第106話 護衛

「敵の斥候隊が接近中! 数5名です。その後方で本隊の進軍を確認しました。警戒して下さい!」


 5名とは少ないな……腕に余程の自信があるのか


 こちらはずっと待っているだけなので暇だ。体を入念に動かして準備をする。


「あの……ナックさん。まさか戦う気じゃないですよね?」


「ん? もちろん戦うよ? 各村から預かった大事な指導者候補に怪我をさせる訳にはいかないだろ。 俺がしっかり守らないとな」


「え?! なんか逆のような……」


「敵! 村に突入してきました!」


「よーし! 撃退するぞ!」


 敵の斥候隊5名を本陣前で迎撃する。


「お? 君はビッケ隊の者じゃないか?」


「馬鹿な王がノコノコ現れたぞ! アイツがナックだ! 恐ろしいほど弱いらしいが油断するな! 首を取れば最大の殊勲だぞ!」


「ふーん。斥候隊の隊長だったのか? まぁどうでもいいけどな」


 一気に間合いを詰めて斥候隊に蹴りを入れていく。


「うぐっ……」


「ぐはっ!」


 あっという間に隊長1人になってしまった。


「おーい、君達。コイツらを縄で縛ってくれ」


 斥候4人が地面で動けなくなって転がっている。指導者候補達に捕縛を頼み、隊長と向き合う。


「ば、馬鹿な! 恐ろしいほど弱いはず……まさか」


「ん? 見ての通りだ。相手にならんぞ? 君は少し強いと聞いているが。投降した方が早いぞ?」


「騙されていたのか……だが俺は他とは違うぞ!」


 隊長が刀に手を置いて低く構えた。


 居合切りか……


 『シャイニングスター』を抜いてこちらも構える


 間合いに注意してジリジリと詰め寄る


「くっ……まさか……居合を知っているのか?」


 答える必要は無い。だが、なかなかの使い手のようだ。こちらの力量が多少は分かるみたいだ。


 あとほんの少し前に出れば相手の間合いになる所でピタリと止まる。


 居合の技は徹底的に研究した


「どうした? 斬ってこないのか?」


 隊長は表情を歪めて全身から汗が吹き出している。


「くそ! 死ねぇーーー!」


 焦って踏み込んで斬りかかってきたが……


 自分の間合いではない


 ほんの僅かだが遠い


 一の太刀を軽く受け流してカウンターで斬りつけた


 隊長は刀でなんとか受けたがこちらの間合いだ


 受けきれずに遥か後方に吹っ飛んでいった


「ほぉ? やるじゃないか! だが次は外さないぞ!」


 相手に詰め寄って剣を構えたが……


 起き上がってこない


「ナックさん……もう気絶してますよ……」


 刀は真っ二つに折れ、隊長は泡を吹いて倒れていた。


「ナック兄!」


 ビッケ隊が慌ててこちらに来たがもう終わってしまった。


「みんなご苦労様。もう片付いたから大丈夫だぞ」


「大丈夫って…… 無茶苦茶だよー」


「そ、そうかい? やり過ぎたかな……まぁ終わったからいいじゃないか。お茶でも飲んでまた待つとしよう」


「んー まぁそうだねー」


 ビッケと2人でのんびりお茶を飲んで戦況報告を待つ事にした。囮役なので勝手に動く訳にはいかない。

 半刻くらい待ったが何の動きもない。


「敵の斥候達が目を覚ましましたがどうしますか?」


「ちょっと話を聞いてみたいな。隊長だけ連れてきてくれ」


 偽の本陣に隊長が連行されてきた。ビッケと2人で話を聞く事にする。


「なぁ君? 東の国は何でこんな所まで来たんだ? とても勝ち目は無いぞ?」


「ふん! じきに本隊がここを総攻撃する。そうしたらお前達の負けだ」


「んーー 全く君は分かってないな……この本陣は偽物だぞ? 君達の拠点からここに来るまでこちらの軍に有利な地形ばかりだ。その全てに伏兵がいる。この村はそうなる様に考え抜かれて設置したんだぞ?」


「な、何だと……では全てが計略という事か!」


「そうなるねー ここに辿り着く人はいないだろうねー 僕の隊でもあの包囲網を抜けるのは無理かなー」


「くっ……何て事だ……」


「まぁここに来ても俺が倒すから何も問題無い。諦めてこちらの質問に答えてくれ。拷問などしたくないからな」


「ぐ……か、家族を人質に取られているんだ! 誰が魔物を使う王などに好き好んで仕えるものか!」


 そんな事だろうとは思っていたが……


「東の国に居れば良かったじゃないか? わざわざこちらに来る理由が分からないんだ。教えてくれ」


「狂った王の考えなど、まともな人間には分からん……ここの資源が欲しいんじゃないのか? 東の国は戦い続きで焼野原だ……」


 普通の答えだな。何か別の理由がある様に思うんだがコイツに聞いても分からないか……


「君達の拠点には魔物が居ないそうだがどうしてだ?」


「魔物と一緒に行動出来るのはごく僅かな人間だけだ。闇に取り憑かれた狂った人間だ……俺達はそこまで落ちていない」


 なるほどな。人である事を捨てた者が魔物を先導しているのか……やはり東の国の王はもう人ではないな。


「俺達は東の国の事をほとんど知らない。これから長城に向かうが、もし人質の解放が可能なら試みるかもしれない。情報を提供してくれないか?」


「もう死んだも同然の身だ……家族が助かるならいくらでも情報を提供しよう……あんた達に何の得も無い気がするが」


「君達はこの地を荒らした罪があるが、捕われているご家族には何の罪も無いだろう。助けたいと思うのは当然だ」


 捕虜はアストレーア軍に引き渡す事になっている。死罪か終身刑つまり奴隷扱いといった所だろうか。どちらにせよただでは済まないだろう。異国に侵略して村々を襲ったのだからな。人質を取られていたという事で刑が軽減される事はあるのだろうか……それは分からないが重罪には変わりない。


「お人好しの王だという情報は間違ってなかったか……情報を渡そう……東の国から長城に精鋭の魔軍が来る事になっている。なぜかは分からないが予定より遅れているがな。その魔軍が長城を通ってこちらに来たら終わりだ。普通の魔軍ではないぞ。アンデッドの軍団だ」


 アンデッドか……想定内だ


 対策は万全だが情報を得られたのは大きい


 さらに準備して対応するだけだ


「伝令!! 敵軍、全面武装解除で投降しました!」


「た、たった半刻ほどで降伏だと……つ、強すぎる」


 斥候隊の隊長は驚いているが、ファリスの軍略にかかればこんな物だろう。相手が悪かったな。


 全て想定通りだ!

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