第87話 鑑定祭

「お疲れ様です。ナック様。フロンティア騎士団員のレベルが上がっていると思いますので再鑑定をお願いします」


 ダンジョンでの訓練を終えて、館にいるファリスに報告すると再鑑定依頼をされた。


「しばらくやってなかったし、節目のレベル10を超える者が出るかな」


「はい。ジョブのクラスアップがある可能性が高いです」


「今日はフロンティア村に泊まるから、向こうの館で鑑定をする事にするよ」


 ファリスから上質な羊皮紙を受け取って、フロンティア村まで行軍した。ちゃんと戻るまでが訓練だ。


 フロンティア村で装備を外して、みんなでお風呂に入った。結局、男用と女用で2つ浴室を作ったそうだ。


「お? いい香りのするお湯だね?」


「今日はラベンダーの湯の日ですよ」


「へぇー 日替わりなのかい?」


「そうです。ここの村人はみんな風呂が好きなので、いろんな工夫をして楽しんでいるんです」


 とても心が安らぐ香りだ……訓練で疲れた体に効くなぁ


「今日は館の前で騎士団特製バーベキューをしますよ。クレアさんも来てくれるそうです」


「それは凄いな。とても楽しいそうだ」


 辛い訓練ばかりでは続かなくなってしまう。


「食事の前にジョブの再鑑定を終わらせてしまおう」


 館で場所を借りて鑑定をしていく。


「お? 君はナイトになったよ。レベル11だ。おめでとう」


「ええ?! それは凄いや! ありがとうございます!」


 いきなり最初の人からクラスチェンジした。クレアの指導でナイトっぽい戦い方をしているからな。


「お? 君もナイトだね。レベル11だ。おめでとう」


「嬉しいわ。憧れのクレアさんと同じジョブなんて!」


 そうか。クレアは憧れの対象なのか。


「んん? 君もナイトだね。おめでとう」


 もう3人連続だぞ……まさか……


「君もナイトのレベル11だよ」


「はい。君もナイトね」


「はい。君もナイトね」


『全員ナイトのレベル11じゃないか!』


 もう騎士団は最高潮になっている。お祭り騒ぎだ!!


 クレアがちょうど館に来た。


「なんだか、大変な騒ぎになってますけど?」


「いや……君の指導は凄いよ。フロンティア騎士団みんながナイトになってしまった」


「ええ?! みんなナイトに? そんな事があるんですか……」


 みんな同じ戦い方をするんだから納得はいく。しかし、ただでさえ強いと思ったのに恐ろしい強さになるぞ……


「ファリスに言って魔法を用意して貰わないとな。君も再鑑定しとこう」


 クレアのジョブ鑑定をする。


 クレア  パラディン レベル 10


  アクティブスキル  絶対防御


       スキル  防御力アップ 大

            攻撃力アップ 中

            片手剣適性 大

            盾適性 大

          

        魔法  ライトヒール 


「んんん? 君も凄い事になっているな……」


「ええ?! 私がアストレーア様と同じジョブに……」


「そうなのか? おめでとう、クレア。よく頑張った」


 才能があるとは思っていたが、アストレーアに並んだか。指導者としても優れている。素晴らしい人材だ。


「君の様な優秀な人がアルカディアに来てくれて本当に助かっている。これからもよろしく頼むよ」


「私は……」


 クレアは瞳に涙を浮かべている。言葉にならないみたいだ。ずっと努力をして来たんだ。


「少しずつ努力を積み重ねて来た君を誇りに思うよ。フロンティア騎士団はみんな君に憧れている。美しくて強い。まるでアストレーアみたいだ」


「私がみんなの憧れ……アストレーア様みたいに……」


「ああ。でも、騎士道精神はほどほどにな」


 クレアの肩をポンっと軽く叩いて盛り上がっているバーベキュー会場に向かった。


「みんな聞いてくれ。今、クレアがパラディンになった!」


「「「おお!!」」」


「さすがクレアさんだ。凄いです!!」


 さらに会場は盛り上がっていた。


 とてもいいな……


 こうしていつまで明るく過ごしたい……


「クレアも以前はゴブリンが怖いと泣いていたのにな」


「「えええ?!」」


「あーーナックさん! 今、私の秘密をバラシましたね! ナックさんがブチ切れてゴブリンの洞窟を1人で壊滅させたのもバラシますからね!」


「「えええ……」」


「怖い人だったんだ」


「1人で? 怒らせたら駄目な人なんだ……」


 セレスも楽しそうにやって来た。


「フロンティア村はとてもいい雰囲気だな」


「そうでしょ。1度は死ぬ覚悟をした人ばかりなのに、今はこんなに明るく暮らしているわ」


 騎士団の騒ぎにつられて村の人達も集まって来た。もう村のお祭りになっている。


「明日は診察をしますよ。とは言っても本当の医者では無いですがね」


「私も手伝うわね。それが終わったらパン屋さんとかを案内するわ」


 セレスが手伝いをしてくれる事になった。診察は女性の手伝いがあった方がいいから助かるな。


「女性特有の病気もあるから助かるよ。いつもはルナに見て貰っているんだ。そう言えばパン屋もまだ見てないな」


 いつもとても美味しいパンを焼いてくれる。お礼も言わないといけないな。


「お金が存在しない国で報酬も無く、店を頑張ってくれるなんて感謝しかないな……」


「ここで暮らす事が報酬なのよ? いつも明るく前向きに生活出来る幸せ。他の国で得る事は不可能だわ」


 そういう考え方もあるのか。当たり前だと思っている事が当たり前では無いのか。


 守らなければ……


 アルカディア国に夢と希望を求めて来た人達の期待に応えなければいけない。


「あなたは……とても苦しそうね。こんなに幸せに溢れている国の王には見えないわ」


「すまないな。水を差すつもりは無いんだ。すぐに表に出てしまうみたいだ。気をつけるよ」


「私も……自分の能力を活かして国を支えるべきね……もう隠さないわ。私は剣ではなく杖が必要だわ。お願い出来るかしら?」


 セレスには他の者には無い特別な力があるはずだ。必ずこれからの戦いで重要になってくる。


「……すまないな。必ず良い物を準備しよう。一緒に……世界を平和へと導いて欲しい」


「世界を? そこまで大きな話なのね……」


 必ずみんなの笑顔を守る


 これからずっと 未来まで


 ここで終わらせるなんて絶対に駄目だ


 自分の全てを賭けて


 この命が尽きたとしても守り抜く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る