第40話 総攻撃


 ジェロの勘は正しいな


「錬金術師がここにいたようだな」


 穴を錬金術で塞いだな。入って後を追うか?


 いや、相手は錬金術師だ……危険だな。


「逃げ道まで準備しているくらいだ。迂闊に追うのは危険すぎる。まずここを片付けよう。この小屋は魔法でぶっ壊す」


 残骸は片付けないと疫病の元になってしまう。面倒だけどしっかり処理しないといけない。

 砦の中央に魔法を打ち込んで穴を掘りゴブリンの残骸を放り込んで焼却していく。


「ジェロ、どう思う? 人がいたのは間違いない。何処かでここの様子を見ているか? それともまだ地面の中にいるか?」


「俺がソイツの立場なら、これで砦を3箇所も潰された事になる。もしお前達に勝つ自信が有れば襲ってやめさせるが、戦わずにゴブリン達を置いて逃げているのを考えると弱いんだろうな。別の事を考えるぜ。俺だったら諦めて逃げの一手だな。弱いゴブリンを幾ら増やした所で全く意味がないからな」


 ソイツはゴブリンに羊を狙わせながらアルカディア村に近づいて来た。ゴブリンを増やし羊を狩ってアルカディア国の中を点々と荒らしているのか。逃げたとすると前の拠点に戻ったか……

 羊を効率よく狩る為に同じくらいの間隔で砦を作って移動しているかもしれないな。だとすると砦の位置は予想しやすい。

 地図を拡げて前に潰した砦とここの砦の距離を確認する。国境の川まで直線上では2箇所程か。おおよその間隔は歩いて1日の距離か……

 これが国内に拡がっているとする大変だが、ゴブリンが砦を真似し始めたのは最近だ。他の拠点は洞窟か? 洞窟には砦みたいに多くのゴブリンを用意出来ないだろう。

 こちらが知らない所で細々とやっていれば追い込まれる事もなかっただろうに……


「村に戻ろう。川まで行く必要は無い。充分な情報が得られたよ」


 

 各隊の隊長を集めて作戦会議が開かれた。

 砦、洞窟を順番に潰して行ってもまた何処かに移動して作るだけだ。そこで決めたのは


 全軍総攻撃だ


 偵察で得た情報を元に砦、洞窟の場所を予測して全軍で同時に攻撃する。


ザッジ・ステラ隊   北西方向攻撃 

ミンシア・ジェロ隊  南西方向攻撃

クレア・ナック隊   西の砦防衛・補給


 西の砦から国境の川までの中間地点の洞窟に補給基地を設け、そこにクレア隊が定期的に物資を届けて戦線を維持する計画となった。

 ザッジ・ステラ隊は北から、ミンシア・ジェロ隊は南から挟み込むように駆除していく予定だ。

 まず西の砦まで荷馬車が通れるように道を整備する事にした。それと同時に食料の確保と装備品の準備をする。


 作業スペースで魔術具の本を読みながら照明具の製作をしている。これがあれば洞窟内で火を使わなくていいから便利なはずだ。錬金術を使うのは魔石の力を光にする部品だけなので木や銅、鉄の部分の方が多い。あまり細かい仕事は得意ではないから他の人に任せる事にした。

 

 フロンティア村の様子を見に行く事にした。

 全部の家の周りに畑が出来上がっていた。デミールさん達がフロンティア村民に指導をしている。


「あなたが本当に王だったんですね」


 セレスが近づいて話しかけてきた。ここに来た時は真っ白な肌をしていたけど、今は少しだけ日に焼けて健康的に見える。


「ゴブリンの駆除をするからしばらくここには来れないんだ。何か不便な事はないかい?」


「そうね……久しぶりにお風呂に入りたいんですけど無理かしら?」


「いいよ。明日、荷馬車を往復させるからみんなで入ってくれ。食事も向こうで準備するから食べていくといい。もうそろそろ自由にしてあげたいんだが隣国から連絡がなくてね」


「本当に自由にしてくれるの? 村人から聞いたけど信じられなくて」


「自由なのはここの人にとっては大変かもしれない。自分で生きる方法を考えないといけないからね。奴隷がいい人は他の国に行ってもらうしかない」


「みんな貴族だった人ばかりでどう生きればいいかわからないわ」


「興味がある事を仕事にして頑張ればいいだけさ。別に畑だけが仕事じゃないよ。アルカディア村に来たらいろいろ見るといい」


 セレスの畑を見ると沢山の小さな芽が出ていた。家の周りをどんどん畑にしている様で頑張っているのがよく分かった。


「食べ物を作るのがこんなに大変だとは思わなかったわ」


 セレスが自分の畑を見てしみじみと呟いた。そうだろうな。必死に育てても収穫出来ずに枯れてしまう事もあるし、嵐で全滅してしまう事だってある。


「何でも作るのは大変さ。アルカディア国ではまだ布が作れない。ようやく挑戦を始めた所なんだ」


 何でも始まりはあるし、挑戦する事は大変だ。


「君にも何かあるさ。思う道を行けばいい。俺もそうしている」


  

