ど田舎村のアルカディア  〜スローライフで最強国家作っちゃいました〜

ふぐ実

明星の章

第1話 薬草畑の夜

 満月の夜、月明かりに照らされて薬草達は輝きを放っていた。


 満天の星の中から神話の星を見つける様に品質の良い薬草を選んで摘んでいく。


 静謐な青白色の長い髪をもつエルフ族の女性が真剣な眼差しでその作業を見守る。


「やっぱり私には輝いてなんて見えないし、良い草がわからないわ」


「そうなのか……今日は調子がいいよ。いつもより更に良い物が見分けられる気がする」


 君が居るお陰でとか言ってみたいけど……


 ちょっと照れくさいしできない。


 しばらく黙々と収穫作業を行った。


 薬草畑の隣りにある家に摘み取った薬草を持って2人で入る。

 部屋の一画にある創薬のテーブルで作業を始める。

 摘み取った薬草を白い石の板に置いて刃物で丁寧にこまかく刻み、同じく白い石でできた鉢と棒を使ってすり潰す。

 そこに乾燥させた数種類の薬草で作った粉を継ぎ足しさらに混ぜた。

 薬草畑と創薬の技術は祖父から引き継いだものだ。


「今日の軟膏はとても良い品質だよ。いい物と交換できそうだ」


「好みの本があるといいね」


 辺境の地で本を手に入れるのは大変だ。

 大きな本棚を作ってはみたけど未だに5冊しか収められていない。この本棚を本で埋める事ができたら素敵だろうな。

 5冊の本の内、1冊は唯一の家族であった祖父が残してくれた創薬の本だ。その他の4冊は村に稀にくる商人から手に入れた神話の本で、自分が作った薬と交換で手に入れた。


「明日はなるべく早く下に降りてくるのよ?」


「わかってるよ、ルナ。新しい領主様が来るんだろ。商人も沢山来るって聞いたし必ず行くよ」


「もう! 5年に1度のジョブ鑑定があるのよ。呑気に構えているのはナックだけよ。みんな必死なんだから!」


 心配そうにルナは言うけど正直なところあまり興味がない。

 そもそも強い魔物が村の周りにいないので、必死になって強くなる必要がないのである。いるのはスライムや羊の魔物くらいでどちらも弱いし、最近はその数をどんどん減らしていた。

 

 友人のザッジは戦士になりたいと言って訓練に明け暮れている。

 ルナは双子の姉のヒナと一緒に狩人になる為に弓の稽古をしていた。

 戦闘職と鑑定されるとスキルが得られて、ちょっとだけ狩りが楽になるらしい。

 村で門番をしているザッジは木こりと鑑定されるのが嫌らしい。確かに兵士が木こりのジョブなのは嫌かもしれないけど、村人は木こりか農民のどちらかと鑑定されるのがほとんどだ。

 戦闘系のジョブと鑑定される人はほとんどいなかった。村の女性は弓で狩りをする事が多いので狩人になった者が多少はいる。

 ヒナはとても活発な女性で狩りが大好きだから、今回の鑑定で狩人になれるのは確実だろう。

 一方、ルナは大人しい性格でヒナ程は狩りをしていなかった。今日もザッジとヒナは狩りをしに行っているのにウチに遊びに来ている。

 成人前後の若者は1度だけ無料でジョブ鑑定してもらえるので、なりたいジョブがある者達は必死に訓練している。



「ジョブとしてあるのか、わからないけど薬師とか漁師かな……」


「狩りもちょっとはできるし狩人かもね。無職だけはやめてよね……たまにいるらしいよ」


 たまにいるのか!


