第11話 リナ・マルデリタ来日


 ホテルでの待機が続き、外出もできないので私は退屈していた。

 ベッドに寝ころびながら、何となくアメリカのテレビをつける。

 と、報道番組で私の話題が流れていた。


 女性の司会者が、紙に目を落としながらニュースを読み上げる。


『宇宙の大使であるリナ・マルデリタさんが、アメリカに二度目の来訪を果たしたそうです。

政府が今日の会見で明らかにしました。

彼女は魔石に加えて、魔法の縮小ボックスをプレゼントしてくれました。

これは、百倍以上の容量を収納する事が可能な箱だそうです』


 司会者の説明に、隣にいたスーツ姿の男性が手を組む。


『実に驚くべき技術ですな。私も驚きました。これが普及すれば、世界の流通事情が変わるかもしれません』

『ええ。現状はお土産程度の量だという話ですが、是非魔法の品に触れてみたいものですね』

『そうですな。魔法は夢のある商品です。だが、政府は現実を見なければならない。

大量の輸入のためには、やはり本格的な貿易を推し進める必要があるでしょう』

『他の星と貿易を始めるには何が必要なのでしょう?』


 司会者の質問に、男性は大きく手を広げた。


『当然、売るための品物です。

マルデアは素晴らしい魔術品を見せてくれました。

次は、地球側がマルデア星の欲しがるものを提示せねばなりません。

あちらの星が何を求めるのか。

資源か、科学技術か、学問か、それとも芸術作品なのか。

そういった事を見定める必要があります』


 何やら、経済の専門家が真剣に語っているようだ。

 まあ、私が欲しいのゲームなんだけどね。




 数日の間、私はメディアを眺めながらゲーム漬けの日々を送っていた。

 そんなある日。

 私の部屋に二人の男女がやってきた。


「FBIのジャック・ルイスだ」

「同じく、マリア・フォスターよ。あなたがマルデア大使のリナ・マルデリタでいいのかしら?」


 ドアの前に立っていたのは、さわやかな金髪のイケメン。

 そして黒髪の美女だった。私服警官かな。


「はい。そうですけど」


 頷いて見せると、二人はズカズカと中に踏み込んでくる。


「私たちはこれからしばらくあなたの護衛になるから、よろしくね。

さて、まずは報告よ。Nikkendoがあなたの取引を受け入れたわ」

「ほんとですか?」


 私が目を輝かせると、ジャックが親指を立てながら頷く。


「ああ。なにせ魔石貿易のためだからな。

アメリカや日本政府からメーカーに支援金補助が出た。おかげですぐに話は決まったそうだ」

「それはよかったです。ありがとうございます」

「いや、俺たちは何もしていないさ。さて、これからチャーター機で日本に向かう。準備は良いか?」

「えっ」


 どうやら、待ち時間はないらしい。

 私はデバイスと着替え、スウィッツをバッグに詰め込み、荷物をまとめる。

 それから、彼らに案内されて車に乗って移動を始めた。


「これが君のパスポートだ。確認しておくといい」


 車内でジャックに手渡されたパスポートには、いつ撮影したのか私の顔写真が載っている。

 日本とアメリカにおいて永久に滞在可能と書かれていた。なんか特別製らしい。


「永久……」


 これはもう、住めみたいな感じなのだろうか。

 既に二つの国籍を取ったようなものだ。いつでも日本へ行けるようになったのはでかい。


 車での移動を終えると、今度は飛行機だ。


 ガチの貸し切りジェットに乗って、私はすぐにアメリカを飛び立ったのである。

 さらばUSA。また逢う日まで。


 私は外をちょっとだけ眺めてから、スウィッツの携帯モードで新作のシミュレーションRPGを始めた。

 これ、スーファムでもあったよなあ。紋章の秘密っていうの。

 味方が一回死んだらもう二度と生き返らない鬼畜仕様の戦略ゲームだった。

 なんか最新作はだいぶ優しくなっていた。

 それに、恋愛シミュみたいなパートがあるようだ。

 カップリングが凄い……。



 さて、アメリカから日本へは12時間ほどの時間を要するらしい。

 私はゲームをやりこんだ後、すぐに眠りについてしまった。



 起きた時には、もうすでに日本の上空にいた。


「リナ、すぐに関西国際空港に降りる。出る準備をしてくれ」


 ジャックの指示で、私は上のラックから荷物を降ろす。

 窓の外を眺めていると、すぐに飛行場が見え、ジェットはゆっくりと着陸した。

 私が荷物を手に外に出ると、何台ものカメラがこちらを捉えていた。


「えー、たった今、宇宙人リナ・マルデリタさんが日本に降り立ちました。我々にとって歴史的瞬間です!」


 遠くから、リポーターの声が響いてくる。


 見れば、降りた先にはスーツ姿のお偉方が立っているではないか。


「マルデリタさん。彼が日本の総理大臣です」


 日本人の通訳らしき女性が説明してくれる。

 どうやら、私の日本上陸に合わせて総理が会いに来てくれたようだ。

 まあ、世間へのアピールの面もあるんだろう。


「はじめまして。ようこそマルデリタさん」


 今の総理大臣らしい小柄なおじさんが、私に英語で話しかけてくる。


 そんな彼に、私は握手しながらあえて日本語で言った。


「初めまして。リナ・マルデリタです」

「おお、日本語がお上手だ」

「素晴らしい発音ですな」


 日本のお偉方は、私のジャパニーズにゴキゲンなようだ。

 そんな会話に、遠くのテレビリポーターたちも盛り上がっている。


「みなさん、お聞きになられましたでしょうか! リナさんが日本語で挨拶をされました」

「かなり流暢な日本語ですね。よほど勤勉に地球の言語を勉強されているのではないでしょうか」


 すごい驚かれてるみたいだ。

 確かに、宇宙人がナチュラルに日本語話したら笑っちゃうよね。

 ただ、政府との会談にスケジュールを取っているわけではない。

 ジャックも時計を気にしているようだ。

 私は早めに話を切り上げ、総理たちと別れた。


 空港利用者以外の一般人は立ち入れないようになっていたらしく、混雑するような事はなかった。

 自衛隊が来ていたのか、緊張感も漂っていた。

 車で移動しながら、私はデバイスで日本のテレビ番組を受信する。


 ワイドショーでは、先ほどの来日映像が流れていた。


「見ましたか? リナ・マルデリタさん。とても可愛らしくて、まるでファンタジー世界のエルフみたいでしたね」


 司会がそう言って話を振ると、女性のコメンテーターに画面が切り替わる。


「来日の目的は明らかにされていないんですよね?」

「はい。アメリカと日本の政府は知っているでしょうが、行先がわかったら現状パニックになるという事で伏せられているようです」


 モニターを指しながら説明する司会に、芸人っぽい男性が大きな声で話し出す。


「それにしても、日本語すごい上手でしたよね。めっちゃ勉強してくれたんやろうなあ」

「日本に対して好意的に思ってくれていると考えたい所ですね」

「ていうか、宇宙人なのに英語も日本語も使えるんですよね。すごくないですか?」

「アメリカ大統領の発表会見からまだ二週間程度ですから。

短期間で日本に来た事を考えると、地球人よりすごく学習能力が高いのかもしれませんね。

と、いったんCMです」


 画面が切り替わり、コマーシャルになる。

 なんか、凄い私の話ばっかりしているようだ。

 どうやら私の行動目的については伏せられているが、来日の瞬間だけ全国に流したらしい。

 

 それにしても、この日本語がバンバン響いてくる感じ。

 懐かしくて泣けてくるね。


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