第14話 王都へ

 ビッケの武器を王都で探してみるかな。手に入れた魔石を換金すれば1本くらい買える気がする。この魔石はダンジョンで得た魔石で村のルール外だ。


「この魔石は2人で分けよう。王都に行った時にビッケの分は武器に、俺の分は本と釣り針に交換したいな」


 灰色羊から得た魔石を自分に1個、ビッケに2個、分配する事にして、王都に行った時に武器と交換してみるとビッケに提案したら、「自分で選びたい」と言ってきた。 

 ビッケの好みそうな武器は何となく分かるけど、本人が選ぶのが1番納得できるのは間違いない。

 村長にビッケを連れて行っていいか聞いてみたら、あっさり許可が出た。領主は自分なのだから相談だけしてくれればいいと言われてしまった。


 王都へ出発する日が近くなってきた。村人達は毎日、熊狩りに出ているが難航しているようだ。

 王都には馬で行く。遠すぎて歩いて行くのはとても無理なのだ。いくつかの村で宿泊したり、野営して王都まで行く。

 馬に乗った事はあまり無かったので、乗馬経験の全く無いカナデ、ビッケと一緒にザッジ達に教えてもらっている。

 ザッジ達は熊狩りと王都行きの準備でかなり多忙らしくウチに来る余裕が無い。まだダンジョンの事も話せてないし、ジョブ鑑定の事も話せてない。今もカナデがいるしな……


「カナデ姉、羊の皮が手に入ったんだけどさー 商人が使っている背中に背負う袋を作れないかなー?」


「見た事はあるからできるとは思うけど」


「背中より小さいくらいがいいんだよ 背負って戦うんだ。ナック兄も欲しいよね?」


 これからダンジョンを拡張していくとアイテムを入れる袋がないと厳しい。あんなにアイテムが出るなら確かにいる。

 王都への道中でも役に立つはずだ。カナデは出発に間に合うように頑張ると笑顔で引き受けてくれた。


「ザッジ兄にも頼みがあるんだよー 戦闘の練習用防具って無いかな? ボロでいいからあったら欲しいんだー」


「ザッジ、頼めないか? ビッケと戦闘の練習をしているんだ。手加減してもらっても当たると痛くてな」


「お前達、そんなに訓練好きだったか? ボロいのなら好きなのを持っていっていいぞ。そろそろ新調しようと思っていたところだ」


 しばらく村を離れるのにダンジョンの事を村人に明かす訳にはいかない。村のために有効利用したいけど、危険は避けないと有効利用どころか破滅しかねない。状況が整えば……


 領主会議に参加するために村を出発した。ザッジ、ヒナ、ルナ、カナデ、ビッケと自分の計6名で馬に騎乗して王都を目指す。馬の体の両側には袋が着けてあり、中には食糧や野営の道具、着替え等が入っている。貴重品は分散して持ち、交換用の魔石と村長の秘蔵葡萄酒をしっかり持った。自分もこっそりと灰色羊の魔石を3個持っている。北上して隣り村まで行く。

 先頭はザッジで騎士のような装備をしている。次にルナで帯剣し弓を背中に背負っている。

 その後ろにビッケ。軽装備でカナデに作ってもらった袋を背負っている。腰には自分で作った木刀を装備している。その後ろはカナデで軽装備に帯剣している。

 次が自分で軽装備に帯剣して背中にカナデの作った袋を背負っている。

 最後尾がヒナでルナと同じく軽装備に帯剣して弓を背負っている。

 村を出てすぐの頃はまだ会話があったがすぐに無くなった。道は細く険しい。


「カナデが作ってくれたリュックサックはとてもいいな。いろんな物が入れれるし、背負っていても疲れない」


 カナデが作ってくれたリュックサックから水筒を取り出して水を飲んだ。商人の背負っている袋はリュックサックと言うらしい。馬に乗ったままで物が取れるからかなり楽だ。


「皮を縫うのは大変だったけど、お婆ちゃんがリュックサックを作った事があって教えてくれたの。誰かの為に何かを作るのがこんなに楽しいなんて今まで思わなかったわ」

 

