第11話 命を大事に!

 そろそろ昼だ。ダンジョンに羊が湧いているかもしれないので覗きに行って見る。


 羊がいた!!


 覗いただけで戻ってきた。どうやって毒を試すかが問題だな。あの羊はレベル1で弱すぎる。剣に塗って攻撃しても毒で倒したかわからない。矢に塗るのもダメかな……捕まえて飲ませるかな。何か嫌だけど……


 どうするのか考えていたらビッケが遊びにきた。


「ナック兄、フグ食べてないよね?」


 遊びより毒の事が心配で来たみたいだ。


「身も捨てたよ。それより羊がいるんだ」


「早かったねー 倒してみていいかな?」


「待ってくれ。作ったフグ毒で倒そうと考えてたんだ」


 いい倒し方がない考えていたと言ったらビッケが


「羊は草を食べるから、草に毒をかけて食べさそうよ」


 なるほど! 簡単な事だが思い付かなかったな。

 早速外に出て羊が食べそうな雑草にフグ毒を少量かける。それをダンジョンの扉を開けて羊の側に置き、すぐに逃げてきた。ちょっとだけ待って、そっと扉を開けて覗き込むと羊が草を食べているのが見えた。しばらく観察していると羊がピクピク痺れて突然倒れた。


「お! 効いたぞ!」


 さらに待っていたら倒れていた羊が魔石に変わり、肉の塊がポトリと地面に落ち、フワッと羊皮も出た。戦利品だな。

 魔石5個と羊肉と羊皮を得たが、この肉食べれるのだろうか? 何となくだけど肉の色がおかしいような……


「毒殺した羊の肉かー やばいよねー」


「肉が出たのは初めてだ。鑑定してみよう」


 羊皮紙で肉を鑑定してみた。



 白羊の肉  品質 上級以上  毒状態



 2人とも一気に顔が青ざめた。羊からリベンジされるところだった!! 外に埋めて、手をしっかり洗った。


「毒ってすごいねー」


 うーん いいのかコレ? 普通に倒すのも毒殺も変わらないが、ビッケのジョブは「マスターアサシン」だ。そういえばさっきもすぐに毒殺を思いついたな……なんか怖い。


「ビッケは毒に触るの禁止な!」


「えー 楽しそうなのになー まあ いいけどねー」


 毒は厳重に管理しよう。入手した魔石を虹色魔石の横に置かないとな。木箱をどけて虹色魔石の側を見てみると魔石が減っていた。羊が1体湧いたから1個減って4個残っているはずだけど2個しかない。

 このダンジョンは本に書いてあるのより多く魔石を消費するな。本に書かれている事との違いが他にもあるかも。


「ナック兄、次は僕に戦わせてよ 昼に来るからさー」


「わかった。鍵を渡しておくから好きな時に来ていいよ」


 ダンジョンといっても敵が弱すぎる。しばらくビッケの遊び場にいいかもしれない。森よりこっちの方が安全だ。

 

