第85話 迷いの先

 村長、ルナ、カナデの3人が王都に向けて出発した。

 西の領地を通るルートでウエストゲート村からミンシアが護衛として王都まで一緒に行ってくれる事になっている。


 北の隣り村には各地から人が集まって来た。オーク軍に襲われて逃げた人達が村の噂を聞いて救助を求めてくるらしい。可能な限り受け入れるそうだ。


 オーク軍は各地の村を占拠して、隣り村と同じ様に砦を形成して中に篭っているみたいだ。


 各村にダンジョンがあるのか……


 ファリス、ビッケと館で今後の話をする。既に村長から聖竜の事は聞いているそうだ。


「現時点では大義名分が無いのが問題ですが、村長さんが何とかしてくださると思います」


「秘密を隠したまま魔物を駆除していくのは無理だよねー」


「厳しいだろうな。村長は他の人と考えが違いすぎる。生きている年数が違うといえばそれまでだが……」


「その村長さんが動いたのですから深刻なのでしょうね」


 そんなんだ。あの村長が慌てて動き始めた。


「今、出来る事は訓練して内政をしっかりする事です。とにかく訓練してこれからの戦いに備えましょう」


「ファリス、俺も戦わせて欲しい。みんなと一緒に訓練するよ。王ではなく兵士として戦いたい。これからの戦いを王として導いていくのは俺には無理だ。すまない……」


 戦術面はサッパリ分からないし、みんなをまとめるリーダーシップも自分には無い。


「分かりました……各騎士団の訓練に参加して下さい。本戦ではクレアさんの隊に入って下さい」


「少しでも貢献出来る様に頑張ってみるよ。ファリス、ビッケ、大変だろうけど頑張ってくれ。必ずみんなが助けてくれるよ」


 ダンジョン砦の防衛からも外して貰った。

 そして、戦力的に1番弱いフロンティア騎士団に助っ人として所属する事になった。

 フロンティア騎士団が活動する時以外は以前の自分の仕事をする事にした。


 薬草畑をしっかりと自分で整えた。最近は他の人に任せっぱなしだった。

 朝起きたら釣りに行って魚を館に届ける。それから館で食事を作る。

 診察も再開する事にした。ファリスは忙しいので受付も自分でやる。作業スペースで軟膏やポーションを作る。

 農作業もみんなに混ぜてもらう。


 少しずつ本来の自分を取り戻していこう


 アルカディア村をゆっくり散歩をした。みんなが声をかけてくれるのであちこちで立ち止まって話をした。診察の再開を喜んでいる人も結構いた。


 アオイの店にも寄ってみる。相変わらず忙しそうだ。アオイとはゆっくり話をしないといけないと思っていた。


「アオイ、東の国の事なんだが……」


「気にしなくていいわよ。あの国はいつでも争いばかりよ」


「そうか……魔物に占拠されたかもしれない」


「自業自得ね。私はアルカディア国でずっと暮らしたい。あんな国に帰りたくないわ。ここに来て本当に良かった。毎日が充実して気力に溢れているわ」


「その調子なら大丈夫そうだ。錬金術が必要な時は遠慮なく言ってくれ。ん? ジェロはどうした?」


 ジェロがどこにもいないぞ……


「王都に行ったわよ……護衛が足りないとか言ってたわ」


 ミンシアが護衛役なのをどこかで聞いたな。さすがだ。


「状態異常耐性を付与したインゴットを用意して欲しいわ。ジェロが戻ったらずっと防具を作らせてやる!」


「ははは。分かったよ。鋼より上の素材になるかもしれないな。ファリスがミスリルゴーレムを召喚出来るそうだよ」


「それは凄いわね! ミスリルは魔法の伝達がいいわ。魔法剣とかにもいいわね。もちろん杖にもいいわ。それならフグミンの痺れ毒を付与したインゴットも欲しいわ」


 戦力を底上げしていくのにアオイの力は最重要だ。ジェロにも同じ事が言える。アイツはやる事はしっかりやるから大丈夫だろう。

 

 木工工房と製糸工房にも寄って行く。ちょっと声を掛ける余裕すら失ってしまっていたな……


 とても大事な事だな


 少し声をかけるだけでもみんな笑顔になる



 館に戻るとファリスが待っていた。


「ナック様、実は各村から診察の依頼が来ています。診察を再開したのをどこかで聞いたみたいで……」


「もちろん行くよ。遠慮なく言ってくれていいよ。本来の仕事じゃないか。軍の事は苦手だから無理だけど、他の事は頑張るよ」


「助かります。無理のない日程を組みますのでよろしくお願いします。道が良くなり情報の伝達も早くなっています」


「なるほど。そういう効果もあるのか。いい事じゃないか」


「ビッケがナック様を休ませてあげた方がいいと……」


「そうか……どうも軍の事を頑張りすぎて自分を見失っていたみたいなんだ。もう大丈夫だよ。心配要らない。ファリスはビッケの家に住んでいるのかい?」


「あ、はい。基本的にはビッケの家に住んでいますが忙しい時は2階に泊まってます」


「うん。俺が言うのも変だけど無理は禁物だよ。君の代わりはいないからね」


「最近は他の人に頼る事も覚えました。以前よりかなり仕事は減ってます。ビッケも手伝ってくれますし」


「いいね。俺の事も使ってくれればいいよ」


 作業スペースにいる人達に声をかけて、錬金術のスペースで自分の仕事をする。休憩時間にはみんなでハーブ茶を飲んでいろんな事を話した。


 しっかり仕事をして工房通りにあるお風呂に入って帰った。


 とてもいい1日だった


 焦っては駄目だ 自分を見失ってしまう


 ゆっくり 丁寧に 平和を手繰り寄せる


 それが近道なんだ 遠回りしている様でも


 足元がふらついていたら 前に進めない


 自分らしく 自分の道を歩く

 

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