 川に石の橋が架かっている。王子から聞いた話だと王が架けた橋だと言っていた。6人みんなで横に並んでも渡れるくらいの横幅がある。王子が言うように確かに立派な橋だと思うけど、村の者達は嫌な気持ちになる。


   俺達の親はここを渡って戦いに行き


       帰って来なかった


 ここにいる者の親で生きて帰ったのは村長だけだ。生きて帰った者は皆ボロボロだった。村人達は誰も戦いの事を口にしない。老人達は絶対に言うつもりが無い、誤魔化して言わないのではなく「絶対に言わない」と言うのだ。もし自分が老いて戦いの事を口にしたら殺してほしいと言う老人さえいた。子供達は自分の親がいつどうして死んだのかも知らなかった。


 隣り村に無事着いた。ここでは宿泊するだけだ。アルカディア村の2、3倍は大きそうだし店も沢山あるが、外を見てまわる余裕など無い。馬と体を休め明日に備える。部屋は当然だが一部屋だ。男女を分ける余裕などない。

 隣り村は養蚕が盛んで、糸や布を仕入れる事が出来るので王都からの帰りに仕入れる事になっている。王都で仕入れるより安く仕入れができるらしい。

 外がまだ暗いうちに出発する。思った以上にキツい旅路だった。馬に乗る練習はしっかりしたが、隣り村を出発してからは知らない道で常に緊張してしまう。皆、口数が少なく重い雰囲気だ。ただ、治安はいいのでその点だけは楽だった。

 いくら治安がよくても野営で見張りを立てない訳にはいかない。交代で見張りをして朝まで過ごし、また暗いうちに出発する。次の村ではゆっくり休める。


 山を越え、谷を越え、森を抜け、川を渡る


 橋をいくつも渡ったがアルカディア村の北の橋より立派な橋は無かった。確か、王も自慢の橋だと言っていたかな?

 王都が近づくにつれて道がよくなり村も増えるので一気に進行が楽になる。贅沢はできないが食事も美味しい。

 

 地平線へ続く道を1列に並んで歩いて行く。右も左も全て麦畑だ。黄金色の穂を風が優しく揺らしている。所々に小屋が見えるが見渡す限りの麦畑だ。


 一体どれほどの食料がここでは作られるのだろうか? 


 想像もつかない。これが人の作り出した光景なのか。おそらくここは王都の食糧庫なのだろう。次の宿が最後の宿だ。



「俺達、結婚する事にしたんだ」



 急にザッジがそう言った。さすがにみんな驚いた。誰も知らなかったみたいだ。



「そうか、おめでとう」



 言えたのはそれだけだった。結婚するとは誰も思っていなかったのだ。仲がいいのは分かるが、結婚は別だ。

 ザッジは相当の覚悟で結婚をしなければならない。


 人とエルフの結婚には高い壁がある。


 エルフは長寿種だ。


 しかもヒナは純血種だ。寿命は相当長い。ザッジが老いてもヒナは若いままだ。村人もザッジがヒナと結婚するとは誰も思っていない。 


 そうか……決めたか……


 ヒナは満面の笑みだ。皆、祝福している。


 そうか……


 今なら聞けるか?


 ヒナとルナに聞きたい事がずっとあった。幼い頃に聞いた事があったが教えてくれなかった。カナデとビッケもいるから無理か……ザッジだって疑問のはずだ。それとも知っているのか?


 明るい話題に水を差す事になるかもしれない。今はやっぱり駄目だ。王都が近づくにつれ、みんな盛り上がてきいる。結婚するザッジとヒナをみんな明るく祝っている。



 自分1人だけが違う事を考えている 


 何かがおかしい



 王都だ  王都で聞こう 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る