第33話 移民
商人ルドネが養蚕と製糸の道具を届けに来た。
これで布作りが始められる。すでに施設は完成している。施設と言っても誰かが住むわけではないので最低限の入れ物といった感じだ。
施設の名称は製糸工房になった。場所は薬草畑から村の集落の方へ降りた所で小川の水を引き込んで利用する。
家から集落に行く小道は整備されて綺麗な道になり、工房通りと名称がつけられた。今は木工工房を建築中だ。
製糸工房、木工工房、アオイの店と並ぶ事になる。
工房の向かい側は養蚕、製糸が上手く進んだら裁縫工房を建築する予定になっている。
「素晴らしい発展をしていますね。予想を遥かに超えています」
ファリスと一緒に商人ルドネを工房通りへ案内している。
「中身はこれからです。細々と出来ればいいですから」
ファリスの言う通りだ。村人で使う分があればいい。特に自慢できる施設でもないので軽く案内して会議室に移動した。
「大規模な駆除を行った後、ゴブリンが全く居なくなりましたが全滅したとは思ってません。村を整えてからまた駆除に向かいます」
そう説明すると商人ルドネは大きく頷いた。ゴブリンはまだ絶対にいる。そんな簡単に全て駆除できるはずがない。
「村の外壁も整ってましたね。それに国境の橋を超え、森を進んだら村人2名に声をかけられました。とても良いと思いますよ」
北の森の中に目立ったないよう木の上に監視小屋を作った。
今は試験運用している。ここを拠点に狩りをすればいい。
「今日は隣国の王から手紙を預かって来ました。個人的なお願いがあるそうです。私は内容を承知しています」
ここで封を切り手紙を読んでファリスに渡した。
「罪人の受け入れですか……」
反乱を起こし敗れた領主の連座で罰を受ける者達を預かって欲しいと書かれていた。可愛がっていた親戚とその縁者らしい。
「国外追放の罰ですか……どこの国に行っても奴隷扱いでしょう」
それは死罪に等しいな……しかし、これはいいのだろうか? 親戚だけを特別扱いする事にならないのか? こちらが考える事ではないが発覚すれば問題になり糾弾されかねない。
「名も知らない辺境の小国行き。かなりの重罪と皆、思うでしょう。どうしても救いたいそうです。実際には罪など何も犯していません。ただ普通に村で暮らしていただけです」
血の繋がりがあるだけでそこまで重罪にするのか……
「何名程いるのですか? 多いと住む所がありませんよ」
まだ移住者用の住居は建築中だ。こんな所に来る人がいると思ってないのでのんびり作っている。
「30名程です。受け入れて頂けるなら王都より極秘で人員を派遣して住居を建築するそうです。森を更地にするのも含めて3日で可能と聞いています。資材、物資は一切必要ありません。場所だけ指示して頂ければいいそうです。逆に一切関わらないで欲しいそうです。建築している者の顔も見ないで頂きたい。それくらい極秘です」
30だって……多すぎる。しかも3日で建てるだと?
「受け入れても良いと思うけどファリスはどう思う?」
「人数が多いですね。ここでは自給自足をしなければいけません。畑をやるにも作物が出来るまで養う必要があります。狩りをするにも見知らぬ者に武器を与える訳にもいきません。あまり益が無いと思います」
確かに5〜6人なら何とでもなるが30は負担だな。それがしばらく続くのか……キツいな。
「保管の効く穀物等の食糧をお持ちしましょう。お礼として魔術具の作り方の書かれた本を提供するというのでどうでしょうか?」
「受けましょう!! その本は読んだ事がありません。かなり貴重な本でここに来る時も探しましたが、重要機密なのでさすがに無理と言われたんです。100名でも受けるべきです!」
おい! 即決かよ!
魔術具の本か……
照明具は欲しいな。カナデ用の杖は作れるのかな?
「その本には魔法使い用の杖の作り方は書かれていますか?先日、村にもようやく魔法使いが増えまして」
「本の中身はさすがに承知していません。良い杖ならご用意できますので本と杖でお願い致します」
「そうですか。わかりました。何とか頑張ってみます」
「ありがとうございます。罪人の扱いはひとまず奴隷として下さい」
「別に普通でいいですけど……」
「もちろん表面的で構わないです。しばらくしたらお任せしますので」
「いいですよ。確かに誰かに見られる事もあるかもしれません」
まあ誰も来ないけど念のためにそうしよう。話がまとまったら商人ルドネは急いで村を出発した。かなり急ぎの案件らしい。クレアの母親が慌てて手紙を託していた。商人なのに大変そうだな……
「王都はまだまだ大変そうだな……魔術具の本があれば暇つぶしにはなりそうだ。ファリス、建築場所を決めておいてくれ。あとは村人への連絡も頼むよ。俺は麦畑でも耕してくるよ」
西門の外に作っている麦畑へ向かう。デミールさんと若者達が畑を耕していたので混ぜてもらう。
農耕用に足の短くて太い馬を選んで連れてきて、アオイに作って貰った鉄製の農具を引いてもらっているそうだ。村の畑は手で耕しているのを考えると楽なもんだ。
長い棒を持って馬のお尻を叩くだけでいい。
「デミールさん、これは楽ですし早いですね」
「馬を農耕に向いた品種にすればもっと力があるよ。牛でもいいな」
「馬に種類があるんですか? みんな同じに見えますが?」
「野菜と同じさ。良い馬同士を組み合わせてさらに良くしていくんだ。王都から来た子達の馬はかなり足が早いはずだ。一方で、村の馬は力が強い馬が多いよ」
西の砦に行くにも馬の足の早さは大事だな。後は牛か……牛に与える牧草がここには無いから飼っている者はいないが、麦畑が出来ればエサもあるな。少し仕入れてみるか……
「早く麦畑が見たいな。収穫出来たら祭りを開きましょう」
「そうだね。収穫を祝うのは大事な事さ。みんな頑張ろう!」
デミールさんが中心になって若者達が畑作りに励んでいる。
みんなで楽しくのんびりと新しい作物に挑戦している。
馬のお尻を棒でペチッと叩く。のっそりと馬が動き出した。夕方までただそれだけをする。夕暮れ時に作業をやめて馬を厩舎に戻してエサを与えた。馬の世話も大事な仕事だ。水も新しい物にしてあげた。
麦畑は順調だし馬も増やすかな。まあ焦る事はない。
一応ファリスに相談しておこう。
館に寄ってお風呂に入って帰ろう。結構汗をかいたからな。
ファリスは事務所にはいなくて、代わりにルナが受付をやっていた。
「ルナ、お風呂に入らせてもらうよ」
「はい。どうぞー」
風呂に入る時は受付に言う事になっている。
食堂を通って風呂に向かうとクレアの母親が話しかけてきた。
「あの、ナック様、じゃなくてナックさん」
様をつけるのはみんなにやめてもらっている。ファリスだけは頑固でやめようとしないので諦めたが。
「どうしました? また腰痛ですか?」
「い、いえ。今日、商人に手紙を託しました。親戚が移民して来ると思うのでよろしくお願いします。私の妹の家族で6名います。
年寄り夫婦、妹夫婦、その子供でクレアと同年代の男女です」
「そうですか。わかりました。今、建築中の建物を急がせましょう。すぐに出来ますよ。クレアと見に行ってもらって要望があれば言ってくださいね」
「要望なんて滅相もない。この国に住めるだけでも幸せです。ありがとうございます。本当にありがとうございます……」
そんな大袈裟だな。なんか涙ぐんでるし。
まあいいや 風呂いこ!
やっぱり広いお風呂はいいなぁ
もっとデカイの作るか!
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