 それは知らなかった。ジョブ鑑定は明後日の朝からだぞ…今更ジタバタしても遅すぎる……諦めだな。


「まあ無職でもいいよ。ちゃんと薬を作って生活しているし、魚を釣るのも得意だよ」


「今回の鑑定結果がずっと残るんだよ。再鑑定なんて村の人にはできないんだからね」


 初回の鑑定は国民として登録する為に無料でやってくれるけど、2回目からは有料になる。

 村人は自給自足しているし、欲しい物は物々交換で手に入れる。お金を持っていても役に立たないから誰も持っていない。持っているのはルナとヒナの母親である村長くらいかもしれない。


「とにかく明日の夕刻には領主様御一行が来るから。夜には歓迎のお祭りがあるからね。朝、早めに大きな魚を持ってきて欲しいのよ、みんなで狩りをするようにお母様から言われているの」

 

「はーい。村長様のご指示に従いまーす」


「もう! 絶対だからね!」


 頬を少し膨らませて怒っているけど可愛いだけで全然怖くない。ジッと眺めているとルナは顔を赤くして照れた様に横を向いた。

 しばらく話をした後、ルナは家へと帰って行った。松明を片手に集落へと続く小道を降りていくルナを見送ってから、ベッドに横になって神話の本を読み始めた。

 明日は本が手に入るといいけど……ぼんやり考えていたらいつの間にか寝ていた。


 翌朝、籠を背負って家を出て薬草畑でミミズを沢山捕まえて袋に入れてから、畑の横を流れる小川に沿って山を降って行った。

 10分程歩くと森の中にビッケという少年が1人で住んでいる小屋がある。たぶんビッケは海で漁をしているので探さずに、小屋の軒下に置かせて貰っている釣り竿を持って海へと向かった。


「ナック兄! おはよー」


 ビッケはやっぱり海にいて素潜りで漁をしていた。


「おはよう! ビッケ、今日はどの辺が釣れそうかな? 大きな魚を頼まれているんだ」


 ビッケは海の事を知り尽くしているので、いつも釣れそうなポイントを教えて貰ってから釣り場に行く事にしていた。


「今日は海がキレイだし、波もほとんど無いからいつもの磯がいいよー」


 御礼を言って磯へ向かうと海は透き通っていて、魚が泳いでいるのが目視できた。釣り針に大きなミミズをつけて、大きそうな魚の目の前に釣り針を落としたのだが、小さな魚が猛スピードで横からパクッと喰いついて針に掛かってしまった。


「うわ! しまったな……」


 魚を釣り上げると中型の鯛だった。ちょっと小さいかなとも思ったけど、ナイフで魚を締めて背負っていた籠に入れて村へ向かう事にした。


 村に着くとすでに村人達が祭りの準備をしていた。待ち合わせ場所の中央広場に行くと、レンガ作りで2階建ての領主の館に見知らぬ人が出入りしている様子が見えた。


「あれ? おかしいな……」


 しばらく眺めているとルナが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「もう! 遅いよ!」


「館が開いているんだけど領主御一行はもう来たの?」


「あの人達は先遣隊なんですって。昨日、ナックの家から帰った時にちょうど来たのよ!」


「ふーん、まあいいや……はい! これ頼まれてたやつ」



 背負っていた籠ごと魚を渡すとルナが魚を見てジッとこちらを睨んできた。



「なんかこの鯛、小さいような……大きな魚って言ったよね?」


「頑張ったんだけどね。急いでいたしコレでいいかなって」


「遅くなってもいいから大きいのがよかったよ〜」


「いや〜 早く来るようにって言ってたよね?」



 また喧嘩になりそうなので慌てて違う話題を振ろうとした時、背後から不意に声を掛けられた。



「おい! ご両人、朝から痴話喧嘩してるって村中で噂になっているぞ!」


 驚いて後ろへ振り向くとザッジとヒナがニヤニヤしてこちらを見ている。


「普段はおとなしい我が妹もナックの事になると熱くなっちゃうんだよね〜 熱い熱い」


 ヒナがケラケラ笑いながら茶化してくる。

 ルナは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。耳まで赤い。


「ルナが慌ててるのも無理ないわ。王子様が来るんだから!」


「しかも皇位継承権第1位! 第1王子様だぞ」


 さすがにそれには驚いた。


 つまりそれって……



 「次の王様が来るってことか!」


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 ☆ 少し先まで読むとサクサク読んでいけると思います。重過ぎず、軽過ぎず、バランスを考えてリズム感を大事にして書いてみました。大河ドラマの様なファンタジー作品になっています。

    

                

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