第12話 開発へ


 車で京都までの移動が続くので、私はスマホを眺めていた。

 ネット上のSNSでは、リナ・マルデリタが日本に来た目的についての予想が話題の中心だった。


xxxxx@xxxxx

「アメリカの次に日本に来るって、よっぽどだよな」

xxxxx@xxxxx

「何しに来たんだろう」

xxxxx@xxxxx

「スシ、テンプラ?」

xxxxx@xxxxx

「宇宙人が料理目的はないでしょ」

xxxxx@xxxxx

「でもさ、ホワイトハウスで世界中の料理並べたら、わき目もふらず寿司食ってたって話あるんだよな」

xxxxx@xxxxx

「かわいいw」

xxxxx@xxxxx

「適当に作ったウソじゃないのそれ」

xxxxx@xxxxx

「やっぱあれでしょ。ジャパニーズアニメ」

xxxxx@xxxxx

「アニメ見るために日本に来たの?」

xxxxx@xxxxx

「じゃあ、カタナだな。サムライ忍者、ゲイシャガールズ」


 もはや意味不明な予想が飛び交う中、一人すごいのがいた。


『なろう好き』という名前の人だ。

「実はリナ・マルデリタは元日本人の異世界転生者で、来日目的は前世の故郷見たかった説」


 うん。正解すぎて引くわ。ネット怖い。

 どうも日本の小説界隈では、そういう設定が流行っているらしい。


 元日本人である事は、世間に知られるとまずい。

 日本に全力で贔屓する宇宙人だと思われてしまうからだ。

 それを理由に他国から日本への風当たりが強くなったりしたら、目も当てられない。

 これは国際情勢に影響する問題……だと思う。

 伏せておくのが無難だろう。

 日本語が流暢に使えるのは、日本企業との交渉のために努力して覚えたという事にする。

 英語は実際、必死で話せるようになるまで覚えたからね。


 ていうか、この状況で奈良行けるのか。

 勝手に行動したらやばい感じだよね。

 マルデア向けのゲーム機開発になるから、長期滞在する予定ではある。

 いずれ何とかして行きたいが、そればっかり考えても仕方がない。


「さて、幕の内幕の内」


 私は空港でもらった豪華なお弁当を開け、なつかしの味に表情を緩ませるのだった。


「もぐもぐ、うまぁ~」





 さて、京都某所。

 私たちがやってきたのは、Nikkendoのロゴがついたビルだ。

 入口にはスーツ姿の社員たちが待っていて、英語で私たちを歓迎してくれた。


「Welcome to Japan! ミス・マルデリタ」


 ようこそ日本へ、と言ってくれている。


「ありがとうございます。日本語でいいですよ」


 日本語でそう言ってみせると、社員さんたちは驚きながら笑っていた。

 陽気な人たちのようだ。


 案内されて社内に入ると、一階のロビーは奇麗だった。

 四階までエレベーターを上がり、会議室へと向かう。

 そこでは、重役級に見える人たちがスーツ姿で待っていた。

 通訳も用意していたのか、やはり女性が私に向けて英語でしゃべりだす。


「あはは、日本語でオッケーです」


 私が直接偉いさんたちに言うと、彼らも笑顔になった。


「リナさん、日本語お上手なんですね」


 比較的カジュアルな雰囲気の人が話しかけてくる。


「はい。英語もですけど、訪問する国の言語はしっかり頭に入れるようにしています」

「それはすごい。僕なんて未だに英語がうまくしゃべれないからね」


 おどけて見せる男性は、いい人柄のようだ。

 少し談笑した後で、私は本題に入る事にした。


「あの、皆さんのゲーム、沢山遊ばせて頂きました。とても面白かったです。

これなら、きっとマルデアでも喜ばれると思いました。

私の話は皆さんに通っているでしょうか」

「ええ、我々の製品を選んで頂けて嬉しいですよ。

マルデアという星で私たちのゲームを販売するためには、大変な事もあると思いますが。

政府からも要請がありましたので、我々も出来る限り協力したいと思っています」

「そうですか。それはよかった」

「ただ、魔力という技術は我々にとってもまだ触れた事のないものです。

マルデア向けにどうやってハードウェアを変えるのか、ソフトをいじる必要があるのか。

これによっては開発の手間も大きく変わります。まずはそのあたりを伺いたい」

「ええ。私も、ゲーム機とソフトの仕様から知っていく必要があると思います」


 そうして、互いに一つずつ話し合いながら、マルデア向けのゲーム機開発が始まった。

