日菜子の本命。こんなに可愛い女の子が好きになる人って、一体どんな人なのだろうか。
「どうしたの?」
何も気付かず、にっこりと微笑むその頬は柔らかなピンク色に染まっている。小鳥のさえずりみたいな声が耳孔を擽り、少しむずむずとしてしまう。
「なんでもないよ。ね、若葉ちゃん」
「うん、日菜子氏はかわいいな〜って話をしていただけで」
「えっ、や、やだあ。そんなことないよ〜、突然どうしちゃったの?」
若葉の言葉で耳まで真っ赤になった日菜子は、頬を両手で隠し焦るような仕草をする。どういう食べ物を食べたら、こんなに可愛らしくなれるのだろうか。そもそもわたしとは人種が違うのかもしれない。
横から強い視線を感じ、そちらの方に目を向けると若葉がこくんと頷いた。尾行だ!とでも言いたいのだろうか。わたしは曖昧な笑みを返し、若葉の意思が宿ったような視線を浴びていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます