第7話 究極の錬金術
書類上はもう領主になっているけど発表は明日、王子が出発する時に行う事になった。出発するまでにできるだけの支援をしてくれるらしい。とりあえず祭りに行っていいけど、後で本を読んで鑑定を試すように言われた。
館の外に出たらザッジとヒナとルナが心配そうに待っていた。こちらに気付いて駆け寄ってくる。
「ナック! 一体どうなったんだ?」
中央広場は祭りで賑わっている。一応、明日まで領主になった事は伏せておくように言われたが、この3人なら問題無いだろう。
「ここでは話せないんだ。ウチまで行かないか?」
食材を持ち寄ってウチに行き、話すことにした。
「錬金術師になったのは知っているね?」
「ヒナから聞いたわ」
「なら話しは簡単だよ。ここの領主になったんだ」
「「「はぁーー!?」」」
経緯を簡単に説明すると何とかみんな理解できた。
まだ姉妹の結果を知らないので聞いて見る。
ヒナとルナは狩人になった。レベルはヒナが4、ルナが3だったそうだ。
「ザッジはいい結果だったのに浮かない顔をしてたな?」
「ああ……戦士のレベル5なら騎士団に入れるらしい」
「あんなに村を守るって言ってたじゃないの!」
うわ! ヒナと喧嘩中だな。
「騎士団を見に来るだけでもいいって言われただけだ」
「そういえば、カナデも裁縫師で似た様なことを言われたって」
ルナが寂しそうに呟いた。王都に行って戻ってこない若者は多い。
「でも未知のレアジョブじゃなくてよかったね」
「そうね。ウチに居るあの子みたいになるからね」
領主御一行の隊列で後ろにいた子は未知のレアジョブだったらしい。これから王都に連れて行かれるところで、平民だから領主の館に入れないので村長の家に居るらしい。
「ナック兄、帰って来てたのかー」
ビッケが来たので改めて今日の結果を教えてあげた。
「ふーん、じゃあさ 僕のジョブ鑑定してよ」
「んん? ビッケはまだ成人じゃないだろ?」
「貰った羊皮紙で試すなら誰でもいいと思うけど?」
「そうだな。ちょっと貰った本を読ませてくれ。みんな羊の処理をやってくれるか」
ビッケの言う通りだ。年齢何て関係ないし、いつやってもいいんだ。鑑定のやり方が書かれたページ読む、不思議とすぐにできるような気がしてきた。
「よし! ビッケやってみるから来てくれ」
テーブルの上に羊皮紙を置いて、ビッケに紙の上へ手を置くように言う、そして本に書いてある通りに鑑定魔法を使って見ると魔法陣が浮かび上がった。魔力を流し込み終えると鑑定が終了した。
ビッケ 漁師 レベル 3
羊皮紙にはそう記載された。鑑定成功だ。
「ふーん、漁師かー だよねー」
特に感動もないようだ。
「便利だな。これからいつでも鑑定してもらえるぞ」
「羊皮紙があればいつでもできるわね」
「他の錬金術も出来そうだ。もうちょっと貰った本を読んでみるよ」
ざっと読んだらかなりできる事がありそうだった。
「おーい! 羊の血は使えそうだ。取って置いてくれ!」
まだ解体作業は途中だったので間に合った。道具も結構いるな。ここでは錬金術をするには道具が足りなかった。貰った本はとても分かりやすく良い本みたいだ。まあ王子が作った本だから間違いないだろう。
「ウチでやれる事もあるけど難しいのもあるな。羊皮紙の事は明日、王子に聞いてみるよ」
みんなで食事をして、ちょっとお酒も飲んでみた。羊のステーキを分厚く切って美味しく食べた。領主になんてなってしまったが別にやる事はあまり変わらない。
夜が更けてみんなが帰った後、もう1冊、手に入れた本を読んでみた。
「ダンジョンか……これを作れれば凄いな」
結構面白くて一気に全部読んでしまった。そしてある事に気がついた。
「材料がそろっているかもしれない」
そして今度は錬金術の本を読んでいく。気になって止まらなくなっていた。これは実現できたら面白いな。いろんな想像が膨らんでいった。世界が大きく拡がっていくような感じがする。
本から新しい知識を得るとさらにスピードを上げて拡がって行くのが心地良い。
無限の可能性
錬金術の世界
今まで自分が生きてきた経験。全てが混ざり姿を変化させていく。
錬金術は知ることが大事だ
だから鑑定する
そう思った時にふと薬草畑が気になった。外は真っ暗だったが次第に目が慣れてきて、薬草達が見えてきた。だいぶ数が減ってしまったな。少しだけ悲しくなる。
月明かりに照らされた薬草を見ていく。
ああ、やはりこれも鑑定の一種だ
こうやって品質を見極めて毎日頑張っていたんだ。
そして良い材料から鍛えた技術で良い薬を作った。
錬金術とは何だ?
