第8話 次いってみよう


 スピーチが終わった後。

 私はカメラの前で大統領と握手し、星同士の友好をアピールした。

 私は個人で来ているんだけど、やはりマルデアの代表扱いだ。


 最後に、私のスピーチの時間が用意された。

 はじめての宇宙人として、地球人全体に声をかけてほしいという事だった。

 私は緊張しながら、なんとかカメラを見据えた。


「地球人のみなさん。私はマルデアという星で生まれた、マルデア人です。

あなた方から見れば宇宙人になると思います。

これから私は大使として、この星に何度もお邪魔させてもらう事になります。

マルデアと地球の交流は、二つの星により良い未来をもたらすと信じています。

私も、微力ながら尽力させて頂きたいと思います」


 言い終えた私は、小さく礼をした。

 そしてそのまま舞台の袖に走り、衆目から逃げ出したのだった。


 私はこの地球という星と、たった一人で交流していく事になる。

 地球は豊かな文化を持ってるけど、争いやら汚染やら問題のある星だ。

 マルデアは文明は凄いけど排他的で、娯楽に興味がなく少し退屈だ。 

 二つの星を、もっと好きになれる星にしたいとは思ってる。

 まあ、一人でどれだけできるかはわからないけどね。

 せっかくこんな奇妙な仕事をもらったんだ。

 リナ・マルデリタとしての人生を、前向きに生きていきたいと思う。

 あとまあ、日本にも行きたいよね。




 会見後。

 私はベッドルームに戻り、パソコンを立ち上げてインターネットを確認した。

 ネットでは、会見の話題でもちきりだった。


xxxxx@xxxxx

『あれが宇宙人なのか?』

xxxxx@xxxxx

『すっごい可愛かった!』

xxxxx@xxxxx

『緊張しながら頑張って挨拶してたよね』

xxxxx@xxxxx

『ほとんど人間だったな。エルフみたいだ』

xxxxx@xxxxx

『中学生みたいな子と大統領が握手してるの笑う』

xxxxx@xxxxx

『大体あの子どこから来たんだ。アメリカ政府が宇宙人を捏造したんじゃないのか?』

xxxxx@xxxxx

『いや。映像解析が進んでいるが、あの魔法はCG映画やマジックショーのような作り物ではないらしい』

xxxxx@xxxxx

『じゃあ、ほんとの宇宙人で、ほんとの魔法なの?』

xxxxx@xxxxx

『大統領はそう言ってる。これが嘘だったら大暴動だね』

xxxxx@xxxxx

『まあ、信じるべきなんだろうな』

xxxxx@xxxxx

『正直、どう受け止めて良いのかわからない。これによって何が起こるんだ?』

xxxxx@xxxxx

『魔法が地球に普及するかもしれない』

xxxxx@xxxxx

『私でも使えるようになるの?』

xxxxx@xxxxx

『魔石があればね』

xxxxx@xxxxx

『ウィンガーディアム・レヒオーサ!』

xxxxx@xxxxx

『ハリ・ホッタの世界だ!』

xxxxx@xxxxx

『ようこそ地球へ、リナ・マルデリタ!』


 疑っている人も多かったが、徐々に歓迎ムードの人が増えてきていた。

 私はどうやら、一気に地球規模の有名人になってしまったらしい。


 まあいいや、今回の地球訪問の目的は果たした。

 魔石を渡してゲームのサンプルをもらってみんなに挨拶した。

 それで十分だと思う。

 まだ日本に行けるようなムードじゃないし、これで帰る事にしよう。



 少し休憩した後、私は政府の人たちと挨拶をした。

 アメリカ側から各所への挨拶や見回りを提案されたが、さすがにしんどい。

 というか、まずは帰ってゲームしたい。


 私はビデオゲームとモニター、そして電源供給のセットをもらった。

 圧縮バッグに詰めれば、軽々と持ち運ぶ事ができる。


「それでは、今回はこれで失礼します」


 腕についたデバイスに触れると、ワープが起動する。

 私は光に包まれ、地球から消えた。





 次の瞬間、私は魔術研究所のワープルームにいた。

 どうやら、ちゃんとマルデア星に戻ってきたようだ。


 見上げれば、天井から白い霧のようなものが噴き出していた。

 浄化魔法が私についた菌を落としているんだろう。


 白衣の女性は、研究室でずっと仕事をしていたようだ。

 私に気づくと、彼女は立ち上がって近づいて来た。


「やあ、帰って来たのかね。どうだったね地球は」

「ええ。大変でしたけど、とても面白い星でした」


 笑顔で答えると、彼女は驚いたように目を丸くした。