 ビッケと一緒に昼飯を食べた。虹色羊の肉を焼いた物だけど、あまり美味しくなかった。どうも最近、肉ばかり食べているので胃の調子が悪いみたいだ。


「美味しい野菜のスープが食べたいな」


「んー デミールさんの家のが1番美味しいよー」


 ビッケは魚と交換で食事をさせてもらう事が多いので、どの家の料理が美味しいとか、あそこの家はすぐ喧嘩になるとか村の家庭事情に詳しい。

 小さい時は魚と交換等しないで食べさせてもらっていたが、素潜り漁が上手になった頃から自分で頼んで交換にしてもらったそうだ。

 最初の頃はみんな交換を断った。みんなビッケを心配して招いていて何かを求めている訳では無かったからだ。

 それを聞いた村長が「ビッケのために仕事を与えてほしい」と村人達に話したのでビッケの仕事は漁になり、海産物がほしい時はビッケに頼むようになった。


「確か猫耳族の人だったな。料理上手なのか」


「奥さんの料理は気まぐれだよ。野菜が美味しいんだよ」


 どこの家の野菜も大して変わりないと思っていたが、そこの家は別格らしい。ほとんどの村人が野菜を作っている中でそんなに野菜作りの上手な人がいるとは知らなかった。


「どこの野菜も美味しいから知らなかったな」


「少しの差だけどいろいろ食べ比べるとわかるねー」


 さすが村の情報通だ。野菜作りは薬草作りの参考になるかもしれないな。そのうち畑を見に行く事にしよう。


 暇なので読書を始める。錬金術の本は分厚く内容も濃い。

 王子が書いた本だが書き込みもあちこちにしてある。よく眺めてみると、書き込みごと写本してあるみたいだ。最高の暇潰しになるので王子にはとても感謝している。

 ビッケは神話の本を読んでいて、たまにわからない文字があると聞いてくる。村長の家で村人に文字の読み書きを教えているけど、ビッケはここで文字の読み方を覚えた。

 いつも2人で本を読んで過ごしていた。同じ本を何度も読むしかないけれど。他の村人はチェスやおしゃべりをして余暇を過ごしている。本があって良かったと思う。


「ナック!!」


 ぼんやり本を読んでいたら誰かが呼んでいるみたいだ。気持ち良く昼寝できそうだったのにな。どうもヒナの声だ。

 扉を開けると物凄い勢いで走ってくるのが見えた。何かあったかな? ザッジと喧嘩したのかもしれないなあの顔は。


「カナデがケガをしたの! 早く薬をちょうだい!!」


 薬ならどこの家にもあるはずだ。


「落ち着け。全然わからない。薬は沢山ある」


「もうすぐザッジがカナデを背負ってくるわ!」


 小道の方を見たらザッジが必死に登ってきている。


「熊に襲われたって!! 薬を! あの薬を!!」


 熊だって?! 熊を相手して負った傷なんて薬じゃ治らないぞ。 ここまで来るくらいだ恐らく重傷だろう。


「何でここに来た! 村長の所へ行け!」


「いないのよ!! 村を出ているの……」


 村長がいない? あの人は何年も村から一歩も出てないはずだ。なぜこんな時に限っていないんだ。ヒナは泣きながら叫んで次第に憔悴していった。


 これはまずいぞ……


 ザッジが家の前でボロボロのカナデを地面に降ろした。手当てはしてあるが腕の包帯に広く血が滲んでいる。


「傷が深い。だいぶ血を失っている。薬を塗ったが血が止まらん。浅い傷は薬で治ったが。あの薬で治してくれ!」


「ぐっ あの薬は売ってしまった。もう無い……ビッケ! 薬を全部持ってきてくれ。全部だ!」


 包帯を外して薬を塗っていくが一瞬しか血が止まらない。

 カナデの顔を見るともう血の気が引いてしまっている。喋る事もできないくらいだ。


「私達のせいだわ。あんな話をしなければ……」


 何かあったのか? でもそんな事は後だ!


「今から薬を作るか……」


 そう言って薬草畑を見る。植え替えたばかりの薬草が少しはある。でもいい薬は無理だ。良くても今、使っているのと同じ、悪ければそれ以下になってしまうぞ。


  何か……


「……賭けるしかないな。ポーションを作る。時間を稼いでくれ! 傷の上で止血をしっかりして、傷口にどんどん薬を塗ってくれ」


「作った事があるのか?!」


「無い! でもやるしか道がない!!」


 薬草畑に残っている薬草を全部収穫して、錬金術でポーションを作る。


 失敗は許されない!


 薬草を丁寧に刻んでから錬金術の道具で錬成する。


 意識を集中して魔力を込めていく。 


   最高の薬を! 


   命のために!!!



 くっ! 魔力が吸い取られる感じがする。今までなかった感じだ。自分のレベルより上のアイテムだからな……

 何とかガラス管に7分目程のポーションができた。青く透き通った美しい色をしている。


 薬を見極める!


 わかる! わかるぞ!! 


 これは良い薬だ!!!


 慎重に傷口に注ぐと傷口がスッと消えた。皆、安堵したがカナデの意識がない。顔色も酷く悪い。


「ナック兄! どんどん冷たくなってるよ!」


「血を失いすぎている……これでは……」


 ベットに移動させて布で包んで体を温めるが。

 もう一手いる。


 血だ、血が欲しい!



「ザッジ! 虹色羊の骨をそこの白い板の上で砕いてくれ!」


「ヒナ! まな板の上で虹色羊の肉をミンチにしてくれ!」


「ビッケ! 虹色羊の血を持って来てくれ!」


「もう1個薬を作るぞ!」


 錬金術の本を開いて手順を確認する。自分のレベルよりかなり高いアイテムだ。 


  だが、やる! 


  必ずやるぞ!


 用意して貰った材料を混ぜ合わせ錬金道具にセットした。


 意識を集中して魔力を注ぎ込む!


  生きてくれ!!! 


  ただ それだけだ!


 ブワっと魔力が削り取られ、目眩がしてくるがここで倒れる訳にはいかない。


 限界が近い、いや超えているか?

 

 スッと魔力が体に入ってくる感じがした。 


 何だ?


 ほんのわずかだが楽になった。


 いけるぞ! これならいける!


 小型のフラスコに赤色のドロッとした液体が入っている。


 目眩が止まらない


 何とか意識を保って見極めようとしたがわからない……見た事がない感じだ

 

 成功しているのかわからない……わからない薬は危険だ


 か、鑑定だ!


 品質は関係ない、名前さえ鑑定できればいい!


 自分の意識が危ない。体が全く動かない。


「誰か……羊皮紙を取ってくれ……鑑定する。名前が造血薬だったら少しずつでいいから飲ませるんだ」

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