第125話 理由

 地面に座り込んでいる者が数名いる。


「やっぱりいきなりはキツそうね……みんな地下に行って体を休めるのよ! 動けない人に肩を貸してあげて!」


 ほとんどの者が肩を借りて下がっていく。


「おいおい……大丈夫か?」


「瞬間的に魔力を半分も使うなんてみんな経験した事がないわ。慣れれば何ともないって村長は言っていたけど……」


 セレスが自力で歩いてこちらに来た。


「私も少しフラつくわ。魔力が低い人は大変でしょうね。でも効果は抜群ね。ここは任せて!」


 かなり遠方の敵まで灰になったので、しばらく敵の勢いも衰えるだろう。


「頼んだよ。君も休むんだぞ」


 セレスは頷いて地下へ向かっていった。


「よし! 援軍、出撃するぞ! ここは頼む!」


 長城の事は残る者達を信じて任せる。


 ザッジを先頭に西へと一気に駆け出した。



 数は6騎


 ザッジ、ヒナ、ルナ、カナデ、ファリスが前を行き、最後尾を自分が走る。


 アストレーアとステラ達は先に王都へと向かっている。


 ビッケ隊との合流予定地点まで休まずに馬を走らせた。ビッケ隊と合流して詳細な状況説明を受ける。


「ゴブリンの進行が遅れた事で敵の後方に混乱が生じ、さらに進行が遅れたようです」


「敵軍に侵入したついでにリーダー格を仕留めて来ました」


「先鋒のゴブリン部隊は半壊です。続くオーク部隊にも一部ダメージが及んでいます」


 ビッケ隊の熟練度は驚くほど高まっているな。ずっと最前線で活動している彼等は精鋭中の精鋭だ。


「ビッケはどうした?」


「東の王の居場所を探る為、敵本陣に侵入しています」


「まさか倒すつもりじゃないだろうな……」


 ビッケならやりかねないぞ。


 正体が分からない敵は危険だ!


「周りの住民は避難出来ているのか?」


「確認は取れてませんが王都の城門が閉ざされている為、避難民が行き場を無くしているという噂を聞きました……」


 なんて愚かな事を……


 自分達の身の安全しか考えていないのか!


「ビッケ隊はアストレーア軍が奪還した町や村に避難するように避難民に伝えて回ってくれ! そこなら安全だ」


 ファリスが手持ちの地図にビッケ隊が集めた情報を書き込んでいく。


「分かっていた事ですが敵の数が多すぎます。ビッケ隊が敵を混乱させたこの機を逃すともうチャンスは無いかもしれません。ビッケが戻ったら東の王を急襲しましょう」


「大胆な作戦だな……」


「守りを固められる前に勝負に出ます。王を倒せばこの戦いはただの駆除に変わります」


 ザッジを先頭に突撃陣形で突き進み、東の王を倒す。


 単純な作戦だ。


 日が沈み、辺りは暗くなったがビッケはまだ帰ってこない。


 まさかとは思うが敵に見つかってやられたか?


 ファリスが落ち着かない様子でウロウロしている。


 暗がりから馬がこちらに歩いてきた。


 ビッケか? なぜか2頭いるみたいだが……


 前を歩いているのはビッケのようだ。ファリスが駆け寄っていく。


 ファリスがビッケの近くまで行くと突然、膝を地面につけて頭を下げた。


 意外な人物がビッケと一緒に来たな……


「そんな大袈裟な礼などいらないよ」


 そこには隣国の王の姿があった。鎧も装備せずに農民の様な格好をしている。


「1人で本陣に乗り込もうとしてたから連れて来たよ」


「なぜそんな無茶を……大国の王がする事ではないですよ」


 皆、慌てて膝をついて礼をした。


「すまないが少しだけアルカディア王と2人で話をさせてくれ」


「では私達はキャンプの準備と作戦の確認をします。突撃は明朝です」


 ファリスは夜営の支度も持ってきていたようだ。


「お久しぶりですね。アストレーアさんが王都に向かってますよ」


「行き違いになってしまった様だ。ビッケ君の部下が呼びに行ってくれたよ」


「なぜ単身で乗り込もうなんて思ったのですか?」


「東の王の狙いは私の命だけだと知っているからね……」


「全く分かりませんね……怨みでもあるのですが?」


「会った事も無いし何の関わりも無いが、私を殺せば東の王には得られる物があるんだよ」


「それは?」


 隣国の王は遠目でファリス達の設営作業を見守っている。


「やはり皆にも聞いてもらおう。我が国を救いに来てくれたのは君達だけだ。事情を説明せずに戦わせるのは失礼すぎる」


 そう言って設営作業を手伝い始めたので俺も一緒に手伝う事にした。


 設営作業が終わりみんなで冷たいハーブ茶を飲みながら話をする。


「まず、アルカディア国からの援軍に感謝する。助けに来てくれたのは君達だけだ」


 王が深々と頭を下げた。


「たった7人ですけどね」


 みんな恐縮して話す事が出来ないみたいだ。特にファリスはガチガチに緊張している。


「東の王の狙いは私の命だ。馬鹿げた理由だが簡単に言えば最強の称号が欲しいのだろう」


「最強の称号? そんなに強いんですか?」


 失礼だがそんなに強そうには見えない。自分と変わらない感じもする。戦いが嫌いな感じがするんだよな。


「どうかな? 本気で戦った事は無いんだよ。自分でも分からないんだ。称号と言ったのが誤解を生んだか……ジョブと言った方が君達には分かりやすいかな。世界で1人しかなれないジョブがあるんだよ。マスターとつくジョブは分かりやすいな」


 ダンジョンマスター、マスターアサシン……


「1人だけ? 自分はダンジョンマスターですけど……」


「ルドネから聞いたよ。高位の錬金術師でもダンジョンメーカーが精一杯だ。マスターは伝説級だよ」


 ここにいる者はみんな伝説級のジョブかもしれないな。


「私のジョブはアルカディア王の対極に位置するジョブだ。この事を知っているのはアストレーアだけだ」


 まさか……そんな事が……


「私はダンジョンを作れないと国民から思われているが、それは違う。研究をし尽くして無数に作った。だが……」


 王の表情は重く沈んでいる。


「どれだけ研究を重ねても私には負のダンジョンしか作れなかった……」


 錬金術師が善とは限らない。魔王も悪とは限らない。

 

 以前そんな事を考えていたのを思い出した。

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