第10話 外交官とトーク


「私一人でも魔石が大量にあれば、台風などを未然に防ぐ事が可能でしょう」

「なんと……君一人でか」


 私の言葉に、外交官のスカール氏は息を呑む。


「はい。ただ、大きな願いを叶えるためには膨大な数の魔石が必要となります。

私一人でそれを調達して地球に持ってくるのが大変かもしれませんが……」

「ふむ。やはり簡単ではないか。

しかしそれが本当に地球で実現できるなら、我々の未来は明るくなるだろうな」


 スカール氏と高官たちはみな頷き合っていた。

 『災害が排除できる道具』というプレゼンは、かなり効果的だったようだ。


「時間をかけて、なんとか地球でも実現したいと思っています。

あと、これから貿易を始めていく上で一つお願いがあるんですが……」

「なんだね」


 外交官が首をかしげる。

 前提として、これだけは言っておかなきゃいけない。


「縮小ボックスはともかく、魔石は地球全体のために使ってほしいんです。

ですから、国連などの国際組織で保有するとか、そのあたりを他の国とも話し合ってもらいたいんです」

「……ふむ。確かに魔石をアメリカで独占すれば、世界から総叩きに遭うだろうな。

わかった。魔石については他国と話し合う方向で考えよう」

「ありがとうございます」


 とりあえず、最初の前提条件は受け入れてくれたようだ。

 私がほっとしていると、スカール氏は厳しい顔をしながら話の本題に入った。


「それで、災害排除には具体的にどれくらいの石が必要なのかね」

「災害と呼ばれる規模を対処するには、最低でも一万個。

台風なら数万。大災害なら百万個あっても足りないでしょう。

それだけの量を調達するために解決しなければならない問題は、山ほどあります」

「そうか……。遠い星から運んでくるのなら、輸送一つとっても大変だろうな。

一度に地球に持ち込める魔石の量は、このくらいが限界なのかね?」


 私の荷物を見て、スカール氏はそう問いかけてきた。

 彼は既に、地球から災害を排除する事を考えているのだろう。


「量はもっと行けると思います。専用の輸送機があれば、今の百倍、千倍以上は持ち込めるでしょう。

ですが、問題はお金です。あちらで魔石を仕入れるには、マルデアのお金が必要になります。私にはそこまでの資金はありません」


 私が手を広げて見せると、スカール氏は腕組みをした。


「こちらが宝石や石油などの資源で支払う事はできないのかね」

「難しいでしょう。マルデアが貴金属や資源を欲しがるとは思いません。

どんな美しい宝石も、魔術で生成できてしまうからです。

魔力が最高にして万能の資源であるため、石油も必要ありません。

技術力も同じく、必要としないでしょう」

「むう……。厳しい話だな」


 スカール氏は唸りながら眉を寄せる。

 さあ、ここからが私のご提案だ。


「ですが、娯楽品は別です。

マルデアは優れた技術と芸術を持っていますが、大衆向けの娯楽には弱いのです」

「娯楽か……。具体的には?」

「この前頂いたビデオゲームはとても素晴らしかったです。

あれは、マルデアにはない娯楽です。

地球のゲームをマルデアに売り、あちらの資金を稼ぐ事を考えています」


 私が手を広げて見せると、外交官は少し考えるそぶりを見せた。


「ふむ。他に音楽や映画などはどうかね」

「それらは、マルデアでもそれなりに市場があります。

やってみてもいいですが。地球のものを流通させようとしたら、大手に邪魔されるような気がします。

私一人では、できる事に限りがあります。

ゲームは既存の市場がありませんので、邪魔してくる人たちもいないでしょう。

利益も高く、魔石を買う資金を作るには良い商材かと思います」


 魔石とゲームというと、いびつな取引に思えるかもしれない。

 だが、ゲームは地球ではハリウッド映画を超える巨大産業だ。

 そして、マルデアにおいて魔石の価値はそれほど高くない。

 災害も、魔石なしで排除する方法が確立されているからだ。

 マルデアの大地には魔力が溢れているため、魔石は捨てるほど産出される。

 仕入れに関しても問題はないだろう。


 そのあたりを説明すると、スカール氏は納得してくれたらしい。

 ゲームで取引するという前提で話を進めてくれる事になった。