 館に戻ってファリスにフロンティア村の風呂と食事の段取りを頼む。ついでなので風呂の増設についても相談しとく。


「ここの風呂はどういう仕組みでお湯が出ているのかな? 風呂を増設したいと思ってね。作り方を知りたいんだ」


「ここの湯は温泉という物で地下から湧き出ています。基本的には地面を掘るだけです。管理するのに魔術具が多少使われていますが全て本に記載されています」


「そんなに大変そうじゃないな。デカイのを作ろう」


「……ダメです。掃除が大変です。ここは騎士団が掃除をしてくれるので何とかなってますが、大きいと人手がかかり過ぎます」


「む? そうだったのか……そんな事も知らずに利用していたとは恥ずかしいな」


「でも増設には賛成です。利用者が増えて混雑する事が多くなって来ましたし、好きな時間に入りたいとの声もよく聞きます。管理出来そうな規模の案をヒナさんと検討してみます」


 とても男女用を作りたいなんて言えないな……


 すまんジェロ


「お風呂も重要ですが照明具が欲しいとの要望が多数来ています」


「どんどん作って配ればいいよ。あと魔術具でいる物は何かな?」


「やはり上下水道でしょうね。館には完備されています」


「水か……あまり不便に思っていなかったが……」


「ナック様の家には近くに綺麗な小川がありますが、集落に住む者は結構大変だと思いますし、ビッケの家も大変です」


「ふーん。よくビッケの家まで知っているね?」


「ふ、フグスライムを観察させてもらいに行っただけです!」


 ファリスの顔が真っ赤になっている。

 上下水道は大変そうだな。かなり大規模な工事になりそうだ。


「駆除作戦が完了したら出来る事からやっていこう。急がなくていいからそちらも検討しておいてくれ」


 作業スペースで照明具の製作を手伝っているとカナデとアオイがやって来た。ダンジョンにて猛特訓中でいつも疲れきって風呂に入りに来る。

 今回の作戦は補給を担当するクレア隊の負担が大きいので、カナデとアオイに頑張って強くなってもらい、少しでも戦力の底上げする事にしていた。


「カナデ、杖はどれにするか決まったかい?」


「……杖は豪華なやつでいいわ……」


 なんだか表情が暗いな……


「そうなのかい? 木のヤツが凄いって聞いたけど?」


「あんなの使ったら辺りが氷の海になってしまうわ。まだ魔力が上手く制御できないのに、あの杖は凄すぎて使いこなせないわ……」


「そんな状況なのか……大変そうだな」


「ようやく豪華な杖なら使える所まできたわ。それでも気を抜くと魔力を大量に使ってフラフラになっちゃうの……」


 魔力切れで気持ち悪いのか。アオイに支えられて風呂に行ってしまった。高級品も考えものだな。初心者用の杖を作った方がいいのかもしれない。


 

 全軍総攻撃作戦開始日になった。万全の準備が整っている。

 全軍が中央広場に集結している。アルカディア村民とフロンティア村民にも来てもらった。


 ザッジ騎士団長が全国民に話する。


「今からゴブリン駆除の全軍総攻撃を開始する。ここには最低限の者しか残らない。普段戦わない者にも守りについてもらう。アルカディア村民、フロンティア村民は自分達で村を守ってくれ」


 フロンティア村民に武器と防具が渡された。アルカディア村民には事前に配られている。


「村の周りにゴブリンが来ることが絶対に無いとは言い切れない。取り逃がしたヤツが村に来る可能性もある。軍が戻るまでしばらく皆で頑張ってくれ! 誰の命も失う事無く勝利するぞ!」


 アルカディア軍が全てを懸けてゴブリン駆除に向かう


 「 全軍出撃!! 」


 ザッジ騎士団長から大号令が発せられた。


 西門が開かれて、騎士団長を先頭に各隊が出撃して行く。村人から声援が飛んでいる。


 アルカディア国が今まで積み重ねて来たもの全てで挑む


 最後にクレア隊が出てフロンティア村民を村まで送って行く。

 そして西門が閉じられた。


 ファリスと2人でみんなが出撃するのを見守った。


 打てる手は全部打った


 後はここで結果を待つだけだ

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