第120話 大集結

 目を覚ますと何故かとても静かだ。まるで真夜中のようだな。ベットから起きようと思ったら枕元に着替えが用意してあった。服を着替えて食堂に行くとみんな静かに食事をしている。


「どうしたんだい? やけに静かだけど」


 近くを通った者に聞いてみた。


「交代で睡眠を取るので地下では静かにするようにと指示が出てます」


 なるほどな。夜勤者の睡眠を妨げないように配慮しているのか。状況を確認する為に作戦会議室に向かうと

 

 商人ルドネの姿があった


「ルドネさん、どうしたんですか? こんな所まで」


「ナック様、村長からの指示で着替え等の物資を届けに来ました。私の店の者達と各村から大勢の非戦闘要員も来ています」


「それは助かります」


 村長も勝負所と判断して動いてくれたか……


「しばらくアルカディア国と長城を往復して輸送を担当する事になりました。店の者達は装備の修理に使って下さい」


「何とお礼を言えばいいのか……本当にありがとうございます」


「我々も一緒に戦います。万全のサポートをしますよ」


 ルドネが輸送を担当してくれればこんなに心強い事は無いな。


「ファリス、無理はしてないよな?」


「も、もちろんです」


「少し顔色が良くないな……ロープを用意するかな」


「そ、そろそろ睡眠を取ろうと思っていた所です!」


「本当か? まぁいい。戦況はどうかな?」


「アストレーア様によるとほとんど指示する必要もなく、しっかり戦えているそうです」


 それなら診察の時間は十分に確保出来そうだな。


「アルカディア国からの増員がありましたので魔物によって破壊された長城の機能を急いで回復させてます」


 アストレーア軍の援軍とアルカディア国からの増員分があるからな。地下の施設はあくまでアルカディア軍の使用しか想定していないから規模が小さすぎる。


「今のところ問題は敵が多すぎていつまで戦いが続くのか分からない事と火球が無くなりそうな事です」


 矢は大量にあるが火球はそんなに多くはない。油はとても貴重だからな……


 だが攻城兵器を活かしたい


 何か別の物を飛ばすか……


「毒なら在庫があるんだが……」


「フグミンによると毒はあまり効かないそうですね」


 全く効かないわけではないと思うけどな


 アンデットの弱点といえば火


 そして……


「聖水を作ってぶつけてみるか……」


「そうですね。回復薬も効くかもしれません」


 だが効果は限定される。火のように広がる事はない。


「壺も無くなるかもしれないな……」


「瓶なら沢山あるんですけどね……」


 ダンジョンでスライムを倒していた時にドロップした瓶が大量にストックしてある。


「ナック様、壺はここで作りましょう。店の者達は炉の扱いに慣れています。城壁の西側に壺を作る施設を建てましょう」


 商人ルドネの提案により急遽、壺だけを作る施設を建設する事にした。その他にも馬小屋を建設する。それくらいならすぐに出来るだろう。

 アオイに頼んで大きな錬金釜を作ってもらう事にした。これで大量の聖水と回復薬を作る。


 敵の多さが想像以上だ


 万全の準備をしたつもりだったのだが……


 負傷者の診察をしてから城壁に上がった。指揮しているのはヒナだった。


「ナック、アストレーアさんには休んでもらったわ」


「ああ、戦況はどうかな?」


「攻城兵器は停止したわ。夜だけ使った方がいいと思うのよ。弾切れしそうなんでしょ?」


「そうなんだ。手は打ったが少し時間がかかるな」


「他は驚く程変化が無いわ……」


 全く敵が減って無いのか……


 相変わらず東側は敵で覆い尽くされている


「そういえばフグミンがかなり活躍しているわ!」


「活躍? 動けないほど太っているのに?」


「最高の門番よ? 見て!」


 フグミンに敵が近づくと取り込んで溶解している。


「敵が近づくと溶かしてくれるのよ! あ! 見て!」


 今度はフグミンの中を騎馬隊が出撃していく。


「フグミンが体を動かして通路を作ってくれるのよ。こちらはいつでも自由に出入りが出来るわ」


 城門にもなる門番か!


 ただ太っているだけではないな!


「西側も見て」


 ん? 西側に何かあるのか?


 多くの農耕馬が荷台をけん引している。至る所で煙が上がっているな……


「アルカディアから来てくれた人達が魔石と矢の回収をしてくれているわ」


 ありがとう……みんな……本当にありがとう


 年配の人達が頑張って作業しているのが見える。


 作業をしている人達に声をかけに行く。


「皆さん、暑い中ありがとうございます。体調を崩さないように休憩しながら注意して作業して下さいね」


「大丈夫だよ。ナック君」


 背後から懐かしい声がした。


「デミールさん! あなたまで来てくれるとは」


「一応、大臣だからね。第3ダンジョン砦で雑務の指揮をする事にしたよ」


「助かります。敵の数が多すぎて持久戦になりそうです」


「国全体でサポートするからきっと大丈夫さ。作物も驚異的な成長をしているよ」


 精霊の加護があるからな……


 あまり過信してもいけないが……


 アルカディア国が豊かである事が今の戦いを支えている。


 衣、食、住、全てを兼ね備えているからこそ戦線を維持出来ているんだ。

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