第39話 偵察

 会議室に各部隊の隊長に集まってもらい、西の森の奥に偵察部隊を派遣する計画の立案をしてもらった。

 ジェロ隊4名とザッジ、自分の6名で国の西を流れる大きな川まで偵察しに行く。道など無いので非常に困難な任務になるが、可能な限り情報を集める事にした。


「また男しかいないぜ……」


 西の砦で宿泊して、万全の準備を整えてから早朝に砦を出発した。

 まずはゴブリンの砦を見つけた時に登った丘を目指し、新たな砦が築かれていないか確認する。


「派手にやったからな。何も無さそうだ」


 ジェロの勘頼りだが実績充分なので疑う余地もない。砦は諦めて洞窟の巣に戻ったか、まだ勢力が回復していないのかもしれない。ここからは計画通りのルートで進んで行く。途中で巣があると予想した場所も偵察したがゴブリンの姿は無かった。


「お前達だけで200も駆除したならいなくても不思議じゃないな」


 ザッジは自分もやりたかったと悔しがっているけど、ジェロ隊は2度とやりたくないだろうな。

 

「おい、あそこに狼がいるぜ。久しぶりに見たな」


 前方の岩山の辺りに狼が1匹だけ歩いていた。捕まえて鑑定したいけど今日はそれが目的ではない。狼を見たのはどれくらい前の事だろうか? 思い出せないくらい前だ。

 ぼんやり考えていたら急に前を行くジェロ隊の動きが止まり、警戒態勢になった。ビッケがザッジと俺の近くに来て小声で教えてくれた。


「熊の親子がいるよ、ジェロがどうするか聞いて来いって」


「今の俺達なら相手にならないだろうな。やるか?」


 ザッジの言う通りだろう。だが……


「待て、熊はゴブリンより強い。熊が森に居ればゴブリン達と争って俺達にとっては壁になってくれるかもしれない」


 熊や狼を人が狩り過ぎてゴブリン達を村に近づけたのかもしれないな。狩ろうと思えばいつでも狩れる。ゴブリンに比べれば熊や狼の方がマシだ。熊や狼は滅多に人里には姿を見せないのだから。

 ビッケがジェロ隊に伝言を伝えるとジェロ隊が武器をカンカンと鳴らし始め、しばらく続けてから前進の合図を送ってきた。

 地図を見て、巣のありそうな洞窟へ向かうがまたゴブリンの姿は無かった。けどそれでいい。ここでキャンプをする事にした。

 

 魔石の照明具は火を使わなくて良いのでとても便利だ。洞窟内の安全を確認して入り口に罠を仕掛けて、見張り無しで寝る事にした。

 明日からは未踏の地になる。地図には巣の印はほとんど無い。


「頑張って進んでも2泊しないと川まで行けないな」


 魔物と戦わずにここまで来たので予定より進行は早い。


「いや、3泊だな。戦ってないから早く感じるが森が深くなって進むのが遅くなっている。俺の勘だとこの先はキツいぜ」


 無理をせず早めにキャンプ場所を確保しながら進む事にした。

 翌日は早朝から動き出した。夕方までになるべく進みたい。

 前を行くジェロ隊が動きを止めた。


「肉を持ったゴブリンがいるぞ……」


 ゴブリンを尾行して巣の場所を確認してみる事にした。

 ジェロ隊の後を慎重に着いて行く。こちらに伝わるくらいジェロ隊が緊張して尾行するのが分かる。

 

 ジェロ隊が動きを止めて引き返して来た。


「巣はないぜ……」


 ジェロはウンザリした表情だ。


「大きな砦があるよー」


 ザッジと見に行くとこの前、潰した砦の倍の大きさの砦があり、ゴブリンが大量にいるのが見えた。

 ジェロが嫌そうな顔でこちらを見ているがやる事は決まっている。


「俺が行かせてもらうぞ」


 ザッジが背中に背負った巨大な両手剣を抜いた。


「俺の隊は偵察部隊だぜ……」


 こちらを見て、文句を言ってくるが見つけてしまったら仕方ない。


「ゴブリンが悪い。ジェロ隊は外側を頼む、俺が入り口に立つよ。ザッジの側にいるとこちらの方が危ない。1人で行ってもらう」


 ジェロ隊がブツブツ言いながら散開して行く。

 ザッジと2人で入り口正面に立った。前の砦と同じ作りで大きくしただけだ。砦の中のゴブリンは何匹いるか数えるのが無理なほどいる。


 「行くぞ!」


 ザッジが門の辺りにいるゴブリン達に突撃した。


 両手剣でゴブリン達をなぎ払うと前にいたゴブリン達は凄い音を立てて弾き飛ばされ遥か後方まで飛んで行き、門まで無くなってしまった。


「おいおい……やりすぎだろう」


 ブンブンと両手剣を振り回してゴブリン達は近づく事すら出来ずに倒されていく。もう既に逃げようとしているヤツまでいた。


「ザッジ! 暴れすぎだ! 逃げられるぞ!」


 ザッジに何とか聞こえたようで動きが止まった。そこにゴブリン達が一斉に群がるって襲いかかる。


 ブン! 両手剣で集まってきたゴブリンを一閃する


 軽く10匹位は吹っ飛んでいる


 門だった場所に立って逃げようとするゴブリンを待ち構える。

 嵐でも通り過ぎた様な光景が拡がっていて、こちらに来るゴブリンはほとんどいなかった。砦の真ん中にザッジが両手剣を構えて立ち、無数のゴブリンが取り囲んでいて順番に倒されている。

 奥の方に小屋が見える。魔法で吹き飛ばすか……

 いや、少し中を調査して見るかな。何をしてるか知っておきたい。


「ザッジ! 奥の小屋は壊すなよ! 中を見たい!」


 ザッジを中心にゴブリンの丸い円が出来つつあった。ゴブリンの残骸だ。あれではゴブリンが近づけないので魔法で掃除する。


「マジックボール!」


 山になってきている残骸を魔法で吹き飛ばし、ゴブリンが通れるようにしてあげる。まさかゴブリンの為に道を作ってあげるとは……

 出来た道からゴブリンが雪崩れ込んで行く。そこに


 ザッジの両手剣が一閃される


 壁の方を見ると逃げようとするゴブリンが次々にやられていく。

 ビッケはいつの間にか壁の中に入っていて、壁際を走りながら逃げようとするゴブリンを倒している。

 こちらにもゴブリンが多少襲いかかってきたが剣で切り払うだけだ。

 ザッジの方は敵がいない。あれだけ暴れればもういいだろう。


「マジックボール!」


 ゴブリンの集団に向けてどんどん魔法を放っていく。

 ザッジも動き出して敵をなぎ払っていく。

 ジェロ隊も中に入って面倒くさそうに戦っていく。


 残すは小屋の中だけだ。

 小屋は前の砦よりもしっかりしていて扉まである。扉を開けて慎重に中に入っていく。

 中はとても綺麗で何も無い。ゴブリンがここにいたような感じはしなかった。ヤツの生活している所は臭くて汚い。


「誰かいた様な感じだぜ」


 ジェロがそう呟いて床を調べ始めた。部屋の左の奥で立ち止まり床板の隙間に手を入れて板を持ち上げた。すると床がフタのような形で取れてしまった。楽にゴブリンが通れる大きさだ。


「脱出口か……」


 ジェロが中を覗きこんで、下に向けて剣を突き刺した。


「下は地面だ……妙だな、絶対に何かあると思ったんだが」


 そうか……地面か……


 これは厄介だな……

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