石を金に変える?
夜空の星を見上げた
豆粒よりも小さい星が輝いていた
朝から領主の館に行く。
今日はとても大事な日だ。明日には王子御一行はいない。
この村、アルカディアの船出の日
館の扉の前に立っている衛兵に取次ぎを頼む。豪華な鎧を纏った美少女騎士が現れ、昨日と同じ部屋に案内された。
すぐに王子と老人と美人騎士が来て挨拶を交わした。
「時間が惜しい。できるだけの事はしたと思うがあくまで私が考えたできるだけだ。君も少しは考えただろう? 聞かせてくれるか?」
「はい。まず、領主としてこの地を治めるために必要な知識がありません。ここで暮らす人達を守る力がありません。昨日の話ですとただジョブ鑑定をすればいいだけの様に聞こえましたが、少し違うと感じました」
この地を良い方向に導くのが領主本来の役割だろう。でも、自分には知識や経験が全く無い。単純な仕事をこなすだけでいいのか疑問を感じる。もっと大切な事があるんじゃないか?
王子は真剣に話を聞いてくれた。
そして深く考えてから話し始めた。
「君が無いと思い、感じた事に間違いはないよ。私もここでない他の地なら領主を任せたりしない。ただ、君はおそらく自力で錬金術師への道を切り開いた。そこに可能性を感じたんだ」
「アルカディアと自分は未鑑定ですね」
「……錬金術師らしい発想だな。では私も錬金術師らしい質問をしよう。石を金に変える方法を知りたいか?」
錬金術の究極だ
「錬金術で知りたいのは金色の羊皮紙の作り方です」
金色の羊皮紙があれば凄い鑑定が出来るはずだ。
「ほお? そんな事でいいのか? 他にもあるぞ。永遠の命を与えてくれる石とかな」
「永遠の命……ですか……」
「錬金術は面白いぞ。面白いが闇はどこまでも深い……」
しばらく沈黙が続いた。
2人の錬金術師が共に考える。
「金色の羊皮紙は君に想像できないくらい高額だ。作り方は簡単だ。金色羊の皮で羊皮紙を普通に作ればいい」
「金色羊はどこにいるのですか?」
「そこが大変なんだ。金色の羊はどこでもいる。この地にも現れるかも知れないって事だ。探す者も多いぞ。見つけて倒し皮を得れば大金持ちだ」
「最近、羊をあまり見なくなったのはひょっとして」
「ここでもそうなのか……魔物は狩ればまた湧く。金色を湧かすには白をどんどん倒さねばならない。羊ハンターがこんな所まで来ているとは……」
「その羊ハンターが来ているのかはわかりません。村人にとって大事な食材、素材ですから当然、見つければ狩ります」
「いや来ているな。ヤツらは結構荒い連中だぞ。いろいろ問題を起こしている……村長にも話しておくが君が村を守らねばならない」
「危険があるのを分かっていれば対処もできるでしょう」
「そうだな。警戒してくれ……ミルズ、村長に話を」
ローブの老人が足早に部屋を出て行った。
「いい話ができた。昨日、約束した支援はこの館に準備したよ。領主の館だ。君が自由に使え。いろんな錬金道具も用意してあるからここで羊皮紙が作れる。金色羊の皮を得たらここで羊皮紙にすれば金色の羊皮紙が手に入る」
ここの道具があれば自分で羊皮紙が作れるのか……
「この館を……」
「まあ、好きに使ってくれ。後は領主会議だな。私が王都に戻った後に開かれるので、10日後にここを出発してくれ。門番に招待状を渡せば案内してくれる。後は全部任せてくれればいい。来てさえくれれば全部こちらでやる。護衛として昨日の戦士を連れてくるように、えっと、ザッジだったかな」
そう言って封書をくれた。
10日後に王都に向け出発か。面倒だが仕方ないな。
王都に行くのは初めてだ
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