「……、そうか。ならば、まずはゲームメーカーに手配しよう」

「はい。ただその……。それを実現する上で、幾つか問題があります」

「それは何だね」

「まず内容です。マルデアは地球文明に好意がないので、最初は現実から離れた世界観のゲームから展開していくのが望ましいと思います」

「ふむ。そちらの星の趣向については君に任せる。

商品の調達は、我々がゲームメーカーに連絡しよう」

「いえ、それではダメなんです。私が直接メーカーに出向いて話し合わなければいけません」

「君が? どうしてかね」

「マルデアで売るには、ゲーム機自体をマルデア向けにいじる必要があります。

地球では電力をエネルギーとするのが一般的なようですが、あちらは魔力ですから。

更に、言語のローカライズも必要です。

それらの問題を解決するためには、マルデア人であり魔術師の私が行く必要があります。

ゲーム機やソフトの開発者たちと直接話し合い、開発に参加しなければなりません」

「ふむ。ならば、そうだな。ミクロソフツに連絡して……」


 スカール氏は当然とばかりに米企業の名を出す。まあアメリカ政府だからね。

 だが、ここは私のプランを押さなければならない所だ。

 私はなんとかして日本に行きたいのである。

 日本で商売ができる相手となると、対象は限られてくる。

 私は彼の言葉を遮るようにして口を開く。


「いえ、マルデアはまだゲームというものが何かを知りません。

最初に持って行くのは、長い歴史を持ち、わかりやすいソフトが多いスウィッツがいいと思うのです」

「スウィッツ……、Nikkendoか。日本企業だな……」


 スカール氏は少し渋い顔をした。

 でもここは私にとって日本と繋がるためのチャンスだ。

 日本企業に行けばパスポートとビザを合法的に獲得でき、ゴールが自動的に近づく。

 商売をしながら、しれっと実家に行く作戦だ。


 それにやっぱり、前世の世代的にレトロゲーム寄りの会社から行きたい気持ちもある。

 将来的に色んな会社とやり取りをするとしても、最初は一つしか選べない。

 ここは押すしかないのだ。


「お願いします。マルデアで魔石を大量に購入する資金のためです」


 私が頭を下げると、スカール氏は少したじろいだように見えた。


「わ、わかった。こちらから日本に君のことを連絡して、協力を要請してみよう」

「ありがとうございます」


 そうして、日本への扉は開かれたのだった。




 それから私は、ワシントンD.Cにあるホテルのスイートルームを借りて連絡を待つ事になった。

 わたし今、超セレブである。

 料理も豪華だし、ベッドもフカフカだ。

 

 ホテルでは、商売の研究として最新ゲームを遊びまくった。

 これからやり取りする企業の商品を知らないというのは失礼に当たるしね。

 スプルトーン、めっちゃおもろい。


 いや、ゲームばかりやってたわけじゃないよ。

 他にも、スマートフォンと呼ばれる地球のデバイスを購入して、ネットを調査してたからね。

 これは、マルデアで誰もが持つ汎用デバイスに近いものだ。


 ネットでは、引き続き宇宙人に対する考察で盛り上がっていた。

 つまり、私の事だ。

 宇宙人の存在を疑っている人もまだいたが、多くの人は信じる前提で話し合っていた。

 魔法がどういうものだとか、アメリカが魔法技術を独占しようとしているとか。

 そんな感じの話だ。

 私の写真がSNSに出回りまくって、玩具にされているのもわかった。


xxxxx@xxxxx

「宇宙人ちゃん可愛い!」

xxxxx@xxxxx

「So Cute!」


 と書いてあるので、まあ、うん。そう悪い気分ではなかった。

 女に生まれてから、可愛いと言われるのは純粋に嬉しい。

 ただ、男の人が好きになれるかどうかはよくわからない。

 なにせ、前世が男だからね。

 その辺は現状、あまり考えないようにしている。


 スマホのカレンダーを見ると、2021年という文字が見えた。

 私が死んでから25年以上経っていたのだ。

 奈良の両親は今、65歳前後という事になる。

 これくらいの年であれば無事に生きている可能性は高い。

 なら、いずれは会えるはずだ。


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