「ほう。野蛮な星に行ってけろりとした顔で戻ってくるとは。なかなかタフだな君は」

「は、はあ」


 研究者と二、三言葉を交わした後、私は研究室を出た。

 通路を歩くと、所員たちがこちらを振り返る。  


「何あの子、見ない顔ね」

「リナ・マルデリタよ。一人で地球と交流してるらしいわ」

「はあ? なにそれ、変人?」

「野蛮な星に一人で行くなんて、考えられないわよねえ」


 職員の女子たちは、私の噂をしているようだ。

 この際、気にしないでおこう。


 私は研究所を出て、ワープステーションから実家に帰る事にした。


「ただいまー」


 普通に玄関で靴を脱いで中に入ると、母親がとぼけたような顔で出てきた。


「あら、リナ。もう戻ったの? 地球はどうだったの?」

「楽しかったよ」

「そう。ならいいんだけど。って、何その荷物?」


 私がバッグから取り出したゲーム機を見て、母は驚いたように目を見開く。


「地球の娯楽品だよ。私が検分するから、部屋に入れるね」

「ふうん。って、ええ!? そんなもの家に入れるの?」

「私の部屋だからいいでしょ!」


 私は荷物を自分の部屋にぶち込んだ。

 そして部屋の鍵を閉め、ゲームを設置していく。

 アメリカから大量のバッテリーをもらったから、これに繋げば電気はつく。

 実際にマルデアで販売するには、魔力で電気がつくようにしなきゃいけないけど。

 今日はちょっと置いておこう。


「えっふえっふ~!」


 私はその後、母親に怒られるまでゲームに没頭した。

 だってFinal Fantasia大好きだったのに6までしかやった事なかったもん。

 1995年で死んだんやもん。

 いきなり7のリメイクとか出てたら、そりゃやりまくるでしょ。

 地球のゲーム、めっちゃおもろい。




 それから数日、いや二週間くらい経ったかもしれない。

 私は地球の最新ゲームの魅力を存分に堪能……、検分した。


 その後、私はマルデアの魔法省に魔術通信(メール)を入れた。

 一応ちゃんとした業務なので、上には伝達しておかなければならない。


『地球に魔石をあげたら、娯楽品のゲームをくれたよ。

 あっちの世界のトップと一緒にメディアに露出して、交流をアピールしてきたよ』


 という旨の報告だ。


 部長からは「あっそう。好きにやれば?」みたいな返事が返ってきた。

 まあ、魔石を他所の星に輸出するなんて珍しい事でもない。

 これくらいはどうでもいいレベルの話なんだろう。


 とてもその……、放任主義だよね。

 うん。好きにやろうと思う。


 地球からマルデアへの連絡は、相変わらず全て私宛に送られてくる。

 アメリカとは毎日連絡を取り合う関係になっていた。

 こうなるともう、相手が政府だろうが何だろうが慣れてくるね。


 なんでも魔石と収縮ボックスが死ぬほど好評だから、できる限り持ってきてほしいとの話だ。

 とりあえずこちらの商品の価値はしっかりと地球に通用したらしい。

 ただ、これからやるべき事は沢山ある。


 貿易を通して、互いの星をより良い世界に導いていくと言ってしまったわけだからね。

 うん。壮大すぎるけど、大まかな目標としては次の二つだ。


 一。

 マルデアの魔術品を地球に輸出し、地球という星を少しでも便利でエコで安全な世界にする事。

 二。

 マルデアには楽しい地球の娯楽を輸入し、少しでも笑顔を増やす事、かな。


 御大層な感じになっちゃったけど。

 まあ単に、みんなで安心してゲームとかで遊べる世界にしたいだけだ。

 私の私利私欲丸出しである。


 あと、今はアメリカとだけ交流してるけど。

 一つの国に魔石を独占させるのはよくないから、その辺も釘を刺さなきゃいけない。

 それに、やはり故郷のある日本とも交流したい。

 前世の両親に会うのが、一つの目標でもあるからだ。


 でも「元日本人だから日本に行きたいです」なんて、さすがに言えない。

 国交という形で自然に日本に行く成り行きを作り上げるしかない。

 大変そうだけど、一つ一つ地球とのやり取りを進めるしかないようだ。


「お母さん、明日から出張してくるね」

「あら、また地球に行くの? 二日くらいかしら」


 母に報告すると、彼女は軽い感じで問いかけてきた。


「ううん。今回はちょっと長くなると思う」


 次の訪問は、本腰を入れる事になりそうだった。


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