第10話 スローライフは大変だ

 ダンジョンへの階段を見えなくするために、床下収納ぽく見える扉を作る事にした。こういう大工仕事はザッジが得意だから、来たら手伝ってもらうおう。ヒナもザッジの手伝いをよくしているので上手だ。

 外で木材を切って何とか扉っぽい物を作った。あまり良い出来とは言えない、単なる目隠しで扉というよりただの片開きのフタだった。

 違和感がとてもあり「ここに何かありますよ!」と言っている様に見えるので部屋の模様替えをした。

 魔石には布を被せておいたけど、コレも怪しく思えてきたので、木箱を作って被せてみた。


 特にやる事が無くなったので、薬草畑を綺麗に整える事にした。まばらに生き残った薬草を畑の一画に植え替えて、小川の水をいっぱいかけてあげる。

 籠を背負って森に行き、枯葉の下にある真っ黒の腐葉土を背負えるだけ集めて畑へ戻り、薬草を移植した後の更地の土の上にかけていく。それからしっかりと畑を耕した。

 

「しばらく土の状態を見てから種を撒こう」


 祖父から引き継いだ大事な畑だ。丁寧にやっていこう。

 畑の片隅に身を寄せ合うように植わっている薬草達をみると、何だか可愛そうな気がしてきたので、周りに杭を打ってロープで囲ってあげた。自己満足だけど大事にしている気分になった。


「よく生き残ったな。大事に育てるからな」


 もう一度、腐葉土を取りに行き、薬草一本一本の周りの土に足してあげた。これでいいだろう。


 翌朝、とりあえずダンジョンに行ってみると羊は居なかった。たぶん3日より早く湧く気がする。魔石のドロップ数から考えると昼くらいだが……興味があるけど急ぐ事もない。

 

 久しぶりに釣りに行く事にした。いつもは畑でミミズを捕まえて行くけど今はダメだ。ミミズ達の力も借りないといけない。ビッケの家まで行く途中で捕まえる事にする。

 出かける時は必ず帯剣する事にした。昨日、とても弱い羊と戦っただけだが、やっぱり護身用のナイフよりは剣の方が楽に戦えた。初めて使ったので練習しないといけない。羊とはダンジョンで戦えるようになった。素振りと実際の敵では全然違う。

 狩りを沢山すれば獲物はどんどん減ってしまう。でもダンジョンは無限に敵を生む。今はレベル1の羊が1匹しかいないけどダンジョンが成長すれば種類も強さも変えられる。

  

「そうだ! 種類を増やそう!」


 準備をしてビッケの家に行く。ビッケは家の外で魚をさばいていた。軒下の釣り竿を持ってビッケに挨拶をした。

 

「ビッケ、ちょっと頼みがあるんだけど」


「んー 何かなー?」


「ダンジョンに魔物を追加したいんだ。スライムを見つけたら捕まえてくれないかい?」


「いいよー あまり触りたくないけど 面白そうだし」


 スライムを見つけるのは結構難しい。最弱なのですぐに魔物や小動物とかに倒されてしまうからだ。

 他の魔物も追加したいけど最近は見た事がない。以前は狼や熊の魔物を見た事があったんだけどな。

 魔物を探しながら釣り場に来たけど全くいなかった。


 今日もビッケにオススメポイント聞いてある。海は澄んでいてちょっとだけ波がある。小魚がかなり沢山見えたけど、種類まではわからなかった。


「今日は小魚が多いな。狙って釣るのは無理かな」


 エサをつけて仕掛けを落とし込むとすぐに小魚が釣れた。


 ちっ! フグだよ……


 フグは食い意地が張っていてすぐにエサを食う。しかも、エサを食う時に鋭い歯で糸を切る。貴重な針ごとエサを食う最悪な魚だ。あまりに歯が強いので釣り針を折ってしまう事も多い。フグを釣り針から外して、針の確認をする。ホッと息を吐いた。何とか針は助かった。フグは美味い! 死ぬ程美味いのだ。昔はフグが好きで死んだ人が結構いたそうだ。

 フグは猛毒を持つ魚だ。フグにもいろんな種類があるみたいだが、毒を持つヤツの方が多い。処理を誤ると痺れて死ぬそうだ。内臓は特に危ないらしい。

 確かに魚は沢山いるけどフグがいたらダメだ。ポイントを変えるか考えていたら思いついた事がある。


「フグは厄介な魚だが強力な毒がある。錬金材だ」

 

 毒など作っても使い道は無いけど、錬金術の練習になる。いつもは釣れても捨てるけど、今日は持って帰る事にした。

 釣り場を変えてもフグしか釣れない。針も2個失ってしまった。結局フグを4匹釣ったところで帰ることにした。

 今日はこの前と違って急いでないのでビッケの家に釣り竿を置いて帰る。


「ビッケ、今日はどこもフグだらけだったよ」


 ビッケに籠の中のフグを見せると驚いた顔で聞いてきた。


「ナック兄! まさか食べるのかい?! ダメだよ!」


「いや、さすがに食べないよ。錬金術の練習に使うのさ」


「そ、そうなのかー びっくりしたよー でも処理はしっかりしなよ 使った道具も綺麗に洗わないといけないよ」


 村の館に向かう。何人か村人と会ったし、よく知る者と話もしたけど、誰も領主になった事を聞いてこない。もうみんな知っているはずなんだけど。ザッジがいたので聞いてみると……


「掲示板を見る者が少ないのもあるが、見た者はナックという同じ名前の人が領主になったと思っているな」


「おいおい……説明はしないのか?」


「したが誰も信じない。もう面倒だから説明もやめた」


「……別にいいけどさ。都合のいい時にみんなでウチに来てくれよ。ザッジとは王都行きの話しもあるしな」


「ああ、わかったよ。ヒナの機嫌が悪くて大変だしな」


 領主と思われなくても何も問題は無い。放置でいいや。

 館に行ってよく使いそうな錬金術の道具を袋に入れた。作業しにここまで来るのが面倒だからだ。素材もちょっと持っていく。

 レシピはだいぶ覚えてきたが、まだ何に使うか、そもそも何なのか分からない物もあった。本をしっかり全部読んで理解すれば全て使えるのだろうけど、まだ初心者だ。


 フグの処理をする。毒がどこにあるかよく知らないので身と骨の部分以外は毒として考えることにした。ナイフで切り分けて身と骨は、家の外に穴を掘って埋めた。他の部分を錬金材として使う。本を見ながら毒を作り小瓶に入れた。できた毒に羊皮紙ちょっとだけ浸してアイテム鑑定をした。


 フグ毒  品質 劣


 どうも毒以外の部分が多すぎたみたいだ。品質を良くするためには素材の事もよく知らないといけないな。内臓だけを使えばよかったか? まあいいや。

 「劣」か効果を試してみたいけど、まさか誰かに使う訳にはいかない。ん? 相手はいるじゃないか!


 ダンジョンにね!!

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