第97話 高嶺の花々

 安全な補給路を確保する事が出来た。長城を目指して北上する為に欠かせない事だ。

 ゴブリンとの戦いの時はクレア達の尽力により補給路は保たれた。しかし、今回のオークとの戦いは距離が長過ぎて陸路は危険過ぎるし負担も大きかった。

 ダンジョンを補給路に使う事により北上が可能になった。

 

 アルカディア国を出撃した後は順調に北上したが、辺境地を抜ける頃になると次第に進行速度が遅くなってきた。

 オークに占拠された村の規模が大きくなってきている。

 アルカディア軍は山沿いを進んでいるので、大きな町はほとんど無い。問題は……


「アルカディア軍の速度が早すぎると同時に侵攻しているアストレーア軍と離れてしまいます」


 ファリスを中心に各部隊長も集まって作戦会議が開かれている。


 時を同じくして西の領地からアストレーア軍も出撃している。北の領地はあくまでアストレーアに奪取して貰うつもりなのだ。


「アストレーア軍を側面から支えます。地形を利用した駆除を各地で展開します」


 ファリスから各部隊に細かい指示が出されていく。


「基本的には待ち伏せ作戦です。こちらは有利な地形に陣取ってオークを誘い出して駆除します。そろそろわざと放置しておいた村でダンジョンが形成されているはずです。こちらも予定通り駆除します」


 ザッジの第1部隊は比較的大きな村を担当する事になった。アルカディア騎士団が主力の隊なので森に敵を誘い込んで駆除する。


 ヒナの第2部隊とルナの第4部隊は細い谷間の上に陣取って崖の上から巨石を落としてから弓矢で駆除する。


 ジェロの第5部隊は放置しておいた村に水攻めを仕掛ける。周囲を山で囲まれた場所を水没させてしまう予定だ。

 これで魔王のダンジョンごと水底に沈めてしまう。


 ビッケの第7部隊は各地のオーク砦に『特製スープ』と『毒ステーキ』を配っていく。地味だけどゴブリンは駆除出来るし、多少オークも減るはずだ。


 カナデの第6部隊は小さな砦を襲撃する。その護衛としてクレアの第3部隊が同行する。クレアの第3部隊はフロンティア騎士団が主力の隊なので自分も一緒に行く事にした。さらにセレスの第8部隊も念のために同行する。


「この3部隊が組むと攻守のバランスが良く、理想的な構成と言えます」


 ファリスもカナデが新しく覚えた魔法の威力を確認する為に第6部隊に同行している。

 覚えた魔法は『チャーム』だ。状態異常魔法の一種で敵を魅了して自分の思い通りに操ってしまう凶悪な魔法だ。

 カナデは村長から指導を受け、魔法使いとしての力をかなり伸ばしてきているらしい。


「村長からは1人で砦を壊滅させるようにと言われているわ。それなのに3部隊も同行して……」


「村長の無茶振りに付き合う必要は無いよ。アルカディア軍随一の魔法使いを失う訳にはいかないからね」


「まあいいわ……とりあえずみんな手を出さないようにね。あくまで1人でやらないと後が恐ろしいわ……」


 そう言って小さな砦の前でに陣取った3部隊からカナデが

1人で馬に乗って離れて砦に入って行く……


「ファリス……大丈夫なんだろうか?」


「自信はあるそうです。もし魅了に成功したらそのまま隣の砦に魔物をぶつけて貰います」


 しばらく待つとカナデが何事も無かったように砦から出てきた。


「成功したわよ。今から隣の砦に攻撃を仕掛けさせるわ」


 砦の中からオークとゴブリンの群れがゾロゾロと出てくる。みんな思わず身構えてしまった。


「大丈夫よ。完全に魅了されているわ。当分、私の指示に従うわよ」


 魔物達は黙って隣りの砦の方へ進んで行く。みんなそれを不思議な顔をして眺めている。


「凄い数の魔物を魅了しましたね……」


 さすがのファリスも驚きを隠せないようだ。


「砦の中に居たのは全て魅了したわ。死ぬまで解除されないように集中しないといけないわ」




 カナデが魅了した魔物達を先頭に砦へ攻撃を仕掛けた。


「魔物と魔物が戦っているぞ!」


「これが噂に聞いたアルカディアの魔女様か!」


「魔女様! 凄すぎです!」


 皆から称賛の声が上がっているが、カナデは馬に乗ったままま豪華な杖を構えて集中している。

 次第にカナデの周りで魔力が高まっているのが見て取れる様になってきた。


 カナデが薄い赤紫色に輝いている……長い黒髪が魔力の奔流で揺れている。


 砦の中では魔物がギャアギャアと騒いでいる。恐らく殺し合っているのだろう。

 しばらく待つとその騒ぎも聞こえなくなった。


「こちらが全滅したわ……でもそんなに敵は残っていないはずよ」


「ご苦労様。あとは任せて! 全軍! 突撃!!」


 クレアが先頭に突撃陣形で砦に突撃していく!


 だが……


 ボロボロになった魔物が多少いるだけでほとんど戦わずに戦闘は終了してしまった。


「なんて事だ……カナデ1人で砦を2つ壊滅させてしまったじゃないか。恐ろしい結果だ」


「ふぅ……かなり疲れたわ。しばらく休まないとダメね」


 カナデはグッタリしている。魔物の群れを全て魅了して全滅させたのだから消耗は激しいはずだ。


「かなり消耗してますね。一旦、ダンジョン砦で休んで下さい。私達も戻りましょう」


 まさかの全く戦わなくていい展開に皆が驚愕している。

 クレア、セレス、カナデが馬を並べてダンジョン砦に引き上げていく。


「ラッキーだったな! 激戦かと思ったらまさかの楽勝だ」


「しかもアルカディア三大美人隊長が並んでいるレアショットも見れたぜ!」


 へぇ〜 そんな風にあの3人は言われているのか。確かに3人共凄い美人だ。凄く目立つしジョブも超レアなパラディン、聖女、魔女だしな。


「君達、いつも彼女達と一緒なんだろ? 彼女達はあまり浮いた話を聞かないけど何か噂とかないのかい?」


「ナックさん、知らないんですか? アルカディア三大美人は全員、鋼鉄の女と言われてるんですよ?」


「鋼鉄の女? 聞いた事無いな……」


「言い寄って来た男性はみんな撃沈されます。恐ろしい程ガードが硬いらしいですよ」


 まぁあんなに美人だと理想が高そうだな……


「最初はナックさんの事が好きなんじゃないかと噂になっていましたがどうも違うらしいです」


「ははは、俺は無いよな」


 アルカディア国は人口が少ないのを女性の活躍で補っている部分がある。兵士も女性が半分近くいる。それだけではなくあらゆる労働でも女性に支えられている。


 男性陣はもうちょっと頑張らないといけないな


「1番人気はセレスさんです。なんか普通じゃない不思議な感じがしますしね」


 聖女だからね。普通ではないな。


「クレアさんには昔からの固定フアンがいて絶対に浮気しません。凄い結束力ですよ」


 いい事なのか悪い事なのか分からないな……


「カナデさんはあまりの魔女っぷりに若干引かれ気味でしたがフアンを確実に増やしています」


 アルカディア村ではお嫁さんにしたい人ナンバーワンだったのに魔女のイメージが強すぎるみたいだな。


 こんな話を出来るのも余裕がある証拠だ。いつも張りつめて戦いばかりだと疲れしまう。

 

 無駄な話に思えても、こうやってコミュニケーションを取るのが大事なんだ。

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