 とはいっても、お偉いさん方とではない。

 実際にハード設計をするチームを紹介され、そこで開発がスタートした。

 大手家電メーカーの技術者も来ていて、ハード設計に関わっているらしい。

 しかし、彼らは魔力というワードに動揺していた。


「電気ではなく、魔力をエネルギーとする家庭環境に合わせるのか……。それは大変だな」


 一人の男性が頭に手を当てると、傍にいた女性も唸るように悩みだす。


「スウィッツはハードもソフトも全て電気を使う事を前提としていますから。

ちょっとこれは途方もないですよ」


 設計者たちは最初からかなり疲れたような顔で話し合っていた。

 確かにゲーム機の中身を丸ごといじったら、それこそ何年もかかってしまうだろう。

 私は少し考え、魔術師としての視点からアイデアを出す事にした。


「ではゲーム機自体はそのままいじらないようにして。

電源の入力部分で魔力を電気に変換する魔術機器を作ってみたらどうでしょう」

「魔術機器、ですか?」

「はい。マルデアの家庭にある魔力源にスウィッツを接続した時に、変換機がそれを電気に変えるように作ればいいのです。

これならゲーム機に入って行くエネルギーが電気になり、いつも通りに動く事になります」


 私の提案に、設計者たちは安心したようだ。


「それはありがたい。それができるなら、何とかなりそうです」

「ええ。そうなると変換機の製作と、言語や細かい点をマルデア向けにローカライズするのが中心になるでしょうね」


 話し合いは和やかに進むかと思われた。

 だが、壮年の女性設計者は少し困ったような顔をしていた。


「でもリナさん。マルデア側はあなた一人なんでしょう。

変換機と言うけど、我々には魔力についての知識が一切ないわ。

電源の規格なんかは教える事ができるけど。

あなた一人で魔力から電気に変換する仕組みを作れるの?」

「心配いりません。私はこれでもマルデアの魔術師として、地球との交渉を任された身ですから。

できない事はないと思います」


 15歳で名門魔術学院を卒業し、魔法省に入った実績は伊達ではない。

 今世の脳みそは、前世の百倍は早く回るのである。


「それは、すごいけど。変換器には魔法技術が含まれてるんでしょう?

そんなもの、地球では量産できないかもしれないわ」


 女性設計者は、疑問点を真っ向からぶつけてくる。


「そうですね。変換機の魔術部品にあたる部分は、マルデアで生産したいと思います。

小さな部品程度なら、個人でも魔術企業に依頼すれば生産してもらえます。

コストも安いと思いますし、その辺は心配しないでください」

「そ、そう。それなら、いけるかもしれないわね」


 一つ一つ説明していくと、設計者は戸惑いながらも何とか納得してくれた。


 魔力から日本規格の電気に変換する仕組みは、私が全て用意しなければならない。

 日本側には、ソフトのマルデア向けのローカライズ作業をお願いする事になった。

 重要なのは、何のタイトルをやるかだ。


「やはり、最初のタイトルはハイパーマルオが望ましいでしょうか」

「ええ。文化的な壁もないでしょうし、わかりやすい遊びなので良いと思います」


 ハイパーマルオは文字通り、まるーい顔のおじさんとして誰もが知るゲームキャラクターだ。

 1985年。

 丸顔のオヤジが飛んで跳ねて駆け回るゲームが、世界にセンセーションを巻き起こした。

 文字にしてみると、少し面白い話だ。

 だが、その魅力は折り紙つき。

 操作のフィーリングの良さに、愛らしさたっぷりの世界。

 そして、しっかりと作り込まれたアクション。

 マルデアでも人々を魅了するに違いない。

 言葉をほとんど使わないゲームなので、翻訳の手間があまりないのも良い。

 色んな意味で、最初にふさわしいタイトルだと言えた。



 私たちは一つ一つソフトについて話し合い、最初の発売タイトルを決めた。

 ゲーム機と共に出す、ローンチタイトルと呼ばれるものだ。

 一つ目は、ハイパーマルオの2Dアクションゲーム。

 もう一つは、マルオカーツというレースゲームだ。

 タイヤのついた車はマルデアから見ると前時代的だが、玩具としてはアリだ。

 何よりみんなで遊べる超定番ゲームという事で、異論なく決定した。

 いずれ他社のゲームなども踏み出して行きたいところだが、まずは第一歩だ。

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